美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

誰にも書けない文章

2010年02月05日 | 瓶詰の古本

   漱石にしろ朔太郎にしろ、自覚的に誰にも書けない文章を書こうとしていた。漱石以前に二葉亭四迷がおり、さらに遡れば吉田兼好がいるわけで、彼等を含め文章によって表白の地平を拓こうとした誰もが、意識として前人未到の文章を志したことは今さら言挙げするまでもない。
  この人達の苦闘は、孤軍奮闘であったかも知れないが、同時に、原野に道を切り拓く誇りと喜びそのものであったに違いない。日本の表白の地平を自らの手でもって拡げ得たことを確信したであろう文章を読んで、心躍らないわけがないではないか。文章によって未到の表白を拓こうとする、その気魄に心打たれないわけにはいかない。読む度に新しい息吹を与えてくれる、そのような文章があることに心打たれないわけにはいかない。

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