
先週土曜日(2月27日)の朝日朝刊に吉田秀和さんの音楽展望が載っていた。今年はショパンの生誕200年ということでの記事であろうか、見出しに「ショパンはお好き? ピアニストが自分映す 大事な鏡」とあるように、ショパンを演奏した数々のピアニストをの一言印象記を連ねていた。それぞれのピアニストの特徴を平明に、しかし感じたことを正確に記しているので、一人ひとりが紙面から踊り出すようである。そういえばこの文章はながれがとても軽妙で艶があり、フランソワーズ・サガンの「ブラームスはお好き」の向こうを張るところなんぞ、96才を超えた人の手になるものと思う人はまずいないだろう。頭脳の柔軟さが羨ましい限りである。
昔から吉田さんの文章には惹かれていて、吉田秀和全集全10巻が白水社から出るたびに一冊ずつ買い足していったものである。その後全13巻さらに全16巻と膨れあがり、ここまでは箱入りの装本であった。17巻からが第四期目の出版になるが、すでに大学を退職して生協書店でしていたようにジャンルを問わず本棚を一巡する機会が無くなったので、つい音楽書棚とは疎遠になりその出版を見逃していた。17巻はとりあえず買ったが1冊が5000円前後となるとちょっと考えもので、全24巻で完結しているものの後が続いていない。音楽の話に加えて旅や絵の話もふんだんに出てくるので、気の向くままに開いたページを読むたびに多彩な世界に連れて行かれるのがなかなか楽しい。手持ちの全集本だけでこの楽しみは十分に味わえるが、家族が私の本を処分を考えるようになった時に、やはり全集本は揃っていた方が値が出る?だろうから、と考えたりしている。

閑話休題。「ショパンはお好きに?」が取り上げたピアニストは、サンソン・フランソワ、アウラ、ルービンシュタイン、アシュケナージ、エミール・ギネス、ホロヴィッツ、ラフマニノフ(ピアニストとしての)、リヒテル、リチャード・グード、ブレンデル、アルゲリッチなどで、吉田さんのように生の演奏を聴いたのではないが、そのうちの何人かはLPで聴いている。リヒテルの演奏を『凄いショパン。でも、ショパンがきいたら「君のは少し強すぎるよ、僕はベートーヴェンではないよ」といったのじゃないかしら』と評しているが、これで思い出したのがわりと最近何かで聴いた(テレビ?)Lang Langのショパンで、私もベートーヴェンかと茶々を入れてしまったからである。しかし背筋の通った辛みのきいた演奏がなかなか新鮮で、さっそくCDを探したがピアノの独奏は見あたらず、ピアノ協奏曲を手に入れた。

この解説でLang Langはショパンをあまりにもロマンチックに弾くとポップ音楽になってしまうとも、また演奏に当たっては情緒がどうと考えるのではなくて、美しい風景を思い浮かべることと父に言われた、と述べているところに、辛みの源があるように感じた。すでに発表されていることと思うが、吉田さんのLang Lang評をお聞きしたいものである。
2月28日(日)の「題名のない音楽会」ではブーニンがピアノ協奏曲 第一番2楽章を弾いていたし、またNHKハイビジョンでは先ほど(3月2日)まで「ショパンのミステリー 仲道郁代が創作の秘密にせまる」を放映していた。春の訪れがショパンを運んできたようである。