復興都市ブラツ記
ビリケン生
背高童子
ぶらりぶらりと口の悪い二人の同行、新橋から、キミキミ尾張町、銀座一丁目を過ぎて京橋を渡る、早くも背高の眼に入つたのは、焼残つた相互生命の建物だ、
『相互生命だけはうまくやつたな』
ビ『さうだーー此位の建物を持つてゐたら、何んにもしないで、遊んで喰つてゐられるかしら』
背『止せよ、どうせそんな時代は、俺達には永久に来ないんだから、今から拾つた金の勘定なんかする馬鹿があるか』
ビ『さう見くびつたものでもないぞ、此れでもどんな金持から養子の申込みがないとも限らん』
背『その御面相でかーーフツ、お前は鏡のない国で生れたな、何しろ幸福な代物だ』
ビ『さう云ふお前だつて、余り誉めた面構ひもしてゐないぢやないか』
背『俺は初めから養子になんか行く考へはないんだからーー第一男子が糠三合持つたら、養子に行くなつて、昔からの言葉にある』
ビ『尤も貰い手がないから、そんな大きな口が利けるがねーー内心満更自惚れてゐないでもないだらう』
二人は此んな馬鹿口を利いて歩いて行く中に、後の方で草履ばきの男がくすくすと笑ふ。二人は一緒に振り返つて、後に人の聞いてゐると知るや。お互ひに顔を見合して。
『おい、此からどつちへ行うーー』
白木の前で、テレ隠し。
『さうだなーー序だから三越の方まで行つてみるかーー』
(「黒白 第七十八号」)