あれからもう何年が過ぎたのだろう。
僕の人生で本当に近しかった二人の人達。
もうその一人には何も伝えられない、伝わらない。
彼が敬愛したパウル・クレーを暗示するようにして、実は、
その彼の人生の内面で果たされることのなかった想いや心の破片、
幾何学模様の中に映し出された心の明暗。
彼のその人生の相似形をこの絵の中になぞらざるを得なかった、
もう一人の作り手が自らを探し出し、その過程を表現していく。
この絵の一つ一つの形と色彩には、それゆえ何の偶然もない。
心の軌跡が長い時間を経て、今も作者の心の奥底で波打つことを
止まず、必然的な形象となり、観者にとっては哀しさと懐かしさの
形象となる。
崩れて落ち行くような、その一つ一つの幾何学模様は、
作り手の精神の緊張と観る者の心の動揺の間で、かろうじて
つなぎとめられているようだ。