報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「浅草へ戻る」

2019-12-25 19:48:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月25日21:08.天候:晴 東京都荒川区町屋 都営バス町屋駅前停留所]

 夕食も終わり、稲生達は浅草のホテルに戻ることにした。
 幸いレストランの最寄り駅から浅草まで、路線バスが出ている。

 稲生:「いやー、今日はいっぱい歩いたなぁ……」
 ルーシー:「温泉が良かったね。お土産もあるし」

 ルーシーとマリアは両手にペーパーバッグを抱えている。
 1つは箱根湯本で買った土産、もう1つは原宿で買ったブレザーやスカートなどだ。

 エレーナ:「お、バス来たぜ。あれか?」
 稲生:「草41系統……で、間違いない」
 エレーナ:「浅草って書いてあるからガチだろ?」
 稲生:「まあ、そうなんだけど……」

 前扉が開く。
 反対側の足立梅田町行きは賑わっていたが、浅草方面は空いていた。

 稲生:「ここに運賃を……入れなくてもいいか」

 今やルーシーですらSuicaで乗っている。
 前回来日した時に、お土産代わりに買ったものだ。
 今はチャージして乗っている。
 後ろの2人席に座った。
 もちろん、稲生はマリアと一緒に座る。

〔発車致します。お掴まり下さい〕

 バスはドアを閉めて発車した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。この都営バスは三河島駅前、鶯谷駅前経由、浅草寿町行きでございます。次は荒川五丁目、荒川五丁目でございます〕

 マリア:「! そういえば、明日は成田空港までバスで行くんだって?」
 稲生:「そうです。もうバス会社に貸切バス1台手配してますよ」
 マリア:「大師匠様のフライトに合わせてチェックアウトでしょ?行き先が変わって、時間は……」
 稲生:「ああ、それは大丈夫です。本来の予定ですと、成田空港で時間を潰すことになっていたんですよ。ほら、ローマ教皇も明日は羽田空港から離日しますから、僕達はそれに巻き込まれないように、都内を脱出するということなんです」

 モスクワ行きは午前中に離陸するのだが、元々の出発予定の変更をする必要は無いという。

 稲生:「そういうことなんで」
 マリア:「それならいいんだけど……。今バスに乗ってみて、ふと気づいた」
 稲生:「飛行機のチケットはアナスタシア先生が取ってくれたみたいですし、僕達は新幹線のキップだけ確保していればいいんですよ」
 マリア:「なるほど」
 エレーナ:「電車のキップはいいのか?」

 後ろに座っているエレーナがヒョイと顔を出す。

 稲生:「ん?」
 エレーナ:「成田空港で大師匠様を見送った後は、電車で東京駅だろ?」
 稲生:「それについては何の指示も無いから、何もしなかったけど……」
 マリア:「ベイカー大先生と御一緒でしょ?ハイヤーを手配するとかになるんじゃないの?」
 稲生:「成田空港でハイヤーの手配は可能ですけどね。ちょっとそういうのは現地に行って確認してみないと……」
 エレーナ:「イリーナ組とは別行動になるかもしれないぜ?」
 稲生:「いや、それはないだろう。新幹線を一緒に乗るってことは、東京駅までも一緒になるってことさ」
 ルーシー:「私からもベイカー先生に確認してみるよ」

 ルーシーは水晶球を取り出した。

[同日21:30.天候:晴 台東区花川戸 浅草ビューホテル]

 最寄りのバス停でバスを降りた稲生達は、その足で宿泊先のホテルに戻った。
 ロビーにはイリーナが座っていた。

 稲生:「あっ、先生」
 イリーナ:「やあやあ、仲良くやってるねぇ」
 マリア:「師匠、これお土産です」
 稲生:「箱根の温泉に行って来たんです」
 イリーナ:「おや、まあ……。美味しそうな饅頭だねぇ」
 稲生:「入浴剤もありますので、帰った時に温泉気分が味わえますよ」
 イリーナ:「それは素晴らしい。というか、今夜から使わせてもらうわよ」
 稲生:「おっ、そうでした」
 エレーナ:「イリーナ先生が自らここにいらっしゃるというのは……」
 イリーナ:「ああ。私はこのコ達に用があるだけだから、あなた達はそれぞれの先生にお土産渡して来なさい。皆、部屋にいるから」
 ルーシー:「大師匠様の御相手で忙しいのでは?」
 イリーナ:「それは大丈夫。ダンテ先生はVIPとの会合で忙しく、皆して手持無沙汰だから。私はボランティアで占いやってるだけ」
 マリア:(カネを請求しないだけで、客から出してくるチップは受け取ってるな……)
 ルーシー:「それじゃ、私はこれで失礼します。マリアンナ、明日その服ね」
 マリア:「ああ、分かった」
 エレーナ:「じゃ、失礼しまっす」

 ルーシーとエレーナは先にエレベーターに乗って行った。

 イリーナ:「何だい?マリアも新しい服を買ったのかい?」
 マリア:「ルーシーが欲しい服があるっていうんで一緒に付き合ったんですけど、私も欲しくなっちゃって……」
 イリーナ:「新しいブレザーとスカートか。ま、いくら制服代わりとはいえ、いつも同じ服だと飽きるでしょうから、たまには違う服を着てもいいんじゃない」
 マリア:「はい。こっちのは少し生地が厚いので、冬用に着れそうです」
 イリーナ:「ふむふむ」

 今着ているマリアのブレザーが少し生地が薄めのモスグリーンのダブルだが、今度買ったブレザーは生地が厚めのダークグリーンのダブルである。
 ルーシーがシングルを着ているのとは対照的だ。
 マリアとしては、シングルよりもダブルの方が大人っぽく見えることを期待して着ているようなのだが、実際は大して変わらない。
 まあ、そりゃそうだ。
 男は女性と対面した時、顔と胸を見るのだから。

 稲生:「それで先生、何かあったんですか?」
 イリーナ:「実は言うの忘れてたんだけど、成田空港から東京駅までのベイカー組の分のチケットの購入を頼んでなかったわね」
 稲生:「あ、やっぱそうですか」
 イリーナ:「ええ。で、そこにポーリン組も乗っかるってよ」
 稲生:「エレーナ達も」
 イリーナ:「もっとも、ポーリン組は東京駅で降りるだろうけどね」
 稲生:「エレーナが、ワンスターホテル経由で魔界へ行くとか言ってましたからね。分かりました。それじゃ、大師匠様をお見送りした後、東京駅に行く“成田エクスプレス”のキップを買ってくればいいんですね」
 イリーナ:「そう。これがカード。駅までタクシー使っていいから」
 稲生:「ありがとうございます」

 稲生はイリーナからプラチナカードを預かった。

 稲生:「“みどりの窓口”は上野駅が近いと思うので、そこまで行って来ます」
 マリア:「私も行く。荷物を置いて来るから」
 稲生:「分かりました。じゃあ、僕も部屋に荷物置いてきます」
 イリーナ:「慌てなくていいよ。タクシーなら、ホテルの前から乗れるから」
 稲生:「はい」

 アテンド役の仕事は、ダンテが離日した後も続く。
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“大魔道師の弟子” 「洋食レストラン」

2019-12-25 15:31:55 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月25日19:30.天候:晴 東京都荒川区荒川 某洋食レストラン]

 店員:「お待たせしました。先にドリンクの方、お持ちしました」

 稲生達は再び千代田線に乗り、今度はそこから町屋駅まで向かった。
 駅近くある某洋食レストランで夕食を取る為である。
 既に予約はしていた。

 エレーナ:「腹減ったーぜ」
 ルーシー:「あんた、さっきクレープ食べてたでしょ?」
 エレーナ:「あぁ?甘い物は別腹だぜ」
 ルーシー:「太ってホウキに乗れなくなっても知らないよ」
 エレーナ:「魔界でダイエットしてるから心配すんな」

 魔王城旧館にて、デストラップを体を使って解体するエレーナの図が水晶球に浮かび上がった。
 旧館は内戦で半壊したが、今でも即死トラップがそこかしこで生きており、再建するも解体するもこれらのトラップをまず解除してからでないと工事ができない為、これらを何とかするアルバイトが随時募集されていた(もちろん経験者のみで)。

 エレーナ:「カネの為なら何でもやるぜ。但し、きれいなカネな」
 ルーシー:「そういった意味では働き者だね」
 エレーナ:「だろォ?」
 稲生:「さあさあ、取りあえず飲み物でも……」

 稲生は中生、魔女達はワインをデカンタで。
 それで腹を誤魔化していると、やっと注文した料理が来た。
 ハンバーグステーキだったり、ビーフステーキだったり。
 あえて日本食にしなかった稲生。

 エレーナ:「日本のステーキは脂身が多くてさ、でも当たりの所は当たりなんだよな」
 ルーシー:「まあ、それは言えてるけど……。アメリカに行った時はどうだったの?」
 エレーナ:「そしたらさぁ、日本の場合は当たりハズレの格差が小さいんだよ。アメリカはとにかく当たりハズレの差がデッカい」
 ルーシー:「州や地域にもよるでしょ?」
 エレーナ:「いや、それがそうでもない。同じ州や地域でも店によって、ヘタすりゃ同じ店でもコックによって当たりハズレが大きいんだぜ」
 稲生:「日本のようにマニュアル化されてないんだろうね。日本人からすれば、硬い赤身肉に変なソースが口に合わないとか言うね」
 エレーナ:「肉は私も赤身の方が好きだぜ。ただ、ソースに関しては日本人と同意見だ。変な魔法でも使ってんのかとツッコみたくなる味とかな」
 ルーシー:「どう対処してた?」
 エレーナ:「あ、こりゃダメだと思ったら、『ソース掛けんな。塩とコショウだけでいい』って言っとく」
 稲生:「それで味あるの?」
 エレーナ:「赤身肉なら大丈夫だぜ」
 稲生:「ふーん……。そういえばオーストラリア産のオージービーフも、欧米向けとかあるみたいだけど、日本だけわざわざ『日本向け』があるらしいからね。国1つピンポイントで」
 ルーシー:「多分、特別に脂身の多い肉を輸出してるんでしょうね。Shimofuriって言うの?」
 稲生:「そうそう。霜降り」
 エレーナ:「ああ、稲生氏。あと、アメリカでステーキ食う時の注意点を1つ」
 稲生:「何だい?」
 エレーナ:「稲生氏はステーキはどんな焼き方がいい?」
 稲生:「そうだなぁ。僕はレアかミディアムレアかな」
 エレーナ:「この店が当たりの理由の1つに、ちゃんとレアで焼いてと言ったらレアで焼いて来ることだぜ」
 稲生:「当たり前だろう?」
 エレーナ:「いや、それがアメリカではそうでもないみたいだぜ。少なくともマフィアの情報探りにニューヨークを歩いていて、で、何軒かレストランでステーキ食ったんだが、まずレアで焼いてこない」
 稲生:「え?」
 エレーナ:「ウェルかウェルダンで来るんだ、これが」
 稲生:「へえ……」
 エレーナ:「だからウェイターにやかましく、『レアで焼いて来いよ、レアで。分かってんな、あぁ!?』と言っとく」
 稲生:「それなら大丈夫でしょ」
 エレーナ:「それがそうでもない。それでも良くてミディアムで来る」
 稲生:「ええっ?」
 エレーナ:「そこでさっきのウェイターを呼んでアメリカンイヤミだ。『私の故郷ウクライナじゃ、これはウェルダンって言うんだけど、アメリカではこれがレアって言うのか?』ってな」
 稲生:「ウェイターさんの反応は?」
 エレーナ:「2つ。そこで良心的な店かそうでないかが分かる。どっちの話から聞きたい?」
 稲生:「じゃあ、悪質な店の方から」 
 エレーナ:「了解。『はい、さようでございます』っていけしゃあしゃあと答えてチップを要求してきやがる」
 稲生:「そうか。アメリカはチップ社会だもんね」
 ルーシー:「エレーナが外国人だと知って、ナメてるね」
 稲生:(日本人……というかアジア人相手なら人種差別意識でそんな嫌がらせしてきそうな店がありそうだけど、欧米社会で優遇されている白人でもこんなことあるんだ)

 白人同士でもヒエラルキーがあることを一瞬忘れていた稲生だった。
 特にウクライナはかつての旧ソ連の1つ。
 アメリカ人の中で旧ソ連……どころか、今のロシアも嫌いな類の者なら有り得るかもと思う。

 稲生:「で、そんなことされたらどうするの?」
 エレーナ:「とっとと店を出て行くさ。そして3分後にはコントロール不能に陥った、オイル満タンのタンカートラック(タンクローリー)が店に突っ込んでくるって寸法だ」
 稲生:「怖っ!」
 エレーナ:「魔女をナメるとこうなる」
 ルーシー:「まあ、しょうがないね」
 マリア:「私なら人形達に放火させるかな」
 稲生:「……!!」

 エレーナの過激な発言をさも当然のように同意する魔女達に、稲生は一瞬背筋が寒くなった。

 エレーナ:「稲生氏はバスでも突っ込ませるか?」
 稲生:「やめてくれ!」
 マリア:「良心的な店の場合は?」
 エレーナ:「ああ。それは『申し訳ありません』と素直に謝ってくれる。で、『私はちゃんと厨房の者に伝えました。これは厨房のスタッフの責任です。すぐに焼き直させて参りますので、しばらくお待ちください』と、言ってくれる」
 稲生:「それから?」
 エレーナ:「で、また新しい肉が来るわけだが、今度はウェイターを下がらせずに、肉のど真ん中をナイフで真っ二つに切ってやる。すると大抵は、ようやくレアで焼かれてるって寸法だぜ」
 稲生:「ほう!」
 エレーナ:「そこでやっとこさチップを渡してやると、ウェイターもホッとしてくれるってわけだぜ」
 稲生:「なるほどねぇ……」
 ルーシー:「ウェイターも自分のチップが欲しいからね。客の機嫌を損ねるとチップがもらえず、生活できなくなるからね。なるべく機嫌を損ねないように、自分の責任ではないことも明確に伝えるわけね」
 稲生:「チップ制の無い日本とはだいぶ違うなぁ……」

 ただの客ならチップがもらえないだけで済むが、これが魔女だとタンクローリーの特攻というオマケ付き!
 というか、都合良くタンクローリーが店の近くを走っているものだ。
コメント (1)
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