本書は、旧千里眼シリーズの第4弾『洗脳試験』を完全に抹消した上で、第4弾として創作されたという。『洗脳試験』を読んでいないので、なぜそうなったのかは想像も判断もできない。この『千里眼の復讐』という作品を読んだ範囲での感想・印象をご紹介しよう。
奥書を読むと、この第4弾は書き下ろしの完全新作として、2008(平成20)年6月に角川文庫から刊行された。今回、奥書を読んでいて「千里眼」という語句が松岡圭祐事務所の登録商標と記されていることに初めて気づいた。
手許の国語辞典を引くと、「千里眼」が載っている。「遠方の出来事を感知するの能力。それを有する人。天眼通」(『日本語大辞典』講談社)と。一方、『大辞林』(三省堂)には、「千里」の項の中に「千里眼」の項を設けて説明されている。
この千里眼シリーズ、読書の気分転換にはもってこいである。大殺戮という点が少し問題ではあるが・・・・・・エンターテインメントを楽しむことにして。
人々から千里眼と呼ばれる心理療法士・岬美由紀がウルトラスーパーヒロインという形で現代社会のとてつもない状況下で縦横無尽に大活躍する。己を傷付けてでも人々を救うという信念に燃えて行動を繰り広げる。フィクションの世界ならではと言える。いわば、悪との闘いを完徹する息もつかせぬバトル・ストーリーになっている。一気読みさせるストーリー展開でおもしろさ満載である。
それぞれ一作ずつストーリーは一旦完結するが、シリーズとして悪との闘い-友里佐知子との闘い-は根底において大きな流れとして続いている。つまり、この悪の根源は消滅するところまでは行かない。岬美由紀が一戦場の局面で闘争に勝利を得ても、悪との戦争は未だ継続しているという形になる。シリーズ順に読み進めるべき作品群と言える。
今回、最初からおもしろい設定である。ストーリーは、『千里眼 運命の暗示 完全版』の最後のシーンからの続きになっている。まず、岬美由紀が日本に帰国する数日前の行動から始まる。つまり、日中開戦を何とか阻止した美由紀が少林寺から南京國際戦争監獄に収容された時点から始まる。この刑務所の最高顧問に就任にしている賈薀嶺からある事件の解決に協力要請される。それは香港の大埔に住む不特定多数の人々の失踪事件だった。この事件の解明は、パン屋の見習い職人が、ブルガリのオニキスブレスというダイヤをあしらった限定品を所持していたことに端を発していた。美由紀がこの男に質問して、街はずれにある養護施設でのおぞましい事件を暴き出すに至る。失踪した人々は脳梁切断手術を施されていたのだ。友理佐知子、恒星天球教の教祖阿吽拿に繋がっていくことになる。事件はなんと香港国際空港内で駐機中のブリティッシュ・エアウェイズの飛行機が大爆発することで終わる。だが、この香港の事件に直接関与していたのは友理佐知子ではなくその替え玉だった。美由紀は正体を見破ったうえ、危機一髪で脱出した。事件を解決に導いた美由紀は帰国を果たすことになる。
この冒頭の展開、この後のストーリー展開の伏線とも言えるが、007の映画シリーズの冒頭が一つのエピソード場面から始まり、本筋に切り替わっていくタッチと同じ印象をうける。いわば、美由紀の一つの活躍が冒頭で一短編風に語られると言う感じである。それが一気に読者を引きこむ形になっている。
帰国するなり、美由紀は警視庁の現場検証に立ち合う羽目に。美由紀がウィリー・E・ジャクソンが逃げだそうとしたところを捕まえようとしたとき、いきなり彼の全身から真っ赤な炎が噴き上がり焼け焦げ、半径3mも延焼したのだ。特殊な発火現象である。その前に、蒲生警部補が赤羽喜一郎が突然燃えだしたという事態で殺人容疑で留置場暮らしをしていたという事件も起こっていた。これらの事態は、どうも近未来への伏線になっているようだ。本書を通読して、この事態の関連はその後進展していないから。これは何?興味をそそる。まずは、美由紀と嵯峨、蒲生がここで再会を果たす。美由紀は蒲生から鍛冶がこめかみを撃って自殺したことを知らされる。
このストーリーの実質的な始まりは、美由紀が乃木坂近くのペンデュラム社が入っていた高層ビルを訪れたときである。そのビル内で美由紀はメフィスト・コンサルティング・グループの使いである丸帽・燕尾服姿の老紳士に声をかけられた。美由紀は老紳士から、ペンデュラム関係者全員が処分されたこと、友理佐知子がメフィスト・コンサルティング・グループの特別顧問補佐だったことを告げられる。さらに、友理がふたたび革命を起こすことを画策していて、実行日が間近に迫っていると告げられた。老紳士は、美由紀が友理佐知子に対峙すること、メフィスト・コンサルティングは現時点の日本では傍観者に過ぎないという。老紳士は美由紀の前から姿を消すために、非情な手段を準備していた。ガラス張りのエレベータ・シャフト内に10代半ばくらいの少年を逆さ吊りにしていたのだ。逆さづりのロープはエレベータの底に結ばれていた。エレベータは最上階に到達後37秒で1階に降りてくるという。美由紀は老紳士を問い詰める間もなく、少年の救助を最優先する羽目に・・・・。37秒の救出劇が実質的なストーリーの始まりとなる。ここから、活劇的な山場が次々に連続し展開されて行くことになる。それはなぜか?
美由紀が救助したのは日向亮平。杉並中学2年生。中野慈恵園という児童養護施設に暮らしている少年だった。亮平にとっては岬の様な女性が好みであり、一方岬が好むタイプでもあると老紳士が人質にした理由を亮平に語っていたという。実はこの視点がこのストーリーにおいて重要な要素となっていくのだから、徐々に面白くなる。
美由紀が臨床心理士会から中野慈恵園にカウンセラーとして派遣されたことから事件が始まる。建物内で爆発が起こったのだ。ペットボトルの爆発。それは園児を利用し仕掛けられたものだった。園児の結衣を人質にミドリの猿・ジャムサが美由紀の前に現れた。それは、美由紀を導き出すための罠だった。美由紀はフェラーリでジャムサを追跡する行動に出る。美由紀の車に亮平が同乗することに。追跡劇が始まる。ジャムサの乗るトラックは、美由紀を中央環状線内回りの山の手トンネルの下りに意図的に誘導して行った。
トラックのすぐ後には、禁じられているはずのタンクローリーが走行していた。そして、トンネル内でタンクローリーがスピンし爆発。トンネル崩落事故が発生する。この事故こそ、友里佐知子が意図的に起こさせた事故だった。西新宿の出口は落盤により塞がれた。
トンネル内の状況が徐々に分かってくる。非常電話は電源が落ちている。25m間隔の赤外線センサーと消火用水噴霧器は作動していない。火災報知器の警報は鳴らない。50mおきにある手動の消火設備すら役に立たなくなっている。車道の下の避難通路の先にある西新宿の出口方向は通路の行く手の防火シャッターが下りていた。本当に脱出方法はないのか。
とんでもない状況が引き起こされることに。トンネル内のスピーカーから、鬼芭阿諛子の声が流れる。「午後11時です。皆様、いかがお過ごしでしょうか。恒星天球教がお送りするイリミネーションの儀式、ここ山手トンネル避難通路にて、間もなく開始されます」(p200)と。
イリミネーション(elimination)とは、除去、排除、抹殺を意味する。非難通路は閉鎖されていて地上への出口はないという。この避難通路に、恒星天球教は3種のイリミネーターを順次送り込んでくるというのだ。
前頭葉切除手術を施され精神的な高次機能を失い、暗示を受け入れて行動するというロボット化した殺戮者群を送り込んでくるのだと美由紀は理解する。これは友里佐知子による人為的なテロであると。
トンネル内に閉じ込められた人々は直接的にはイリミネーターと闘うという行動をサバイバルするために始めざるを得なくなる。デス・ゲームの始まりである。
美由紀は閉じ込められた人々をどのようにして救うことができるか。己の信念をかけて行動を始める。直接的には、順次送り込まれるという3種のイリミネーターとの闘いとなる。その闘いに勝つためのヒントを美由紀は掴まねばならない。そこに状況悪化の要因が加わる。避難経路に空気を送り込むダクトが機能していないので空気の残量が減少してくる。さらに避難通路の非常灯が消えるという事態が起こる。作為的に電源が落とされたのだ。電源操作を行うエリアまで何とかして向かい、対策を取らねばならない。美由紀は獅子奮迅の行動を求められていく。美由紀にとってはこの状況を引き起こした背後にいる友里佐知子との頭脳戦、心理戦も同時に考慮しなければならない。
友理佐知子の狙い、意図は単に殺戮だけではない筈である。そこにどのような意図が秘められているのか。それを探らねば、この闘いに勝ちサバイバルできないことになる。
ストーリーは、この状況の中で様々な人々の行動を点描風に織り交ぜていく。弁護士と自称する川添雄次。パトロール隊の警官である竹之下と志摩。整形外科医の片平英一郎。トンネル工事において下請工務店で働いていたという笠松章平。国土交通省に務める相山清人。救急救命士の龍田祐樹と翠原広茂。パソコンを使い解析ソフトの操作に専念するニートの石鍋良一。米軍兵士ローレンソン。この状況の最中に産気づいた寿美子と彼女をサポートする出産経験のある竹居比郎子。東大工学部の学生・森田祐未。不動産会社勤務の土方有吉。等々、様々な人々がそれぞれの行動をとっていく。
彼等は様々な局面で美由紀に関わっていくことになる。勿論、亮平も行動している。
都心の地下深いトンネルでの爆発事故という可能性ゼロとは断言できない想定の上に、現状では荒唐無稽と思えるフィクションを重ねた世界で闘争活劇が繰り広げられて行く。壮絶である。興味深い設定の一つは、イリミネーターの闘いに役立つイリミネーターの弱点が潜んでいるという点である。これをどうして見つけるか。このあたり、ゲーム感覚が巧みに盛り込まれているとも言える。
そして、美由紀は友里佐知子がこのイリミネーションの儀式を通じて何を狙っていたのか、遂に気づくに至る。
クライマックスでの展開が興味深い。思わぬどんでん返しが仕組まれている。お楽しみに・・・・・。
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『後催眠 完全版』 角川文庫
『催眠 完全版』 角川文庫
『クラシックシリーズ3 千里眼 運命の暗示 完全版』 角川文庫
『クラシックシリーズ2 千里眼 ミドリの猿 完全版』 角川文庫
『クラシックシリーズ1 千里眼 完全版』 角川文庫
『探偵の鑑定』Ⅰ・Ⅱ 講談社文庫
『探偵の探偵』、同 Ⅱ~Ⅳ 講談社文庫
松岡圭祐 読後印象記掲載リスト ver.2 2021.6.11時点 総計32冊
奥書を読むと、この第4弾は書き下ろしの完全新作として、2008(平成20)年6月に角川文庫から刊行された。今回、奥書を読んでいて「千里眼」という語句が松岡圭祐事務所の登録商標と記されていることに初めて気づいた。
手許の国語辞典を引くと、「千里眼」が載っている。「遠方の出来事を感知するの能力。それを有する人。天眼通」(『日本語大辞典』講談社)と。一方、『大辞林』(三省堂)には、「千里」の項の中に「千里眼」の項を設けて説明されている。
この千里眼シリーズ、読書の気分転換にはもってこいである。大殺戮という点が少し問題ではあるが・・・・・・エンターテインメントを楽しむことにして。
人々から千里眼と呼ばれる心理療法士・岬美由紀がウルトラスーパーヒロインという形で現代社会のとてつもない状況下で縦横無尽に大活躍する。己を傷付けてでも人々を救うという信念に燃えて行動を繰り広げる。フィクションの世界ならではと言える。いわば、悪との闘いを完徹する息もつかせぬバトル・ストーリーになっている。一気読みさせるストーリー展開でおもしろさ満載である。
それぞれ一作ずつストーリーは一旦完結するが、シリーズとして悪との闘い-友里佐知子との闘い-は根底において大きな流れとして続いている。つまり、この悪の根源は消滅するところまでは行かない。岬美由紀が一戦場の局面で闘争に勝利を得ても、悪との戦争は未だ継続しているという形になる。シリーズ順に読み進めるべき作品群と言える。
今回、最初からおもしろい設定である。ストーリーは、『千里眼 運命の暗示 完全版』の最後のシーンからの続きになっている。まず、岬美由紀が日本に帰国する数日前の行動から始まる。つまり、日中開戦を何とか阻止した美由紀が少林寺から南京國際戦争監獄に収容された時点から始まる。この刑務所の最高顧問に就任にしている賈薀嶺からある事件の解決に協力要請される。それは香港の大埔に住む不特定多数の人々の失踪事件だった。この事件の解明は、パン屋の見習い職人が、ブルガリのオニキスブレスというダイヤをあしらった限定品を所持していたことに端を発していた。美由紀がこの男に質問して、街はずれにある養護施設でのおぞましい事件を暴き出すに至る。失踪した人々は脳梁切断手術を施されていたのだ。友理佐知子、恒星天球教の教祖阿吽拿に繋がっていくことになる。事件はなんと香港国際空港内で駐機中のブリティッシュ・エアウェイズの飛行機が大爆発することで終わる。だが、この香港の事件に直接関与していたのは友理佐知子ではなくその替え玉だった。美由紀は正体を見破ったうえ、危機一髪で脱出した。事件を解決に導いた美由紀は帰国を果たすことになる。
この冒頭の展開、この後のストーリー展開の伏線とも言えるが、007の映画シリーズの冒頭が一つのエピソード場面から始まり、本筋に切り替わっていくタッチと同じ印象をうける。いわば、美由紀の一つの活躍が冒頭で一短編風に語られると言う感じである。それが一気に読者を引きこむ形になっている。
帰国するなり、美由紀は警視庁の現場検証に立ち合う羽目に。美由紀がウィリー・E・ジャクソンが逃げだそうとしたところを捕まえようとしたとき、いきなり彼の全身から真っ赤な炎が噴き上がり焼け焦げ、半径3mも延焼したのだ。特殊な発火現象である。その前に、蒲生警部補が赤羽喜一郎が突然燃えだしたという事態で殺人容疑で留置場暮らしをしていたという事件も起こっていた。これらの事態は、どうも近未来への伏線になっているようだ。本書を通読して、この事態の関連はその後進展していないから。これは何?興味をそそる。まずは、美由紀と嵯峨、蒲生がここで再会を果たす。美由紀は蒲生から鍛冶がこめかみを撃って自殺したことを知らされる。
このストーリーの実質的な始まりは、美由紀が乃木坂近くのペンデュラム社が入っていた高層ビルを訪れたときである。そのビル内で美由紀はメフィスト・コンサルティング・グループの使いである丸帽・燕尾服姿の老紳士に声をかけられた。美由紀は老紳士から、ペンデュラム関係者全員が処分されたこと、友理佐知子がメフィスト・コンサルティング・グループの特別顧問補佐だったことを告げられる。さらに、友理がふたたび革命を起こすことを画策していて、実行日が間近に迫っていると告げられた。老紳士は、美由紀が友理佐知子に対峙すること、メフィスト・コンサルティングは現時点の日本では傍観者に過ぎないという。老紳士は美由紀の前から姿を消すために、非情な手段を準備していた。ガラス張りのエレベータ・シャフト内に10代半ばくらいの少年を逆さ吊りにしていたのだ。逆さづりのロープはエレベータの底に結ばれていた。エレベータは最上階に到達後37秒で1階に降りてくるという。美由紀は老紳士を問い詰める間もなく、少年の救助を最優先する羽目に・・・・。37秒の救出劇が実質的なストーリーの始まりとなる。ここから、活劇的な山場が次々に連続し展開されて行くことになる。それはなぜか?
美由紀が救助したのは日向亮平。杉並中学2年生。中野慈恵園という児童養護施設に暮らしている少年だった。亮平にとっては岬の様な女性が好みであり、一方岬が好むタイプでもあると老紳士が人質にした理由を亮平に語っていたという。実はこの視点がこのストーリーにおいて重要な要素となっていくのだから、徐々に面白くなる。
美由紀が臨床心理士会から中野慈恵園にカウンセラーとして派遣されたことから事件が始まる。建物内で爆発が起こったのだ。ペットボトルの爆発。それは園児を利用し仕掛けられたものだった。園児の結衣を人質にミドリの猿・ジャムサが美由紀の前に現れた。それは、美由紀を導き出すための罠だった。美由紀はフェラーリでジャムサを追跡する行動に出る。美由紀の車に亮平が同乗することに。追跡劇が始まる。ジャムサの乗るトラックは、美由紀を中央環状線内回りの山の手トンネルの下りに意図的に誘導して行った。
トラックのすぐ後には、禁じられているはずのタンクローリーが走行していた。そして、トンネル内でタンクローリーがスピンし爆発。トンネル崩落事故が発生する。この事故こそ、友里佐知子が意図的に起こさせた事故だった。西新宿の出口は落盤により塞がれた。
トンネル内の状況が徐々に分かってくる。非常電話は電源が落ちている。25m間隔の赤外線センサーと消火用水噴霧器は作動していない。火災報知器の警報は鳴らない。50mおきにある手動の消火設備すら役に立たなくなっている。車道の下の避難通路の先にある西新宿の出口方向は通路の行く手の防火シャッターが下りていた。本当に脱出方法はないのか。
とんでもない状況が引き起こされることに。トンネル内のスピーカーから、鬼芭阿諛子の声が流れる。「午後11時です。皆様、いかがお過ごしでしょうか。恒星天球教がお送りするイリミネーションの儀式、ここ山手トンネル避難通路にて、間もなく開始されます」(p200)と。
イリミネーション(elimination)とは、除去、排除、抹殺を意味する。非難通路は閉鎖されていて地上への出口はないという。この避難通路に、恒星天球教は3種のイリミネーターを順次送り込んでくるというのだ。
前頭葉切除手術を施され精神的な高次機能を失い、暗示を受け入れて行動するというロボット化した殺戮者群を送り込んでくるのだと美由紀は理解する。これは友里佐知子による人為的なテロであると。
トンネル内に閉じ込められた人々は直接的にはイリミネーターと闘うという行動をサバイバルするために始めざるを得なくなる。デス・ゲームの始まりである。
美由紀は閉じ込められた人々をどのようにして救うことができるか。己の信念をかけて行動を始める。直接的には、順次送り込まれるという3種のイリミネーターとの闘いとなる。その闘いに勝つためのヒントを美由紀は掴まねばならない。そこに状況悪化の要因が加わる。避難経路に空気を送り込むダクトが機能していないので空気の残量が減少してくる。さらに避難通路の非常灯が消えるという事態が起こる。作為的に電源が落とされたのだ。電源操作を行うエリアまで何とかして向かい、対策を取らねばならない。美由紀は獅子奮迅の行動を求められていく。美由紀にとってはこの状況を引き起こした背後にいる友里佐知子との頭脳戦、心理戦も同時に考慮しなければならない。
友理佐知子の狙い、意図は単に殺戮だけではない筈である。そこにどのような意図が秘められているのか。それを探らねば、この闘いに勝ちサバイバルできないことになる。
ストーリーは、この状況の中で様々な人々の行動を点描風に織り交ぜていく。弁護士と自称する川添雄次。パトロール隊の警官である竹之下と志摩。整形外科医の片平英一郎。トンネル工事において下請工務店で働いていたという笠松章平。国土交通省に務める相山清人。救急救命士の龍田祐樹と翠原広茂。パソコンを使い解析ソフトの操作に専念するニートの石鍋良一。米軍兵士ローレンソン。この状況の最中に産気づいた寿美子と彼女をサポートする出産経験のある竹居比郎子。東大工学部の学生・森田祐未。不動産会社勤務の土方有吉。等々、様々な人々がそれぞれの行動をとっていく。
彼等は様々な局面で美由紀に関わっていくことになる。勿論、亮平も行動している。
都心の地下深いトンネルでの爆発事故という可能性ゼロとは断言できない想定の上に、現状では荒唐無稽と思えるフィクションを重ねた世界で闘争活劇が繰り広げられて行く。壮絶である。興味深い設定の一つは、イリミネーターの闘いに役立つイリミネーターの弱点が潜んでいるという点である。これをどうして見つけるか。このあたり、ゲーム感覚が巧みに盛り込まれているとも言える。
そして、美由紀は友里佐知子がこのイリミネーションの儀式を通じて何を狙っていたのか、遂に気づくに至る。
クライマックスでの展開が興味深い。思わぬどんでん返しが仕組まれている。お楽しみに・・・・・。
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『後催眠 完全版』 角川文庫
『催眠 完全版』 角川文庫
『クラシックシリーズ3 千里眼 運命の暗示 完全版』 角川文庫
『クラシックシリーズ2 千里眼 ミドリの猿 完全版』 角川文庫
『クラシックシリーズ1 千里眼 完全版』 角川文庫
『探偵の鑑定』Ⅰ・Ⅱ 講談社文庫
『探偵の探偵』、同 Ⅱ~Ⅳ 講談社文庫
松岡圭祐 読後印象記掲載リスト ver.2 2021.6.11時点 総計32冊