報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「ホテル旧館]

2019-02-13 19:36:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日10:00.天候:曇 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠・1Fフロント]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 慰安旅行で犬吠埼温泉に一泊した私達は、ホテルを引き払うところであった。

 フロント係:「あ、こちらのカードキーはどうぞお持ち帰りになってください」
 愛原:「えっ、いいの?」

 このホテルの客室のドアはカードキーで解錠するタイプ。
 他の宿泊客は緑色のカードなのに、私達だけはゴールドであった。
 株主優待で宿泊したからなのだろうか。

 フロント係:「はい。カードキーの情報は毎日変更しておりますので、このカードは今日から使えなくなります」
 愛原:「あ、そういうこと」

 近代的なオフィスの社員証みたいなものだな。
 チェック・アウトの手続きが終わると、私達はホテルをあとにした。
 因みに高野君達は、先に出発していてもらっている。

 愛原:「それじゃ行くか」
 高橋:「はい」

 公道に出るのとは逆方向、駐車場の方向に行った。
 確かに駐車場部分は広くなっていて、道はその先まで続いている。
 が、その入口には『この先、工事中』という立て看板が立っていた。
 駐車場の先へ行くと、いきなり道が荒れ始めた。
 ここから完全に管理が放棄されているといった感じだ。

 愛原:「一瞬、林っぽい中に入って行く感じがするから、いい隠れ場所だな」
 高橋:「もうこの時点で、何らかのクリーチャーに遭遇しそうな感じですよ」
 愛原:「まさか……」

 アスファルトがヒビだらけで、時々剥がれてしまっている。
 車で走ろうものなら、きっとガタガタに揺れることだろう。
 そんな道を進んで行くと、本当に終点に着いた。
 ロータリーになっていて、道はここからまた駐車場や新館の方に折り返しできるようになっている。
 で、その真正面には旧館のエントランスがあった。
 リニューアルされた新館と比べれば、とても殺風景だ。
 昭和時代の急ピッチで建てられたホテルの別館そのものである。

 高橋:「先生、鍵が掛かってますよ?」
 愛原:「そりゃそうだろ」

 新館は自動ドアだったが、こっちの旧館は前後に開閉するテンパドアだった。
 私があちこち開けようとすると……。

 愛原:「あっ!」

 1ヶ所だけ鍵が開いていた。

 高橋:「先生……」
 愛原:「なるほど。斉藤社長の依頼は本当らしい」
 高橋:「どうしますか?」
 愛原:「もちろん入るさ。準備はいいか?」
 高橋:「大丈夫です」

 私達は旧館内部に入った。
 こちらも新館(本館)同様、2階まで吹き抜けのエントランスロビーがあった。

 愛原:「でもやっぱり荒れてるな」
 高橋:「ほとんど工事なんてしてなさそうですね。で、放置されてから何年も経ってる」
 愛原:「ああ」

 ガラスが割れてる所は木の板を張って補修したようだが、これが尚更廃墟感を出している。
 また、採光も悪くなり、本来なら明るいエントランスが薄暗くなってしまっていた。
 一応、懐中電灯は持って来てるけどね。

 高橋:「先生、どこを探しましょうか?」
 愛原:「旧アンブレラが出入りしていたわけで、その痕跡を見つければいいわけだよ。この場合、地下の施設って感じだな」
 高橋:「じゃあ、地下へと下りてみま……」

 その時、高橋が1つの像に目を留めた。

 愛原:「どうした?」
 高橋:「これ……ああ、やっぱりアンブレラの奴らが出入りしてたっぽいです」
 愛原:「どうして分かる?」
 高橋:「この銅像の台座に、3つの丸い窪みがあるじゃないですか」
 愛原:「ああ、あるね」
 高橋:「この窪みに合うメダルを嵌め込んでやると、銅像が動いて地下秘密施設への入口が開くって寸法なんじゃないかと」
 愛原:「今からこのメダルを3つ探せって?何の手かがりも無いのに?」
 高橋:「ちょっと無理っぽいですね」
 愛原:「当たり前だろ。1つ探すだけでも日が暮れるよ。とにかく、それっぽい物を見つけただけでも報告できるんだ。他を探そう」
 高橋:「はい」

 非常階段で地下へ向かう階段を下りてみる。
 所々壁が崩れているのは、震災の揺れでやられたのだろうか。

 愛原:「こっちは真っ暗だな」
 高橋:「やっぱり停電してますか?」
 愛原:「当たり前だろ」
 高橋:「でもさっき、フロントの下にあった冷蔵庫、電源入ってましたよ」
 愛原:「はあ!?」
 高橋:「何も入ってませんでしたけどね」
 愛原:「おい、ウソだろ?」

 地下室は機械室になっている。
 高橋が入ってみて、すぐ横のスイッチに手を伸ばすと……。

 高橋:「あっ、点いた」

 薄暗いながらも照明が点いた。

 愛原:「マジかよ!」

 この旧館は停電していたわけではなかったのか!
 機械室内を一通り探索してみる。

 愛原:「あ、バルブハンドル見っけ」
 高橋:「定番ですね。俺はバールのようなものを見つけました」
 愛原:「いや、だからバールだろ。ニュースでも、『犯人はバールのような物で被害者を殴り付け……』みたいなこと言うけど、『いや、バールだろ!』っていつも突っ込んでる」
 高橋:「さすが先生です。これでハンドガンとか落ちてたらガチなんですけどね」
 愛原:「ガチ過ぎて、それだけで探索は中止だ」

 私が拾ったのはドライバーセットだったが、こんなものでも何かの役に立つかな。

 愛原:「ここから更に下に行けないかね?」
 高橋:「それっぽそうなのは見当たらないですねぇ……。やっぱあの銅像を作動させないと……」
 愛原:「まだ言うか。一旦、上に戻ろう」
 高橋:「はい」

 私達は再びエントランスホールに戻った。

 愛原:「しょうがないからホテルの奥を探索しよう」
 高橋:「そうですね」

 思い当たる節があって、1階の渡り廊下。
 そこの入口は観音開きの防火戸が閉ざされていた。
 上を見ると、『本館↑』という看板がぶら下がっていた。
 この渡り廊下を進んで行くと、今の新館側に通じているのだろう。
 だが向こう側からも防火シャッターが下ろされていて、旧館へは行けないようになっている。

 愛原:「ん?何か聞こえないか?」
 高橋:「え?何がですか?」
 愛原:「あの、暗い所から何か聞こえるんだが……」

 それは何だと思う?

 1:呻き声
 2:話し声
 3:水の音
 4:波の音
 5:風の音
コメント (2)
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“私立探偵 愛原学” 「慰安旅行の終わり」

2019-02-13 10:07:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日07:00.天候:晴 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠719号室]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 昨日から犬吠埼温泉へ慰安旅行に来ている。
 で、朝が来たわけだが……。

 愛原:「うん……」

 私は枕元に置いたスマホに手を伸ばして、アラームを止めた。

 愛原:「おい、高橋。朝だぞー」

 私は隣の布団に寝ている高橋の布団を揺り動かした。

 高橋:「……はっ!?しまった!寝過ごした!」
 愛原:「いや、まだ7時だよ。朝飯は8時からだから」
 高橋:「俺が先生にモーニングコールをさせて頂く予定だったのに……!」
 愛原:「あのなぁ……」

 私が呆れていると、障子の向こうから高野君の声が聞こえた。

 高野:「男子達、起きてるー?」
 愛原:「ああ、今起きた」
 高野:「いい朝日だよー」
 愛原:「本当か」

 私は起き上がって、洋室の方に行ってみた。

 愛原:「あれ?リサと斉藤さんは?」
 高野:「朝早くに目が覚めたんで、お風呂入ってくるって言ってました」
 愛原:「さすが若いコは元気だなー」

 もっとも、帰る頃には遊び疲れて電車の中で寝ているというイメージが私の中でできていた。

 高野:「雲間から見える朝日がステキです」
 愛原:「確かに」

 高野君はデジカメを持って来ると、それで窓の外の景色を撮り始めた。
 なるほど。
 千葉県の外房海岸は皆こんな感じに綺麗に朝日が拝めるのだろう。
 場所は違えど、これなら彼の日蓮大聖人もあの朝日に向かって立教開宗したくなるというものだ。

 高野:「……本当にあの旧館を探索するつもりですか?」
 愛原:「斉藤社長からの依頼だ。無碍に断るわけにもいかんよ」
 高橋:「どうせ今は廃墟だろ?アンブレラの隠し施設を見つけたところで、結局それを発見したってだけに終わるさ」

 少なくとも、ゾンビとかはいないだろうな。

 高野:「分かりました。あのコ達は私が看ておきますので」
 愛原:「うん、よろしく頼むよ」

 ぶっちゃけ事務所の面々全員出動でも良さそうだが、斉藤さんを1人にするわけにはいかないし、かと言って一緒に連れて行くわけにもいかない。
 やはりここは、私と高橋で行くのがベストだろう。

 高野:「私もお風呂行きますけど、どうします?」
 愛原:「俺はもう昨日2回も入ったからいいよ」

 実は部屋に戻った後で、もう一度行っていた。

 高橋:「先生が行かれないのなら、俺も行きません」
 高野:「じゃあ、私だけ行って来るから。多分あのコ達、そろそろ戻って来ると思いますけど」
 愛原:「ああ、分かった」

 高野君が大浴場に行った後、私は洗面所に行って顔を洗うことにした。

 高橋:「先生、いつも思うんですけど……」
 愛原:「何だ?」
 高橋:「こういう温泉ホテルの部屋にある風呂って、どういう場面で使うんスかね?」
 愛原:「んん?」
 高橋:「ビジホはそもそも大浴場なんて基本無いから、部屋の風呂を使いますけど、ここは温泉があるじゃないですか。そっちに入ればいいのに、こういう風呂って必要なんですかね?」
 愛原:「必要な人は必要みたいだよ」
 高橋:「???」
 愛原:「例えばこのホテルの大浴場には、混浴風呂が無いだろ?」
 高橋:「無いですね」

 もっと高い料金を出せば、その部屋専用露天風呂の付いた部屋なんかもあるようだが……。

 愛原:「カップルで来て、混浴を楽しみたい時とか……」
 高橋:「え?それ用ですか!?」
 愛原:「あとは家族で来て、まだ大浴場に入れない小さな子供をお風呂に入れたい時用とか……」
 高橋:「あー、それなら分かります」
 愛原:「ま、確かに俺達には必要無いな」
 高橋:「先生、お背中流しますよ!?」
 愛原:「いらんっちゅーに!」

 すると……。

 リサ:「ただいま」
 斉藤:「戻りましたー」

 JC2人組が戻って来る。

 愛原:「おう、お帰り。途中で高野君に会わなかったか?」
 斉藤:「さっきエレベーターで会いました」
 愛原:「やっぱりそうか」
 リサ:「愛原さん達はお風呂行かない?」
 愛原:「オレ達はもういいよ」
 高橋:「先生が行かれるなら俺は行くし、行かれないのなら行かない」
 斉藤:「? どういうこと?」

 斉藤さんは高橋の言っていることが分からなかったようだ。
 いや、まだ12〜13歳の少女が理解してはいけない内容ではあるのだが。

 高橋:「弟子として師匠たる先生に、断固としてお応えして参る決意だ。先生に常にお供をさせて頂くのも、弟子の本分だ。分かったか?」
 斉藤:「よ、よく分かんないけど、カッコいい気はしました」
 高橋:「それでいい」
 愛原:「風呂はどうだった?」
 斉藤:「何か、昨日より熱かったです」
 愛原:「だろうな。そういうもんだ」
 斉藤:「えっ?」

 源泉の温度が低く、ボイラーで沸かす必要のある温泉の場合、夜間はそのボイラーを止めることがある。
 夜中に入ると風呂が温い経験をしたことのある人は、正にそれだ。
 しかし朝になると再びボイラーを稼働させるので、その分昨日よりも熱くなることがある。
 恐らく今その現象が発生しているのだろう。

[同日08:00.天候:晴 同ホテル1F・和食レストラン]

 昨夜夕食を取ったレストランと同じ場所で、今度は朝食を取ることになる。

 リサ:「愛原さん、ホテルはいつ出発する?」
 愛原:「チェックアウトは10時までなんだ。それまでゆっくりしていいよ」
 高野:「2人とも。このお2人は今日別行動されるから」
 リサ:「ええっ?」
 愛原:「ちょっと探偵の仕事が舞い込んでね。しかも偶然なことに、その現場というのがこの近くなんだ」
 斉藤:「それは今日中に終わるんですか?」
 愛原:「そのつもりだよ」

 せめて、東京行きの最終電車までには終わらせたいものだ。

 リサ:「場所はどこ?」
 愛原:「うーん……それはちょっと秘密なんだ。この近くであることは間違い無いんだけど……」
 リサ:「タイラント君は危ないよ?私が行って言う事聞かせないと……」
 愛原:「いや、まさか。タイラントはいないだろう」

 私はこの時、リサが何を言っているのかよく分かっていなかった。
 リサのことだから、私がまたバイオハザード絡みの事件を追うものと思ったのだろう。
 確かに旧・日本アンブレラ社の実質的な保養施設を探索しようというのだから、それ自体は間違ってはいない。
 だが、私はもう少しリサの話を聞くべきだったと後悔することになる。
コメント (3)
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