日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

内田樹さんの講演を聴く

2010-10-20 22:52:55 | Weblog
今日の午後、神戸女学院大学の講堂で催された内田樹さんの講演会に出かけた。西宮市文化振興財団が主催する「西宮文学案内」の第一回で、ネットで申し込んだところ受講票が送られてきたのである。これまで何回か内田さんのこと(文章)を取り上げたこともあって、実際はどういう方だろうという野次馬根性がなせる技でもあった。

上下揃いのスーツ姿、もちろんネクタイもぱしっと決めて登場の内田さんがぶら下げているのは何冊かの本を放り込んだ紙袋、このアンビバレントなところがなかなか良かった。同じアンビバレントでも私ならがっしりした皮のトートバッグにノーネクタイ、チノパンツで登場したことだろう。その昔、この大学の外国人教授が、女子学生がジーンズを穿いて教室に現れたと怒り狂ったことが大きく報道されたが、礼節を守るのは教師からを今でも体現しておられるのか、と嬉しくなった。しかしその反面、あまりにも端正なのでつけいるすきがなく、野次馬根性が萎んでしまった。

配られた講演資料によると今日の演題は『村上春樹と「阪神間」の文化』で、それに資料1として『阪神間少年・村上春樹クロニクル(年代記)』が、資料2として『阪神間少年 村上春樹をたどる旅(2009年12月4日 毎日新聞夕刊コピー』が添えられていた。資料1によると、村上春樹は京都で生まれたものの9ヶ月で西宮市香櫨園に引っ越して、西宮市立香櫨園小学校、芦屋市立精道中学校、兵庫県立神戸高校をそれぞれ卒業しているのである。これまでどこの生まれでどこの育ちとか気にもとめていなかったので、この阪神間で育ったということが私には新発見であった。それがどうした、と言われればそれまでであるが、神戸高校が学制改革の前は神戸一中と呼ばれていた頃の神戸二中の後身を私は卒業しているので、ある種の親近感を覚えたのである。

資料2には村上春樹の小説に出てくる阪神間の風物が解説されていたのでなるほどと思ったが、まさか内田さんがこのような話を繰り返すはずがないと思っていたらその通り、ここに来る途中で思いついたことを、と話を始められた。この方独自の衒いで、実際は頭の中に話の材料はぜんぶ揃っていて、それをどう組み合わせて何に焦点を当て、どのように話を進めるのか、来る途中、頭の中で想を練っていたということであろう。

世界性とか地域性とか、話をうかがっている最中はなるほど、なるほどと頷くことばかり。視点がとても新鮮で喋りたい内容を的確に言葉で表現されていく。これはいいな、と思う言葉を頭の中に留めようと気をつけたつもりだったが、この小文をしたためている今、さっと思い出せない。村上春樹の執筆姿勢を忖度した内田さんは、感覚が受け付けたものを後で思い出そうとすると、現場では見えていなかったものまで思い出すようになる、と話された。その流儀でいくと、私も話を思い出そうと真剣に努力したら、内田さんの言葉に含まれた以上の豊かな中身を思い出すことだろうと安堵して、今は無理に思い出さないようにする。講演の後、近くの女性が内田さんの結婚指輪が輝いていたと興奮していたが、これも内田さんが口にもしなかったことをちゃんと受け取れる人がいるという実例である。

こういうことを気楽に言えるのは、実はこの講演のビデオがケーブルテレビで来年初めに放映されることになっているので、興味をお持ちの方をそれを観ていただいたらいいと思うからである。1時間をかなり上回る内田さんの話であったが、その間とても快い緊張感が持続した。


過去ログ
文学者の文章 MetaphorがJargonを生む
文学者の文章 内田樹さんの「壁と卵(つづき)」を再考
「師」ならではの本 内田樹著「日本辺境論」
若い世代に読んで欲しい内田樹さんの「基地問題再論」

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