本書は別冊太陽40周年特別記念号として、2013年3月に出版された。
22cm x 29cm というサイズの本、A4の紙より若干幅が広い。全部で303ページ。「あとがき」を読むと、当初は飛鳥時代から江戸時代までの仏像史全体を10冊シリーズで刊行する企画だった。それが6冊の企画に変わり、最後にこの本の出版という形に収斂したそうだ。6冊に編成する予定の仏像史解説が基になり、6回の簡潔な講義という形で本書が構成されることになったという。
巻末に掲載図版一覧が3ページにわたって載っている。主要作品(彫刻・荘厳具ほか)、絵画、建築・伽藍、資料・像内納入品という4区分でのリストである。その件数を数えると、それぞれ228、4、29、21という数になる。総件数は282に及ぶ。1件で複数ページに写真が載っているのもあるので実際の写真の数はこれを上回る。勿論、写真のサイズは本書の1ページ全体が1枚の写真というものから、1ページに数枚の写真と講義の文章というレイアウトまで、写真の大小は様々である。だが嬉しいのは単行本や文庫本サイズに掲載の小さな仏像写真と異なり、A4サイズ大までの仏像写真が載っていることだ。仏像の魅力をダイナミックにかつ細部の微細なところまで味わうことができる。1冊完結の通史本としては、図像の豊富さを含めまさに圧巻である。「日本仏像史講義」という通史の観点での本なので、現存する数多の仏像から基軸となる仏像・代表的な仏像が抽出されほぼ網羅されている。このことが仏像鑑賞の基本教材としてありがたい。
本書は「日本仏像史」であるので、当然のことながら仏像の存在自体を起点としている。つまり仏像がどのような経緯で造立され、具象化されてきたかの論及はない。それは別次元のテーマということだろう。仏像の存在を所与のものとし、日本に将来されて以来の仏像変遷史である。また仏像を広義にとらえた形での通史として論じられている。
「開講の辞」に記されたわかりやすくて簡潔な説明からそのエッセンスだけ抜き書きすると、広義の仏像として以下のものを総合的に扱い講義が進められていくことになる。
「如来」:悟りを開いた釈迦(釈迦如来、仏陀)及び仏教の発展過程で生まれた如来
「菩薩」:釈迦の修行中の姿及び仏教の発展過程で生まれた菩薩
「天」 :異教から取りこまれた仏教を守護するものとしての存在
「明王」:密教の教義展開で考え出された存在
飛鳥時代、6世紀前半に渡来した仏像は、輸入された仏教に対する当初の確執時期を経て、日本に根付いていくことになる。6世紀の末ころには日本でも仏像が造られるようになり、時代時代に仏像を将来しながらも、日本独自の様式が形成されていく。この経緯が6回の講義という形で、わかりやすく説明されている。日本における仏像の発展変遷を仏教思想面と仏像の様式面で通覧するのに便利である。巻末の掲載図版一覧を索引として使うことで、代表的な仏像を一見する便覧としても役に立つ。
本書の6回の講義の章立てをご紹介しておこう。
第1講 仏像の黎明 飛鳥時代
第2講 古典の完成 奈良時代
第3講 転形と模索 平安時代Ⅰ
第4講 和様と眈美 平安時代Ⅱ
第5講 再生と変奏 鎌倉時代Ⅰ
第6講 伝統の命脈 鎌倉時代Ⅱ、南北朝時代以降
この講義のタイトルを読んでいくだけで、日本における仏像がどのように発展変遷してきたかについて、その大きな流れを感じとれることと思う。
本書各講の小見出しを列挙し、簡単な覚書を付記しておきたい。
第1講
仏像の渡来と飛鳥時代の開幕/法隆寺の造像と飛鳥時代前期の金銅仏
飛鳥時代前期の木彫/飛鳥時代後期という時代/飛鳥時代後期の金銅仏と木彫
さまざまな新技法
→ 法隆寺金堂の釈迦三尊像について、像の銘記に関し、文献史学の立場と美術史の立場の違いが述べられていて興味深い。この仏像がやはり日本の仏像の歴史の劈頭を飾る作品のようだ。当時の日本における独自の工夫が着衣の形式に取り入れられているとか。そういうことは初めて知った。写真の多くが有名な飛鳥園の撮影によるものである。章の冒頭に、この釈迦如来の左手の大写しモノクロ写真が載っている。そして見開きで1ページ半の大きさでこの三尊像の写真が載っているのはやはり見応えがある。続く頁にアングルを変えた写真も載っていてなかなかいい。
塑像、乾漆像、塼仏、押出仏などの様々な新技法は7世紀半ば以降に唐から伝来したそうで、これら技法の説明もわかりやすい。
大サイズの写真は、漆箔のひび割れや鍍金のはがれ、彩色の状況などもリアルに識別できて、現存仏像の状態もよくわかり、悠久の時を経たその存在感が増す。
第2講
平城京の寺と仏像/法隆寺の塑像/薬師寺金堂薬師三尊像と大金銅仏の系譜
興福寺西金銅の諸像/法華堂の諸像と東大寺/唐招提寺と西大寺
木彫の成立と捻塑系の新技法/神仏習合の成立
→ この読後印象記をまとめるために部分再読していて改めて気づいたのは、各章の冒頭を仏像の手(掌)・腕のクローズアップ写真で一貫させていることだ。なかなかおもしろい。
著者は仏像の歴史の上での奈良時代は、和銅3年(710)の平城京遷都から延暦3年(784)の長岡京遷都までとする。この時代を美術史では天平時代とよぶ伝統があるが、「はるかに高い空を思わせるその語感は、この時代の仏像の気分をよくあらわしている」と述べ、「日本の仏像の造形が、その(注記:東アジアの)中心である中国の水準にもっとも接近した時期である・・・・そのまま日本の仏像の古典となった」(p52)と記す。
法隆寺、薬師寺、興福寺、東大寺、唐招提寺、西大寺の諸仏像のエッセンスが集合していてすばらしい。
第3講
遷都と仏教の革新/転形の時代/承和様式の仏像/和様の萌芽/典型の模索
清涼寺釈迦如来像の請来
→ 著者は、わずか10年間の長岡京の時代が、仏像については衝撃的な転形の様相をみせはじめるときと説く。そして10世紀後半および11世紀はじめあたりまでをこの講で論じている。転形の時代をまずカヤ材の一木造り・代用檀像としての神護寺薬師如来像、宝菩提院像、新薬師寺薬師如来像から説いていく。最澄・空海による密教の請来と仏教の刷新のなかから生まれる平安最初期の「承和様式」の展開、日本の仏像の姿の模索を語る。取り上げられた仏像をA4サイズ大で眺められるのがいい。仏像空間として、東寺(教王護国寺)講堂の諸仏が9頁にわたって写真で載っている。
第4講
平安時代後期の盛期と定朝/平等院鳳凰堂/和様の継承と眈美への沈潜
新時代への胎動/地方造像の拡大/南都復興の開幕
→ 平安時代後期はあの定朝の活躍期である。日本独自の寄木造り技法の完成と定朝様式の仏像の確立が論じられる。そして、定朝の系統の中央仏師が院政期(11世紀末以降)に、院派・円派・奈良仏師の三系統に分かれていく経緯と仏像作品群が説明される。知識の整理として有益である。院派と円派は京都に住み、院・宮廷・摂関家関係の造像に携わり、奈良仏師は興福寺内の仏所を基盤に活動して行ったという。平等院鳳凰堂の諸仏が5ページで、また「和様の継承と眈美への沈潜」として16頁、「地方造像の拡大」として10頁にわたり、諸仏の写真が載っている。
第5講
鎌倉時代の開始/運慶の御家人造像/康慶と南都復興/運慶と鎌倉彫刻の完成
運慶の周辺/運慶・快慶の二代目/鎌倉中期の京都・奈良・鎌倉
蓮華王院本堂の再興造像
→ 勿論ここでは、運慶を基軸にしながら、彼の父・康慶とその一門、快慶が論じられる。運慶・快慶の二代目である湛慶と康勝にも言及される。慶派の活躍の広がりがよくわかる。一方、鎌倉中期の京都の院派・円派や奈良で活躍したという善円とその系統の作品にもバランスよく言及されている。
この講では仏像空間として、浄土寺浄土堂、興福寺北円堂、妙法院蓮華王院本堂に焦点が当てられている。一部説明文が載るがこの講での諸仏の写真が40ページに及ぶ。よくご存知の仏像が一堂に会している。仏像好きには実に楽しい。
第6講
鎌倉時代後期/南北朝時代/室町時代/桃山時代/江戸時代
→ 鎌倉時代後期以降、江戸時代後期までがかなり大ぐくりに論じられている。それは鎌倉時代後期、王朝文化の終焉により、王朝的な造像規範が壊滅し、概念的な造形が増え、一部で当時の中国風の造形への傾斜が始まったという。宋元風への傾斜が急になったようだ。南北朝時代には、院派が時の権力者と結びつき唐様の造像をしたという。その後のいわゆる戦国時代は、「衰退が一段とすすみ、造形から写実性は失われて仏像史の上では暗黒時代と称すべき時期である」ようだ。その中で、伝統の片鱗を示す局面について著者は論じている。著者は江戸時代に入り、世の中が安定し、仏教が幕府の統制を受けると同時に庇護も受けることとなり全国の寺院数が増加したという。そして造像という点では多様な時代に入ったとする。このマクロな視点での造像傾向の変遷を理解しておくと、鎌倉時代後期以降の仏像を鑑賞するのに役立つと思われる。
著者は講義の最後を次の文で締めくくっている。
「神仏分離令とそれにともなう廃仏毀釈の嵐は、仏像と仏師の伝統の命脈を断つものであった。ここに日本仏像史はひとまずの終焉を迎える。」
6回の講義は明治維新をもって終講となった。さて明治以降の造像はどうなっているのだろうか。現在の仏師は過去の仏像の補修、修復に比重を移しただけなのか。新たな概念による造像を試みているのか否か。確立された造像様式の伝統踏襲の世界になっているのか。本書を読み、一方で新たな疑問と関心も芽生えた。
手の届くところに蔵し、仏像鑑賞の基本書として立ち戻っていくのに有益な書だと思う。説明文を読むことなく、折りに触れて掲載されている仏像を眺めるだけでも役に立つ本だ。仏像を対比して眺めていると、多分講義の内容を部分再読することへと導かれることだろう。そんな気がする。
ご一読ありがとうございます。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
ネット世界に仏像について有益なサイトがないだろうか。少し検索してみた。
検索範囲で得たものを一覧にしておきたい。
仏像 :ウィキペディア
仏の一覧 :ウィキペディア
e國寶 国立博物館所蔵 国宝・重要文化財
分野のメニューから「彫刻」を選ぶと、国立博物館の所蔵品が閲覧できる。
東京国立博物館 画像検索
カテゴリー「彫刻」から見るか、キーワードに「仏像」と入力検索して閲覧が可能。
京都国立博物館 収蔵品データベース
作品分類の項目覧から、仏像の項目を選択して検索すると、収蔵品が閲覧できる。
奈良国立博物館 画像データベース
キーワードとして「仏像」を入れると、アーカイブズの仏像一覧を閲覧できる。
文化財 「国宝」「重要文化財」 :「興福寺」HP
飛鳥園 -トップページ-
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
22cm x 29cm というサイズの本、A4の紙より若干幅が広い。全部で303ページ。「あとがき」を読むと、当初は飛鳥時代から江戸時代までの仏像史全体を10冊シリーズで刊行する企画だった。それが6冊の企画に変わり、最後にこの本の出版という形に収斂したそうだ。6冊に編成する予定の仏像史解説が基になり、6回の簡潔な講義という形で本書が構成されることになったという。
巻末に掲載図版一覧が3ページにわたって載っている。主要作品(彫刻・荘厳具ほか)、絵画、建築・伽藍、資料・像内納入品という4区分でのリストである。その件数を数えると、それぞれ228、4、29、21という数になる。総件数は282に及ぶ。1件で複数ページに写真が載っているのもあるので実際の写真の数はこれを上回る。勿論、写真のサイズは本書の1ページ全体が1枚の写真というものから、1ページに数枚の写真と講義の文章というレイアウトまで、写真の大小は様々である。だが嬉しいのは単行本や文庫本サイズに掲載の小さな仏像写真と異なり、A4サイズ大までの仏像写真が載っていることだ。仏像の魅力をダイナミックにかつ細部の微細なところまで味わうことができる。1冊完結の通史本としては、図像の豊富さを含めまさに圧巻である。「日本仏像史講義」という通史の観点での本なので、現存する数多の仏像から基軸となる仏像・代表的な仏像が抽出されほぼ網羅されている。このことが仏像鑑賞の基本教材としてありがたい。
本書は「日本仏像史」であるので、当然のことながら仏像の存在自体を起点としている。つまり仏像がどのような経緯で造立され、具象化されてきたかの論及はない。それは別次元のテーマということだろう。仏像の存在を所与のものとし、日本に将来されて以来の仏像変遷史である。また仏像を広義にとらえた形での通史として論じられている。
「開講の辞」に記されたわかりやすくて簡潔な説明からそのエッセンスだけ抜き書きすると、広義の仏像として以下のものを総合的に扱い講義が進められていくことになる。
「如来」:悟りを開いた釈迦(釈迦如来、仏陀)及び仏教の発展過程で生まれた如来
「菩薩」:釈迦の修行中の姿及び仏教の発展過程で生まれた菩薩
「天」 :異教から取りこまれた仏教を守護するものとしての存在
「明王」:密教の教義展開で考え出された存在
飛鳥時代、6世紀前半に渡来した仏像は、輸入された仏教に対する当初の確執時期を経て、日本に根付いていくことになる。6世紀の末ころには日本でも仏像が造られるようになり、時代時代に仏像を将来しながらも、日本独自の様式が形成されていく。この経緯が6回の講義という形で、わかりやすく説明されている。日本における仏像の発展変遷を仏教思想面と仏像の様式面で通覧するのに便利である。巻末の掲載図版一覧を索引として使うことで、代表的な仏像を一見する便覧としても役に立つ。
本書の6回の講義の章立てをご紹介しておこう。
第1講 仏像の黎明 飛鳥時代
第2講 古典の完成 奈良時代
第3講 転形と模索 平安時代Ⅰ
第4講 和様と眈美 平安時代Ⅱ
第5講 再生と変奏 鎌倉時代Ⅰ
第6講 伝統の命脈 鎌倉時代Ⅱ、南北朝時代以降
この講義のタイトルを読んでいくだけで、日本における仏像がどのように発展変遷してきたかについて、その大きな流れを感じとれることと思う。
本書各講の小見出しを列挙し、簡単な覚書を付記しておきたい。
第1講
仏像の渡来と飛鳥時代の開幕/法隆寺の造像と飛鳥時代前期の金銅仏
飛鳥時代前期の木彫/飛鳥時代後期という時代/飛鳥時代後期の金銅仏と木彫
さまざまな新技法
→ 法隆寺金堂の釈迦三尊像について、像の銘記に関し、文献史学の立場と美術史の立場の違いが述べられていて興味深い。この仏像がやはり日本の仏像の歴史の劈頭を飾る作品のようだ。当時の日本における独自の工夫が着衣の形式に取り入れられているとか。そういうことは初めて知った。写真の多くが有名な飛鳥園の撮影によるものである。章の冒頭に、この釈迦如来の左手の大写しモノクロ写真が載っている。そして見開きで1ページ半の大きさでこの三尊像の写真が載っているのはやはり見応えがある。続く頁にアングルを変えた写真も載っていてなかなかいい。
塑像、乾漆像、塼仏、押出仏などの様々な新技法は7世紀半ば以降に唐から伝来したそうで、これら技法の説明もわかりやすい。
大サイズの写真は、漆箔のひび割れや鍍金のはがれ、彩色の状況などもリアルに識別できて、現存仏像の状態もよくわかり、悠久の時を経たその存在感が増す。
第2講
平城京の寺と仏像/法隆寺の塑像/薬師寺金堂薬師三尊像と大金銅仏の系譜
興福寺西金銅の諸像/法華堂の諸像と東大寺/唐招提寺と西大寺
木彫の成立と捻塑系の新技法/神仏習合の成立
→ この読後印象記をまとめるために部分再読していて改めて気づいたのは、各章の冒頭を仏像の手(掌)・腕のクローズアップ写真で一貫させていることだ。なかなかおもしろい。
著者は仏像の歴史の上での奈良時代は、和銅3年(710)の平城京遷都から延暦3年(784)の長岡京遷都までとする。この時代を美術史では天平時代とよぶ伝統があるが、「はるかに高い空を思わせるその語感は、この時代の仏像の気分をよくあらわしている」と述べ、「日本の仏像の造形が、その(注記:東アジアの)中心である中国の水準にもっとも接近した時期である・・・・そのまま日本の仏像の古典となった」(p52)と記す。
法隆寺、薬師寺、興福寺、東大寺、唐招提寺、西大寺の諸仏像のエッセンスが集合していてすばらしい。
第3講
遷都と仏教の革新/転形の時代/承和様式の仏像/和様の萌芽/典型の模索
清涼寺釈迦如来像の請来
→ 著者は、わずか10年間の長岡京の時代が、仏像については衝撃的な転形の様相をみせはじめるときと説く。そして10世紀後半および11世紀はじめあたりまでをこの講で論じている。転形の時代をまずカヤ材の一木造り・代用檀像としての神護寺薬師如来像、宝菩提院像、新薬師寺薬師如来像から説いていく。最澄・空海による密教の請来と仏教の刷新のなかから生まれる平安最初期の「承和様式」の展開、日本の仏像の姿の模索を語る。取り上げられた仏像をA4サイズ大で眺められるのがいい。仏像空間として、東寺(教王護国寺)講堂の諸仏が9頁にわたって写真で載っている。
第4講
平安時代後期の盛期と定朝/平等院鳳凰堂/和様の継承と眈美への沈潜
新時代への胎動/地方造像の拡大/南都復興の開幕
→ 平安時代後期はあの定朝の活躍期である。日本独自の寄木造り技法の完成と定朝様式の仏像の確立が論じられる。そして、定朝の系統の中央仏師が院政期(11世紀末以降)に、院派・円派・奈良仏師の三系統に分かれていく経緯と仏像作品群が説明される。知識の整理として有益である。院派と円派は京都に住み、院・宮廷・摂関家関係の造像に携わり、奈良仏師は興福寺内の仏所を基盤に活動して行ったという。平等院鳳凰堂の諸仏が5ページで、また「和様の継承と眈美への沈潜」として16頁、「地方造像の拡大」として10頁にわたり、諸仏の写真が載っている。
第5講
鎌倉時代の開始/運慶の御家人造像/康慶と南都復興/運慶と鎌倉彫刻の完成
運慶の周辺/運慶・快慶の二代目/鎌倉中期の京都・奈良・鎌倉
蓮華王院本堂の再興造像
→ 勿論ここでは、運慶を基軸にしながら、彼の父・康慶とその一門、快慶が論じられる。運慶・快慶の二代目である湛慶と康勝にも言及される。慶派の活躍の広がりがよくわかる。一方、鎌倉中期の京都の院派・円派や奈良で活躍したという善円とその系統の作品にもバランスよく言及されている。
この講では仏像空間として、浄土寺浄土堂、興福寺北円堂、妙法院蓮華王院本堂に焦点が当てられている。一部説明文が載るがこの講での諸仏の写真が40ページに及ぶ。よくご存知の仏像が一堂に会している。仏像好きには実に楽しい。
第6講
鎌倉時代後期/南北朝時代/室町時代/桃山時代/江戸時代
→ 鎌倉時代後期以降、江戸時代後期までがかなり大ぐくりに論じられている。それは鎌倉時代後期、王朝文化の終焉により、王朝的な造像規範が壊滅し、概念的な造形が増え、一部で当時の中国風の造形への傾斜が始まったという。宋元風への傾斜が急になったようだ。南北朝時代には、院派が時の権力者と結びつき唐様の造像をしたという。その後のいわゆる戦国時代は、「衰退が一段とすすみ、造形から写実性は失われて仏像史の上では暗黒時代と称すべき時期である」ようだ。その中で、伝統の片鱗を示す局面について著者は論じている。著者は江戸時代に入り、世の中が安定し、仏教が幕府の統制を受けると同時に庇護も受けることとなり全国の寺院数が増加したという。そして造像という点では多様な時代に入ったとする。このマクロな視点での造像傾向の変遷を理解しておくと、鎌倉時代後期以降の仏像を鑑賞するのに役立つと思われる。
著者は講義の最後を次の文で締めくくっている。
「神仏分離令とそれにともなう廃仏毀釈の嵐は、仏像と仏師の伝統の命脈を断つものであった。ここに日本仏像史はひとまずの終焉を迎える。」
6回の講義は明治維新をもって終講となった。さて明治以降の造像はどうなっているのだろうか。現在の仏師は過去の仏像の補修、修復に比重を移しただけなのか。新たな概念による造像を試みているのか否か。確立された造像様式の伝統踏襲の世界になっているのか。本書を読み、一方で新たな疑問と関心も芽生えた。
手の届くところに蔵し、仏像鑑賞の基本書として立ち戻っていくのに有益な書だと思う。説明文を読むことなく、折りに触れて掲載されている仏像を眺めるだけでも役に立つ本だ。仏像を対比して眺めていると、多分講義の内容を部分再読することへと導かれることだろう。そんな気がする。
ご一読ありがとうございます。
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ネット世界に仏像について有益なサイトがないだろうか。少し検索してみた。
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仏像 :ウィキペディア
仏の一覧 :ウィキペディア
e國寶 国立博物館所蔵 国宝・重要文化財
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東京国立博物館 画像検索
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京都国立博物館 収蔵品データベース
作品分類の項目覧から、仏像の項目を選択して検索すると、収蔵品が閲覧できる。
奈良国立博物館 画像データベース
キーワードとして「仏像」を入れると、アーカイブズの仏像一覧を閲覧できる。
文化財 「国宝」「重要文化財」 :「興福寺」HP
飛鳥園 -トップページ-
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その点、ご寛恕ください。)