「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「氷の響きを」

2006-01-05 20:52:59 | 和歌

       四時田園雑興 冬日  范成大 詩
 
         放船閑看雪山晴
         風定奇寒晩更凝
         坐聴一篙珠玉砕
         不知湖面已成氷



 



 范成大くんは、のどかにも船を漕ぎ出して、雪山の景色を楽しみました。夕刻になって寒さが身にしみ、何時の間にか氷が張って、櫂が砕く珠玉の音を聴くと詠みました。

 虚庵居士が育った信州・諏訪盆地の寒さは、将に別格です。一旦氷が張った洗面器も、タライも、そして池も、深夜には氷がガチンガチンに凍み入り、ピリピリと冴えた音を立てて割れます。器の中で凍った氷は、更に気温が下がって膨張すると逃げ場を失って、割れて盛り上がります。諏訪湖の御神渡りは、全面結氷して更に気温がさがる明け方近く、轟音と共に氷が割れ、盛り上がる極めて稀な現象だ。諏訪大社の上社側湖岸から、激しく割れてせりあがった破砕氷は、蛇行して対岸の下社に向かっている。古事記にもその名をとどめる上社の祭神・建御名方命が、妃神の八坂刀売命のもとへ通う恋路だと、古くから言い伝えられてきた。

 范成大くんのこの七言絶句に、あの厳しい諏訪の寒さが想い出された。



             いてつける諏訪にしあれば夜半に聴く

             凍み入り割れる 氷の響きを



             妻恋ふる建御名方命の通い路は

             武き御神渡り氷を砕きて