美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

おれらの夢

2010年02月23日 | 瓶詰の古本
   デミアンではないけれど、おれらの夢を語るとすれば、やはりその前に、おれらがどんな途次往来を迷って来たかを話さなければならない。誰を裏切り、どんなに滅茶苦茶な所業を重ねて来たかを囁かなければならない。それは、きっとあんたの耳に快いものではない。ましてや、おれの耳に耐えられるものではない。
   それでもなお、老い先の見えた者が、もし夢を語ることを願い、それを許されるとしたら、裏切ってきた人の顔を霞んだ眼で見ながら、一片の反省もなく過去の悪行を反芻し夢を叫ぶという、うつつ心を疑われる途を選ぶと思う。最も無残な途を選ぶと思う。この先を行くには、それよりほかの途はないと信じているからには。
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