Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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少女サハー・グルの覆された正義

2013-07-11 17:07:39 | アジア
数日前、ニューヨーク・タイムスのある記事をみつけて、愕然とさせられた。

「アフガニスタンの法廷、少女虐待の有罪判決を覆す」そう題されたこの記事の内容はただでさえ腹立たしくなるのに、僕の胸くそは一層悪くなった。僕はこの少女を知っていたのだ。

北部のバグラン州の田舎の村で、サハー・グルが無理矢理嫁にだされたのは13歳か14歳のとき。5000ドル(50万円ほど)で家族に売られたのだ。嫁ぎ先で、夫となった男との性交渉や、収入を得るため売春することを拒んだために、彼女を買った家族からの虐待がはじまった。地下室で縛られたサハー・グルは、棒で殴られ、身体を噛まれ、熱した鉄棒を耳や性器に突っ込まれて、指の爪まで引き抜かれた。

ようやく彼女が発見され警察と彼女の実の家族に助けられたのは、6ヶ月後。彼女の叔父が嫁ぎ先を訪ねたときに、会わせてもらえず不審に思ったのがきっかけだった。虐待者たちは逮捕され、サハー・グルは病院で治療を受けたあと、シェルターに移された。

首都カブルにある、虐待された女性たちを保護するシェルターで去年の5月、僕はサハー・グルを撮った。まだ顔や手の傷跡は消えていなかったが、随分落ち着いたようで、彼女はときおり笑顔をみせられるまでになっていた。その数ヶ月後、逮捕された虐待者たちは、それぞれ10年の服役の判決を言い渡された。

「サハー・グルの場合はまだいいほうです。多くの女性達が虐待され、殺されてしまうことも珍しくはないのですから。そんな彼女達が正義の日の目をみることはありません」

僕は女性の権利を守るために活動している弁護士が言ったことをいまでも憶えている。

それから1年。先週掲載されたこの記事には、裁判所が判決を覆し、虐待者たちの刑が、殺人未遂から暴行に軽減されたとあった。そしてサハー・グルの虐待者3人はすでに釈放された、と。

アフガニスタン、特にその農村部には、極端に保守的な古い慣習が根付いており、いまでもサハー・グルのような例は後を絶たない。そんな状況を変えようと、多くの女性達が、自らが襲われたり殺されたりする危険を顧みず、闘い続けている。今回の判決は、そんな彼女達はもちろん、多くの人々を怒らせ、そして落胆させた。

アフガニスタンの司法制度は、これで大きく後退したようなものだ、そう思った。

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(同記事は、Yahoo Japan News にも掲載しています)