日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

海水注入独断継続の吉田所長? 原子力災害対策特別措置法についての素人談義

2011-05-27 18:30:41 | 社会・政治
福島第一原発1号機への海水注入継続の経緯は今のところ(と断らないとまたどうひっくり返るか分からないので)次のようである。

 二転三転した情報の混乱は、なぜ起きたのか。海水注入継続の事実は、24~25日に東電本店が実施した吉田昌郎・福島第1原発所長らへの聞き取りから明らかになったという。

 東電によると、3月12日午後7時4分ごろから原子炉を冷やすための海水注入が始まったが、午後7時25分ごろに本店と現場とのテレビ会議で、「首相の了解が得られていない」との情報について協議。注水停止で合意したが当時、吉田所長は反論しなかった。ところが、吉田所長は注水をやめていなかった。その理由を「冷却が最優先でどうしても受け入れられなかった」と話しているという。
(毎日新聞 2011年5月27日 7時44分)

この記事で私が引っかかるのは「首相の了解が得られていない」の部分である。裏返しすると海水注入は首相の了解がないと行えないのか、ということになるが、信頼度0の東電ではあるにせよ《25日午前の記者会見で、東日本大震災翌日の3月12日午後3時20分ごろ、保安院に「準備が整い次第、炉内に海水を注入する予定である」と記したファクスを送っていたことを明らかにした》との報道は注目に値する。これだと単なる事前通知で、首相の了解を待っているとのニュアンスは0である。すなわちこれからは東電の判断で海水注入に踏ん切ったことがうかがわれる。

ここからが法律の素人談義なのであるが、私なりに原子力災害対策特別措置法を繙いてみた。その「第二章 原子力災害の予防に関する原子力事業者の義務等」から原子力防災管理者に関わる第九条から関連部分のみを引用する。

第九条  原子力事業者は、その原子力事業所ごとに、原子力防災管理者を選任し、原子力防災組織を統括させなければならない。
 2  原子力防災管理者は、当該原子力事業所においてその事業の実施を統括管理する者をもって充てなければならない。
 3  原子力事業者は、当該原子力事業所における原子力災害の発生又は拡大の防止に関する業務を適切に遂行することができる管理的又は監督的地位にある者のうちから、副原子力防災管理者を選任し、原子力防災組織の統括について、原子力防災管理者を補佐させなければならない。
 4  原子力事業者は、原子力防災管理者が当該原子力事業所内にいないときは、副原子力防災管理者に原子力防災組織を統括させなければならない。(5以下略)

原子力防災組織とは第八条に次のように定められている。

第八条  原子力事業者は、その原子力事業所ごとに、原子力防災組織を設置しなければならない。
 2  原子力防災組織は、前条第一項の原子力事業者防災業務計画に従い、同項に規定する原子力災害の発生又は拡大を防止するために必要な業務を行う
 3  原子力事業者は、その原子力防災組織に、主務省令で定めるところにより、前項に規定する業務に従事する原子力防災要員を置かなければならない。(4以下略)

さらに前条第一項の原子力事業者防災業務計画とは次のとおりである。

第七条  原子力事業者は、その原子力事業所ごとに、主務省令で定めるところにより、当該原子力事業所における原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策その他の原子力災害の発生及び拡大を防止し、並びに原子力災害の復旧を図るために必要な業務に関し、原子力事業者防災業務計画を作成し、及び毎年原子力事業者防災業務計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを修正しなければならない。(以下略)

これを福島第一原発に対象を絞って私なりに解釈してみる。

まず原子力防災管理者であるが、《原子力防災管理者は、当該原子力事業所においてその事業の実施を統括管理する者をもって充てなければならない》と言うからには吉田所長こそ原子力防災管理者の最適任者である。東電資料にも《原子力防災管理者は、発電所長があたり、原子力防災組織を統括管理する》と記されているから間違いなかろう。したがって政府が原子力緊急事態宣言を発して、首相を長とする原子力災害対策本部を設置した「緊急事態」においても、あらかじめ作成されている原子力事業者防災業務計画に従い、原子力災害の拡大を防止し、復旧を図るための業務を遂行しなければならないことになる。

これで見る限り、吉田所長が海水注入を決断し実行したことは、原子力防災管理者としての職務を忠実に遂行したことになる。

一方、首相を長とする原子力災害対策本部の組織や所掌事務もこの法律で定められているが、原子力緊急事態では住民の避難とか自衛隊の出動とかの指示が強調されており、第二十条第6項《6  原子力災害対策本部長は、当該原子力災害対策本部の緊急事態応急対策実施区域における緊急事態応急対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、原子力安全委員会に対し、緊急事態応急対策の実施に関する技術的事項について必要な助言を求めることができる》も、原子力発電所での事態もさることながら、「地域・住民対策」実施に重点が置かれていると見るべきであろう。たまたま菅首相が理系だということでその言動が取りざたされているが、仮に原子力への素養の乏しい文系首相なら、安全委員会に助言を求めることさえままならなかった筈である。

さらに原子力災害対策本部長と原発所長である原子力防災管理者との指揮命令系統がどのようなものなのか、この法律から私は読み取ることができなかったので専門家の意見を仰ぎたいが、仮に指揮命令系統が存在するとしても原子力防災管理者にすべてを委嘱することのほうが現実的である。その意味では上の新聞記事のように「首相の了解が得られていない」なんて情報をもたらした東電の官邸派遣者の意図が何であったのか理解に苦しむ。私に言わせるとお茶坊主のような言動で、またそれに振り回されて海水注水停止に合意したとされる東電関係者も情けない。吉田所長が海水注入を続行したことは私は理解できるが、そのことを正しく東電本部に伝えておくべきであった。

私は3月16日のブログ、福島原発の現場で作業している人たちを信じて応援しようで次のように述べている。この考えは今でも変わらない。東京電力の関係者は現場の働きを阻害したことや「記録」が疎かになったことは返す返すも残念である。

「想定内」であれば日ごろ訓練に用いられたマニャルに従い定められた対応をすれば十分であろう。しかし「想定外」の事態ではそれが効かないからこそ、現場にいる原子炉を熟知して経験豊かで判断を的確に下すことの出来るリーダーの臨機応変の采配と、現場の作業員のチームプレイが底力を発揮する。これ以外の対処はないと言ってよかろう。東京電力の関係者は現場の働きを阻害する一切の動きを全力を挙げて排除すべきなのである。それと同時に未曾有の事態であるだけに、すべての出来事は詳細に記録されなければならないと思う。そのための記録班を編成するぐらいの重要性を東京電力の責任者は認識して行動に移すべきであろう。これほど大がかりでかつ貴重なデータをもたらす実験は計画して行えるものではない。


最新の画像もっと見る