心地よい涼しさに誘われて虚庵夫妻の散歩も、「うつろ庵」からかなり遠くまで遠征した。夕暮れと共に蟲の集く声が、何とも言えぬ風情を添える散歩だった。
道端の生い茂る草むらに、何やらぼんやりと白い花が眼に入った。逞しく育った小栴檀草に「仙人草」の蔓が絡んで、白く細い花びらを咲かせていた。
かつて花図鑑で「仙人草」の風情が気に入り、記憶力の衰えた虚庵居士だが、蔓草の名前が記憶に残っていた。散歩の途上で出会っても咄嗟に「仙人草」の名前が思い出されて愕いた。この花は、4枚の太めの花びらと共に、ごく細い花びらがセットになって咲くので、離れて見れば自ずと霞んで観える不思議な花だ。虚庵居士の勝手な推察だが、この蔓草の花が霞む様に観える景色は、何やら仙人を思わせるところから、「仙人草」の名前が付けられたのではあるまいか。
夕暮れが深まり白い花が朧に霞む姿に、何時しか仙境に誘われた心地であった。
何時しかに汗ばむ季節は過ぎにしか
蟲のすだきに秋をしるかも
心地よき秋風吹けば誘われ
思わず遠くに歩み来るかな
草むらに朧に霞むは何ならむ
近くに観れば仙人草かな
秋の陽は何故にせくらむ山影に
入れば仄かに揺るる花かな
草むらに霞む姿は仙人の
花ならめやもそなたの風情は