美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

復興都市ブラツ記(その二)(雑誌・黒白)

2010年02月19日 | 瓶詰の古本

復興都市ブラツ記
           ビリケン生
                 背高童子

 ぶらりぶらりと口の悪い二人の同行、新橋から、キミキミ尾張町、銀座一丁目を過ぎて京橋を渡る、早くも背高の眼に入つたのは、焼残つた相互生命の建物だ、
『相互生命だけはうまくやつたな』
ビ『さうだーー此位の建物を持つてゐたら、何んにもしないで、遊んで喰つてゐられるかしら』
背『止せよ、どうせそんな時代は、俺達には永久に来ないんだから、今から拾つた金の勘定なんかする馬鹿があるか』
ビ『さう見くびつたものでもないぞ、此れでもどんな金持から養子の申込みがないとも限らん』
背『その御面相でかーーフツ、お前は鏡のない国で生れたな、何しろ幸福な代物だ』
ビ『さう云ふお前だつて、余り誉めた面構ひもしてゐないぢやないか』
背『俺は初めから養子になんか行く考へはないんだからーー第一男子が糠三合持つたら、養子に行くなつて、昔からの言葉にある』
ビ『尤も貰い手がないから、そんな大きな口が利けるがねーー内心満更自惚れてゐないでもないだらう』
 二人は此んな馬鹿口を利いて歩いて行く中に、後の方で草履ばきの男がくすくすと笑ふ。二人は一緒に振り返つて、後に人の聞いてゐると知るや。お互ひに顔を見合して。
 『おい、此からどつちへ行うーー』
 白木の前で、テレ隠し。
 『さうだなーー序だから三越の方まで行つてみるかーー』
  
(「黒白 第七十八号」)

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