報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「探偵の慰安旅行」 2

2019-02-09 18:53:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月19日15:28.天候:晴 千葉県銚子市 JR銚子駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は慰安旅行で、犬吠埼へ向かっているところだ。
 私達を乗せた特急“しおさい”5号は、定刻通りに運行している。
 総武本線をひたすら進む電車で、東京駅を出発後、千葉駅までの複々線区間では黄色い各駅停車を何本も追い越し、千葉駅からは複線区間となり、それでもまだベッドタウンといった風景の中を進む。この複線区間は佐倉駅まで続く。
 佐倉駅から先は単線となるが、見た目には隣にもう一本線路が並行しているので、まだ複線が続くという錯覚になってしまうが、これは分岐する成田線の線路。成田空港へ向かう“成田エクスプレス”は、そちらを通るというわけだ。
 一方、私達の方はローカルチックな雰囲気の中、別方向に向かう。
 尚、終点の銚子駅の1つ手前の松岸という駅で別の線路が合流して来るが、これは成田線の線路。
 ん?何かおかしいかな?
 成田線という路線は微妙に複雑な構造らしくてね、成田空港へ向かう方が支線で、こっちの再び総武本線に合流して来る方が本線なんだって。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、銚子です。お出口は、左側です。銚子電鉄線は、お乗り換えです。……〕

 愛原:「因みに松岸駅の周辺には、日蓮正宗の末寺さんがあります」
 高橋:「え、何ですか?」
 愛原:「いや、何でもない。そろそろ降りる準備をしないとな」
 高野:「どうせ終点なんだから、慌てなくても……」
 愛原:「随分、ゴミを出したなぁ。片付けるの大変だぞ」
 高野:「取りあえずまとめて、駅のゴミ箱にでも捨てておきましょう」
 愛原:「そうだな」
 高野:「あなた達も降りる準備しなさい」
 リサ:「はーい」
 斉藤:「はーい」

〔「……お乗り換えのご案内です。銚子電鉄線をご利用のお客様は、階段を上りまして、銚子電鉄線乗り場から発車致します。今度の各駅停車、外川行きは15時54分の発車です。……」〕

 愛原:「乗り換え、超余裕」
 高野:「さすがはローカル線ですね」

 こうして特急“しおさい”5号は定刻通りに銚子駅に到着した。
 特急列車らしく、1番改札口に近い1番線に到着したのだが、銚子電鉄に乗り換えたい客はちょっと不便だ。
 何故なら……。

 清掃員:「ご乗車ありがとうございましたー。ゴミはこちらへどうぞー」
 愛原:「あ、そうか!」

 新幹線でもそうだが、特急でも終点で折り返す電車では清掃員が待機していて、それまで乗って来た客のゴミをドアの横で受け取るようなことをしているのだ。
 そこはラクで助かったのだが……。

 愛原:「銚子電鉄はどこだ?」
 高橋:「反対側のホームに向かった先らしいです」
 愛原:「なっにー!?」

 乗り換えに余裕はあるのだが、こういう罠もあるわけか。
 1番線は特急と一部の普通列車が発着し、反対側の2番線は総武本線普通の大半、そしてその隣の3番線は成田線普通の大半が発着する。
 要は1面2線の駅ってことだ。
 で、銚子電鉄はというと……。

 愛原:「ん?あれか?」

 私が跨線橋を渡っている時、そこから見えた小屋っぽいもの。
 で、その先にある切り欠きホーム。

 高橋:「そのようですね」

 なるほど。
 あそこでJRのキップは回収され、改めて銚子電鉄線のキップを買えということか。
 尚、連れのJC2人は元気良くさっさと先に行ってしまう。
 因みにリサはショートパンツから先の生足が目立つ。
 斉藤さんがスカートながら、下にレギンスを穿いているのとは大違いだ。
 BOW(Bio Organic Weapon)はこのくらいの寒さは「寒さ」に該当しないらしい。

 愛原:「まださすがに電車は来てないか」
 高橋:「そうですね。俺が呼びに行きましょうか?」
 愛原:「ああ、そうだな。……って、おい!」
 高橋:「え?何ですか?」
 愛原:「何で電車を呼びに行くんだよ!?」
 高橋:「何ですか?」
 愛原:「タクシーを呼ぶのと違うんだよ!どうせ折り返しの電車が来るだろう!」
 高橋:「はあ……」

 しかし、小屋みたいなものは待合室だった。
 改札口みたいなものもあったが、そこに駅員はいなかったし、だいいち券売機の類すら無い。
 一体、どうなっているのやら……。

 斉藤:「海の匂いがする」
 愛原:「はは、そりゃもうこの時点で海は近いからね。これからもっと海に近づく為に、電車を乗り換えるってわけさ」

 私は斉藤さんにそう答えた後で続けた。

 愛原:「実家が埼玉じゃ、なかなか海に行く機会は無いでしょう?」
 斉藤:「いや、そんなことないですよ。この前の夏休み……まだリサさんが転校してくる前は、ニュージーランドまで行って来ましたから」
 愛原:「……東北ニュージーランド村?」
 斉藤:「と、東北!?いえ、ニュージーランドですよ?」

 彼女は大製薬会社の代表取締役の御嬢様であった。
 格の差というか、貧富の差を見せつけられる。

[同日15:54.天候:晴 千葉県銚子市 銚子駅・銚子電鉄線ホーム→銚子電鉄2000形電車先頭車内]

 発車の10分前には折り返しの電車がやってきた。
 全身緑色に塗られていたので私は東急電鉄の車両をイメージしてしまったが、そうではなく、元々は京王電鉄の車両だったらしい。
 それが四国の伊予鉄道に譲渡され、そして銚子電鉄に引き取られて今に至るとのこと。
 フロント部分にはワンマンの表示がしてあったが、どうもそうではなく、車掌が乗るようだ。
 で、発車する時にはちゃんとホームに発車ベルが流れる。
 車掌は女性で、何故か前部運転台に運転士の横に立って、そこからホームを監視してドア扱いをしていた。
 ドアチャイムのピンポンピンポンの音色は確かに京王っぽい。

〔発車します。ご注意ください〕

 すぐ横に運転士がいるというのに、車掌はわざわざ発車合図のブザーを押している。
 こんなといったら失礼だが、ローカル鉄道でもちゃんと運転取扱規則を厳守している所は日本で感じだ。

〔お待たせ致しました。この電車は下り、外川行き、ワンマン電車です。……〕

 車掌:「乗車券をお持ちでない方、いらっしゃいますかー?」

 すぐに車掌が改札にやってくる。
 なるほど。
 運転要員というよりは、特別改札要員としての役割の方が大きいのかな。
 私達はすぐに申し出た。

〔……次は仲ノ町、仲ノ町。『パールショップともえ』仲ノ町でございます。降り口は、左側です。この駅には駅係員がおります。ヤマサ醤油へは、こちらでお降りください。ホームが段差となっておりますので、お降りの際はお気をつけください。次は仲ノ町、『パールショップともえ』仲ノ町に停車致します〕

 車掌:「ありがとうございました」
 愛原:「どうも……」

 車掌から乗車券を買うと、それは車内補充券と呼ばれる。
 最近のはレシートみたいな紙質なのだが、これは昔ながらのヤツだ。

 斉藤:「初めて見るキップね……。Suicaは使えないの?」
 愛原:「一気に昭和にタイムスリップだな」

 これでますます旅情が高まった。
 乗り換えはちょっと大変だったが、その甲斐はあったようだ。
コメント (2)
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“私立探偵 愛原学” 「探偵の慰安旅行」

2019-02-09 08:33:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月19日13:00頃 天候:晴 JR東京駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は我が事務所のメンバー+αを伴って、慰安旅行に出ることになった。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、東京駅丸ノ内北口です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください」〕

 都営バスを降りると、冷たい風が私達を襲う。
 早いとこレンガ造りの外観が特徴の駅舎の中に入らんと、着く前に風邪を引いてしまうなあ。
 それにしても……。

 斉藤絵恋:「リサさーん!きャハハハッ
 リサ:「サイトー、まじやばくね?」

 そうだなぁ……もはやこの2人……というか、斉藤絵恋さんの方がよっぽど友情の度合いを超えているというか……。

 高橋正義:「オマエら、マジヤバ」

 いや、オマエが言うな!

 高野芽衣子:「ほーら、ちゃんと前見て歩いて!危ないよ!」

 高野君がこの事務所の中では1番の常識人だな。
 私は寒風から逃げるように真っ先の駅舎の中に入った。
 東京駅丸の内側の出入口は、それだけで1つの観光スポットになっている。
 吹き抜け天井を見上げては、写真を撮る観光客も散見される。

 愛原:「それじゃ、キップは1人ずつ持とう」
 高橋:「俺、先生の隣がいいです!」
 愛原:「アホ、自由席だ」
 高野:「それじゃ、早めに行って並んでおきませんとね」
 愛原:「まあ、そういうことだな」

 つまりは乗車券と自由席特急券ということになる。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の特急“しおさい”5号、銚子行きは総武線地下ホーム2番線から発車致します。特急“しおさい”5号、銚子行きをご利用のお客様は総武線地下ホーム2番線へお越しください〕
〔Thank you for using JR East...〕

 東京駅などの巨大ターミナル駅では、このような自動放送が時々流れているので、特に私達のように千葉方面へ特急列車で向かう者は聞いてみると良い。
 知らないと罠が待っているからだ。

 高橋:「先生、総武線経由の電車なんですか?」
 愛原:「まあ、そういうことだな」
 高橋:「でしたら俺達、錦糸町から乗った方が楽だったんじゃ?」
 愛原:「指定席が全員分取れたら、錦糸町からにしたよ」

 やはり週末は観光客が多いのかねぇ。
 グリーン車は空いていたが、普通車指定席は空席が虫食い状態な程度だった。
 幸い私達が乗る特急は、同線内を走行する快速電車と違って東京駅が始発。
 そこから並んで席を確保するというのが、今回の私の想定だ。

 高橋:「でしたら、俺の後輩に頼んで東京駅から錦糸町駅まで席を確保……」
 愛原:「せんでいい」

 京葉線地下ホームは東京駅の最奥地にあるわけだが、こちら総武線地下ホームもなかなかどうして深い所にある。
 で、同じ千葉方面に向かう特急列車にしても、銚子行きや成田空港行きは総武線地下ホームだが、内房線や外房線は京葉線地下ホームから出るといった罠……というか、違いが待っている。

 愛原:「ああ、途中で何か色々買って行こう。確か、もう車販は廃止になっているはずだ」
 高橋:「マジっスか。先生をナメてますね」
 高野:「違うでしょ」

 地下に下りる最中、NEWDAYSに立ち寄ってお菓子やらジュースやらを買い込む。
 リサ達にとってはそれだが、やはり私はビールかな。

 高野:「先生、電車の中で飲み過ぎないようにしてくださいね」
 愛原:「ああ、もちろん分かってるよ」

 私は先に釘を刺された感じがした。
 事務所を出たところから、駅の中に入ったところまでサングラスを掛けていたのだが、地下に入ってからは外している。
 コートを羽織っていて、黒髪ショートにサングラスはどこかの女スパイみたいだ。

 愛原:「メインはやっぱり夕食だからな」

 私は缶ビールとおつまみを手に、そそくさとレジへ向かった。

[同日13:30頃 天候:不明 JR東京駅・総武線地下ホーム→総武本線4005M電車9号車]

 基本的に1番線と2番線は横須賀線が使用するようで、待っている間に横浜方面の電車が発着していった。
 港のヨーコ、ヨコハマ、ヨコスカー♪

〔まもなく2番線に、当駅始発、特急“しおさい”5号、銚子行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、9両です。……〕
〔「2番線、お待たせ致しました。2番線には13時40分発、特急“しおさい”5号、銚子行きが参ります。足元の黄色い点字ブロックの内側までお下がりください。グリーン車は4号車、自由席は1号車と6号車から9号車です。……」〕

 眩いヘッドライトを照らして地下トンネルの向こうから、フロント周りが黒い塗装がまず目に付く車両がゆっくりやってきた。
 折り返し先頭車となる車両に並んでいる私達の前を、今度は黄色く塗られた鮮やかな車体が通り過ぎる。

 リサ:「うっ……!」

 その時、リサが頭を抱えてフラついた。

 斉藤:「リサさん!?」
 リサ:(地下深いトンネル……プラットホーム……黄色い電車……)
 愛原:「どうした、リサ?」
 リサ:「別に……大丈夫……」

 頭の一部分を押さえていることから、何らかのフラッシュバックでも起きたのか、封じられた記憶が一瞬蘇り掛けたか……。

〔「ドアが開きましたら、前の方に続いてご乗車ください」〕

 とにかくドアが開いたので、私達は車内に入った。
 電車の中に入ると、早速席を確保した。

 高野:「先生、向かい合わせにします?」
 愛原:「ああ、そうだな」
 斉藤:「リサさん、こっちに一緒に座りましょ。ねぇ、本当に大丈夫なの?」
 リサ:「うん、大丈夫。ちょっと頭がズキンってなっただけ」

 やっぱりか……。
 しかし本当にマジで、リサの過去が分からないものだなぁ……。

〔「ご案内致します。この電車は13時40分発、特急“しおさい”5号、総武本線回りの銚子行きです。成東(なるとう)、八日市場回りの銚子行きです。佐原、水郷方面は通りませんのでご注意ください。停車駅は錦糸町、千葉、佐倉、八街(やちまた)、成東、横芝、八日市場、旭、飯岡、終点銚子の順です。……」〕

 愛原:「えーと……」

 私は座席に座ると、今度の行き先の犬吠埼温泉にあるホテルの概要が書かれたパンフレットを見ることにしたが……。

 愛原:「間接照明がちょっと暗いな」

 あ、それで読書灯が付いてるのかこの電車。

 高野:「1度は震災の影響で廃業になったホテルを、全日本製薬が運営会社の株式を購入したものらしいですね」
 愛原:「ああ、それで株主優待券……」

 さすがに筆頭株主ではないだろうが、大株主くらいの勢いだったりしてな。
 しかし、何だって風評被害辺りで廃業したホテルの株式を買ったりしたのやら……。
 今はだいぶリニューアルして、かなりきれいになったようではあるが……。

 時間になると電車はスーッと走り出し、間接照明だけの車内は駅停車時よりも更に薄暗くなった。
コメント (2)
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