四時田園雑興 冬日 范成大 詩
放船閑看雪山晴
風定奇寒晩更凝
坐聴一篙珠玉砕
不知湖面已成氷
范成大くんは、のどかにも船を漕ぎ出して、雪山の景色を楽しみました。夕刻になって寒さが身にしみ、何時の間にか氷が張って、櫂が砕く珠玉の音を聴くと詠みました。
虚庵居士が育った信州・諏訪盆地の寒さは、将に別格です。一旦氷が張った洗面器も、タライも、そして池も、深夜には氷がガチンガチンに凍み入り、ピリピリと冴えた音を立てて割れます。器の中で凍った氷は、更に気温が下がって膨張すると逃げ場を失って、割れて盛り上がります。諏訪湖の御神渡りは、全面結氷して更に気温がさがる明け方近く、轟音と共に氷が割れ、盛り上がる極めて稀な現象だ。諏訪大社の上社側湖岸から、激しく割れてせりあがった破砕氷は、蛇行して対岸の下社に向かっている。古事記にもその名をとどめる上社の祭神・建御名方命が、妃神の八坂刀売命のもとへ通う恋路だと、古くから言い伝えられてきた。
范成大くんのこの七言絶句に、あの厳しい諏訪の寒さが想い出された。
いてつける諏訪にしあれば夜半に聴く
凍み入り割れる 氷の響きを
妻恋ふる建御名方命の通い路は
武き御神渡り氷を砕きて