玄関脇の金木犀が咲いた。
迂闊なことに、莟を付けていることすら気が付かなかったが、独特の芳香に促されて見上げたら、小枝のそれぞれに沢山の莟を付けて、咲き初めていた。
金木犀の莟は、どちらかと云えば控えめで目立ないが、花が咲き初めて数日もすると、黄金色の群花が一斉に小枝を飾るので、華やかさが一気に加わる。
一方で金木犀の芳香は、満開の時期に比べて花の咲き初めの頃が、より馥郁と香るように感じられるのだが、虚庵居士の独り善がりかもしれない。
金木犀の香に誘われた訳ではなかろうが、「うつろ庵」の門前に据えてある鉢植えの蘇鉄が、何年か振りに新しい葉が芽吹いた。未だ葉が開ききっていないので、爪先立って金木犀とお話でもしているかのような風情だ。
住宅街を歩いていて、金木犀の香りに気付いて辺りを見回し、生垣越しに咲く金木犀を確かめることなど間々ある。芳香はかなり遠くまで漂うので、予期しない「金木犀
の香り」のプレゼントは、初秋の愉しみの一つだ。
芳香だけが何時も話題になる金木犀だが、時には花にも着目したいものだ。一枝毎にこれだけ密集して咲くので、一つ一つは小花であるが集まった姿は誠に見事だ。
桜や梅などは、花が咲いた後に葉が付くので、いやが上にも花が目立つ。椿や薔薇などは、緑葉と共に花が咲くが、これらも花が前面に出て「観てみて!」 とアッピールする。
ところが金木犀は、常緑の葉蔭に咲く慎ましやかな花なのだ。
夢うつつ扉を開ければ馥郁と
香れば目覚めぬ あっ 金木犀だ
馥郁とかおりくるかなこの香こそ
紛うかたなき金木犀ぞも
莟すら気付かぬ迂闊を詫びつつも
香りに見上げる金木犀かな
見上げれば金木犀の小花らが
咲きそむ気配ぞさえだ小枝に
常緑の葉陰にあまたな小花かな
金色に咲く金木犀はも
斯くばかり香り立つにもその花は
慎む気配に 咲くぞいとしき