珊瑚樹の生垣に、「空蝉の群れ」が留まっていた。
今年の夏は類い稀な猛暑であった。夏を謳歌した蝉たちの鳴き声も、例年に比べて一際賑やかだった。そんな名残が、生垣の空蝉の群れで見られようとは思いもよらぬことであった。
過日の台風は猛威を奮って、大島の土砂崩れでは、お気の毒にも数多くの犠牲者が出た。心からの哀悼を捧げたい。横須賀での被害はごく些細なもので、ガレージの屋根の破損や、物置や塀の転倒程度であったが、それでも真夜中の烈風の音は筆舌に尽くし難いものだった。
そんな強烈な風に吹かれても、空蝉が生垣の葉にとどまっていたのは信じ難いことだ。何年かの幼虫時代を地中で過ごし、空へ舞い立つ前の脱皮では、渾身の力を籠めて珊瑚樹の葉に、鋭い爪を立ててしがみ付いた結果であろうか。
「空蝉の群れ」には、蝉たちの命を懸けた、羽ばたきへの思いが偲ばれる。
生垣に群れて留まる空蝉に
今年の猛暑をしみじみ思いぬ
この夏は一際激しく鳴く蝉を
恨めしくすら思いこそすれ
秋立つについぞ蜩聞かぬとは
如何なることか蝉の事情は
真夜中に荒れ狂うかな台風の
すさまじき音をいまだ忘れず
あれほどの烈風豪風すさぶるに
葉にしがみ付く空蝉あっぱれ
生垣の空蝉の群れみるにつけ
脱皮にかけた思ひをしのびぬ