『NHK「知るを楽しむ」に物申す』とのタイトルで、NHKに注文を付けた。
お遊びではなく、真摯な抗議文をご紹介する以上は、正々堂々と名乗るが筋であろう。
抗議文の署名は、非営利活動組織 エネルギーネット代表 小川 博巳 とした。
I. 1月16日放送「原子力の現在」に物申す
NHK教育テレビでシリーズ放送されている「禁断の科学」のテキスト、1月16日放送予定の「原子力の現在」を読んで驚いた。随所に「事実誤認又は意図的な混同」、ないしは「反原子力発電の記述」が氾濫していて、目を疑った。
各論は後述するとして、結論を先に申しあげたい。
1.1月16日第6回「原子力の現在」の放送を中止するか、或いは、既に多くの諸賢からご指摘があった部分を全面的に改められたい。また販売済のテキストについては、国民に誤った情報を提供したことにつき適切に訂正の報道をし、改訂版を発行されたい。
2.上記を受容れられない場合は、NHKとしての然るべき考えを、番組冒頭で分かり易く表明すべきである。その場合は、「一人の反原子力発電の意見紹介」であり、いずれ下記第3項の報道をすることを、明言されたい。
3.「我国のエネルギー政策が如何にあるべきか」については、一個人の偏った意見の紹介ではなく、政策決定に関与する立場の政治家・事業者・学識経験者・国民代表などを交えた真摯な議論を重ね、それを報道されたい。
II. NHKの判断を問う
このシリーズ放送に対するNHKの「ネライ」を、改めて確かめた。NHKホームページの記述によれば、『「NHK知るを楽しむ」は、各曜日ごとにテーマを設けた新しいスタイルの教養・情報番組です。(中略)「私だけが知っているホンモノの世界」をご紹介していきます』とある。
国民はNHKが報道する「これがホンモノ」だとする情報発信を、疑いも無く素直に受け入れることになろうが、その実は「事実誤認又は意図的な混同に基づく情報発信」であり、ないしは「反原子力発電の偏った見解紹介」であることに、NHKはどのようにして責任を取る積りであろうか?
NHKは、事業収入の総額672,400, 000,000余円の殆どを、国民の受信料で賄なうことが許されている、我国唯一の「公共放送」である。その公共放送・NHKが、「エネルギー政策基本法」或いは昨年閣議決定された「原子力政策大綱」で、原子力発電を我国の基幹エネルギーとして位置付け、「国策」として推進していることをよもやご存知ない筈はあるまい。しかも今回の報道は、練りに練ったシリーズであり、NHK内部でも慎重に審議を重ねた放送番組であろう。NHK内部にも原子力発電に対する深い知識と、公平な判断が出来る人材は豊富に居られるであろうし、また、外部にそれを求めれば積極的に協力する学識経験者は多い筈である。「原子力の現在」の報道は、「単に池内了教授の個人的な見解を、軽く紹介するだけ」とはよもや申すまい。
「原子力の現在」にたいするNHKの判断を問う所以である。
III. 「NHK倫理・行動憲章」に照らして
1月16日に放送予定の「原子力の現在」は、どう考えてもNHKの報道として相応しいとは思われない。筆者の個人的な判断基準・倫理基準をベースに物申しても「公正さ」を欠くので、NHKが自ら定めた「NHK倫理・行動憲章」を紐解いてみた。
「原子力の現在」のテキスト及び諸賢から寄せられている指摘事項と照合して、速やかにご検討願いたい。
先ず冒頭に、「~視聴者・国民の負託に応える公共放送であるために~」とある。
視聴者・国民は、「事実誤認又は意図的な混同に基づく情報提供や、偏りある思想」を聴きたいと公共放送に求めてはいない筈だ。しかしながら視聴者・国民は、科学者でもなく専門知識を持ち合わせていなければ、NHK教育テレビに8回シリーズで出演する「早稲田大学教授の科学者」の肩書きに惑わされて、報道を鵜呑みにするであろう。これを「視聴者・国民の負託に応える公共放送」というであろうか?
また、「公共放送の使命と社会的責任,その影響力をあらためて深く自覚する」とある。
NHKの報道に対しては、視聴者・国民は全幅の信頼を寄せて来た。だからこそ国民は、総額672,400, 000,000余円の巨額な事業費を、受信料で負担することを肯じている。それは正しく、「偏りの無い正しい報道」に対してであることは言を待たない。
「事実誤認又は意図的な混同に基づく情報提供や、偏りある思想」が放映されたときの「社会的責任と,その影響力」を、あらためて深く問いたい。
また曰く、「放送倫理を守り豊かで質の高い放送を行います。」ともある。
職員の金銭的な清潔さだけが、放送倫理ではあるまい。何より求められるのは、社会の木鐸としての「報道内容の倫理性」ではあるまいか。「事実誤認又は意図的な混同に基づく情報提供や、偏りある思想」の押し付けは、この行動憲章に沿わないと思うが如何であろうか?
更に、「会長,役員および各組織の長は,本憲章の精神の実現がみずからの役割であることを認識し,その徹底を図ります。また,本憲章に反する事態が発生したときには,みずから問題解決にあたり,原因究明,再発防止,社会への迅速・的確な情報開示と説明責任を果たします。」とある。
この行動憲章は、よもや空念仏では有るまいと期待する。
行動指針には、「正確な放送を旨とし,事実をゆがめたり,視聴者の誤解を招いたりするような放送は行いません。放送が事実と違っていることが明らかになったときは,速やかに訂正します。」と謳っている。
誠実な情報開示、説明責任、速やかな訂正を願って止まない。
IV. 不適切な記述箇所の指摘
「事実誤認又は意図的な混同に基づく情報提供や、偏りある思想」については、既に多くの諸賢からご指摘が寄せられているが、念のため筆者が気が付いた該当箇所を指摘する;
日本放送出版会 第1巻第17号テキスト「NHK知るを楽しむ-この人この世界」
頁 記述箇所 (不適切理由)
111 温度に換算するとおよそ二〇〇〇万度 (事実誤認/意図的混同)
111-112 原子核反応による太陽の火を~原子力の危険性の本質なのである。 (偏り表現)
111 化学反応と原子核反応の対比(表)
2000万度 (事実誤認/意図的混同)
116 原子炉部分は二〇〇〇万度~(原子核反応) (事実誤認/意図的混同)
117 その再処理技術の困難~核燃サイクルに固執している。(事実誤認/偏り表現)
120 核燃サイクルは迷走を続けているのが現実 (事実誤認/偏り表現)
124 原子炉へのミサイル攻撃や ~
膨大な犠牲が出ることだろう。 (事実誤認/偏り表現)
124 核分裂反応が ~ 燃料棒を取り換えている。 (事実誤認/意図的混同)
124 「高レベル放射性廃棄物」 ~敷地内に保存 (事実誤認/意図的混同)
124 最低で一〇〇〇年以上 (事実誤認/意図的混同)
125 格納容器は、常に ~ 金属疲労で壊れる (事実誤認/意図的混同)
126-127 輸送過程など~チリトリやバケツやゾウキンが最も適しており~
被爆量は莫大なものになる。(事実誤認/偏り表現)
127 必ずしも説得力があるわけではない。 (事実誤認/偏り表現)
127-128 日本があえてプルトニウム回収に固執する ~
疑いを払拭できないでいり。 (事実誤認/偏り表現)
128 MOXを使えば発生する中性子数が~
原子炉の危険性が増すのだ。 (事実誤認/偏り表現)
129 二酸化炭素を選ぶか、放射能を選ぶか (偏り表現)
130 放射性廃棄物に関しては ~
実に危険な道を歩んでいる (偏り表現)
130 原発の発電単価が安いのは ~
原発は安いとは決して言えないのだ。 (事実誤認/偏り表現)
130 原理的には無限にある ~ 肝要である。 (偏り表現)