遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『仏像 日本仏像史講義』  山本勉  平凡社

2014-01-30 10:16:13 | レビュー
 本書は別冊太陽40周年特別記念号として、2013年3月に出版された。
 22cm x 29cm というサイズの本、A4の紙より若干幅が広い。全部で303ページ。「あとがき」を読むと、当初は飛鳥時代から江戸時代までの仏像史全体を10冊シリーズで刊行する企画だった。それが6冊の企画に変わり、最後にこの本の出版という形に収斂したそうだ。6冊に編成する予定の仏像史解説が基になり、6回の簡潔な講義という形で本書が構成されることになったという。
 巻末に掲載図版一覧が3ページにわたって載っている。主要作品(彫刻・荘厳具ほか)、絵画、建築・伽藍、資料・像内納入品という4区分でのリストである。その件数を数えると、それぞれ228、4、29、21という数になる。総件数は282に及ぶ。1件で複数ページに写真が載っているのもあるので実際の写真の数はこれを上回る。勿論、写真のサイズは本書の1ページ全体が1枚の写真というものから、1ページに数枚の写真と講義の文章というレイアウトまで、写真の大小は様々である。だが嬉しいのは単行本や文庫本サイズに掲載の小さな仏像写真と異なり、A4サイズ大までの仏像写真が載っていることだ。仏像の魅力をダイナミックにかつ細部の微細なところまで味わうことができる。1冊完結の通史本としては、図像の豊富さを含めまさに圧巻である。「日本仏像史講義」という通史の観点での本なので、現存する数多の仏像から基軸となる仏像・代表的な仏像が抽出されほぼ網羅されている。このことが仏像鑑賞の基本教材としてありがたい。

 本書は「日本仏像史」であるので、当然のことながら仏像の存在自体を起点としている。つまり仏像がどのような経緯で造立され、具象化されてきたかの論及はない。それは別次元のテーマということだろう。仏像の存在を所与のものとし、日本に将来されて以来の仏像変遷史である。また仏像を広義にとらえた形での通史として論じられている。
 「開講の辞」に記されたわかりやすくて簡潔な説明からそのエッセンスだけ抜き書きすると、広義の仏像として以下のものを総合的に扱い講義が進められていくことになる。
「如来」:悟りを開いた釈迦(釈迦如来、仏陀)及び仏教の発展過程で生まれた如来 
「菩薩」:釈迦の修行中の姿及び仏教の発展過程で生まれた菩薩
「天」 :異教から取りこまれた仏教を守護するものとしての存在
「明王」:密教の教義展開で考え出された存在
 飛鳥時代、6世紀前半に渡来した仏像は、輸入された仏教に対する当初の確執時期を経て、日本に根付いていくことになる。6世紀の末ころには日本でも仏像が造られるようになり、時代時代に仏像を将来しながらも、日本独自の様式が形成されていく。この経緯が6回の講義という形で、わかりやすく説明されている。日本における仏像の発展変遷を仏教思想面と仏像の様式面で通覧するのに便利である。巻末の掲載図版一覧を索引として使うことで、代表的な仏像を一見する便覧としても役に立つ。

 本書の6回の講義の章立てをご紹介しておこう。
 第1講 仏像の黎明 飛鳥時代
 第2講 古典の完成 奈良時代
 第3講 転形と模索 平安時代Ⅰ
 第4講 和様と眈美 平安時代Ⅱ
 第5講 再生と変奏 鎌倉時代Ⅰ
 第6講 伝統の命脈 鎌倉時代Ⅱ、南北朝時代以降
 この講義のタイトルを読んでいくだけで、日本における仏像がどのように発展変遷してきたかについて、その大きな流れを感じとれることと思う。

 本書各講の小見出しを列挙し、簡単な覚書を付記しておきたい。
第1講
 仏像の渡来と飛鳥時代の開幕/法隆寺の造像と飛鳥時代前期の金銅仏
 飛鳥時代前期の木彫/飛鳥時代後期という時代/飛鳥時代後期の金銅仏と木彫
 さまざまな新技法

→ 法隆寺金堂の釈迦三尊像について、像の銘記に関し、文献史学の立場と美術史の立場の違いが述べられていて興味深い。この仏像がやはり日本の仏像の歴史の劈頭を飾る作品のようだ。当時の日本における独自の工夫が着衣の形式に取り入れられているとか。そういうことは初めて知った。写真の多くが有名な飛鳥園の撮影によるものである。章の冒頭に、この釈迦如来の左手の大写しモノクロ写真が載っている。そして見開きで1ページ半の大きさでこの三尊像の写真が載っているのはやはり見応えがある。続く頁にアングルを変えた写真も載っていてなかなかいい。
  塑像、乾漆像、塼仏、押出仏などの様々な新技法は7世紀半ば以降に唐から伝来したそうで、これら技法の説明もわかりやすい。
  大サイズの写真は、漆箔のひび割れや鍍金のはがれ、彩色の状況などもリアルに識別できて、現存仏像の状態もよくわかり、悠久の時を経たその存在感が増す。

第2講
 平城京の寺と仏像/法隆寺の塑像/薬師寺金堂薬師三尊像と大金銅仏の系譜
 興福寺西金銅の諸像/法華堂の諸像と東大寺/唐招提寺と西大寺
 木彫の成立と捻塑系の新技法/神仏習合の成立

→ この読後印象記をまとめるために部分再読していて改めて気づいたのは、各章の冒頭を仏像の手(掌)・腕のクローズアップ写真で一貫させていることだ。なかなかおもしろい。
  著者は仏像の歴史の上での奈良時代は、和銅3年(710)の平城京遷都から延暦3年(784)の長岡京遷都までとする。この時代を美術史では天平時代とよぶ伝統があるが、「はるかに高い空を思わせるその語感は、この時代の仏像の気分をよくあらわしている」と述べ、「日本の仏像の造形が、その(注記:東アジアの)中心である中国の水準にもっとも接近した時期である・・・・そのまま日本の仏像の古典となった」(p52)と記す。
  法隆寺、薬師寺、興福寺、東大寺、唐招提寺、西大寺の諸仏像のエッセンスが集合していてすばらしい。

第3講
 遷都と仏教の革新/転形の時代/承和様式の仏像/和様の萌芽/典型の模索
 清涼寺釈迦如来像の請来

→ 著者は、わずか10年間の長岡京の時代が、仏像については衝撃的な転形の様相をみせはじめるときと説く。そして10世紀後半および11世紀はじめあたりまでをこの講で論じている。転形の時代をまずカヤ材の一木造り・代用檀像としての神護寺薬師如来像、宝菩提院像、新薬師寺薬師如来像から説いていく。最澄・空海による密教の請来と仏教の刷新のなかから生まれる平安最初期の「承和様式」の展開、日本の仏像の姿の模索を語る。取り上げられた仏像をA4サイズ大で眺められるのがいい。仏像空間として、東寺(教王護国寺)講堂の諸仏が9頁にわたって写真で載っている。

第4講
 平安時代後期の盛期と定朝/平等院鳳凰堂/和様の継承と眈美への沈潜
 新時代への胎動/地方造像の拡大/南都復興の開幕

→ 平安時代後期はあの定朝の活躍期である。日本独自の寄木造り技法の完成と定朝様式の仏像の確立が論じられる。そして、定朝の系統の中央仏師が院政期(11世紀末以降)に、院派・円派・奈良仏師の三系統に分かれていく経緯と仏像作品群が説明される。知識の整理として有益である。院派と円派は京都に住み、院・宮廷・摂関家関係の造像に携わり、奈良仏師は興福寺内の仏所を基盤に活動して行ったという。平等院鳳凰堂の諸仏が5ページで、また「和様の継承と眈美への沈潜」として16頁、「地方造像の拡大」として10頁にわたり、諸仏の写真が載っている。

第5講
 鎌倉時代の開始/運慶の御家人造像/康慶と南都復興/運慶と鎌倉彫刻の完成
 運慶の周辺/運慶・快慶の二代目/鎌倉中期の京都・奈良・鎌倉
 蓮華王院本堂の再興造像

→ 勿論ここでは、運慶を基軸にしながら、彼の父・康慶とその一門、快慶が論じられる。運慶・快慶の二代目である湛慶と康勝にも言及される。慶派の活躍の広がりがよくわかる。一方、鎌倉中期の京都の院派・円派や奈良で活躍したという善円とその系統の作品にもバランスよく言及されている。
 この講では仏像空間として、浄土寺浄土堂、興福寺北円堂、妙法院蓮華王院本堂に焦点が当てられている。一部説明文が載るがこの講での諸仏の写真が40ページに及ぶ。よくご存知の仏像が一堂に会している。仏像好きには実に楽しい。

第6講
 鎌倉時代後期/南北朝時代/室町時代/桃山時代/江戸時代

→ 鎌倉時代後期以降、江戸時代後期までがかなり大ぐくりに論じられている。それは鎌倉時代後期、王朝文化の終焉により、王朝的な造像規範が壊滅し、概念的な造形が増え、一部で当時の中国風の造形への傾斜が始まったという。宋元風への傾斜が急になったようだ。南北朝時代には、院派が時の権力者と結びつき唐様の造像をしたという。その後のいわゆる戦国時代は、「衰退が一段とすすみ、造形から写実性は失われて仏像史の上では暗黒時代と称すべき時期である」ようだ。その中で、伝統の片鱗を示す局面について著者は論じている。著者は江戸時代に入り、世の中が安定し、仏教が幕府の統制を受けると同時に庇護も受けることとなり全国の寺院数が増加したという。そして造像という点では多様な時代に入ったとする。このマクロな視点での造像傾向の変遷を理解しておくと、鎌倉時代後期以降の仏像を鑑賞するのに役立つと思われる。
 

 著者は講義の最後を次の文で締めくくっている。
「神仏分離令とそれにともなう廃仏毀釈の嵐は、仏像と仏師の伝統の命脈を断つものであった。ここに日本仏像史はひとまずの終焉を迎える。」

 6回の講義は明治維新をもって終講となった。さて明治以降の造像はどうなっているのだろうか。現在の仏師は過去の仏像の補修、修復に比重を移しただけなのか。新たな概念による造像を試みているのか否か。確立された造像様式の伝統踏襲の世界になっているのか。本書を読み、一方で新たな疑問と関心も芽生えた。

 手の届くところに蔵し、仏像鑑賞の基本書として立ち戻っていくのに有益な書だと思う。説明文を読むことなく、折りに触れて掲載されている仏像を眺めるだけでも役に立つ本だ。仏像を対比して眺めていると、多分講義の内容を部分再読することへと導かれることだろう。そんな気がする。

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ネット世界に仏像について有益なサイトがないだろうか。少し検索してみた。
検索範囲で得たものを一覧にしておきたい。

仏像 :ウィキペディア
仏の一覧 :ウィキペディア
e國寶 国立博物館所蔵 国宝・重要文化財
 分野のメニューから「彫刻」を選ぶと、国立博物館の所蔵品が閲覧できる。
東京国立博物館 画像検索
 カテゴリー「彫刻」から見るか、キーワードに「仏像」と入力検索して閲覧が可能。
京都国立博物館 収蔵品データベース
 作品分類の項目覧から、仏像の項目を選択して検索すると、収蔵品が閲覧できる。
奈良国立博物館 画像データベース 
 キーワードとして「仏像」を入れると、アーカイブズの仏像一覧を閲覧できる。
 
文化財 「国宝」「重要文化財」 :「興福寺」HP
 
飛鳥園 -トップページ-



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『赤い密約』 今野 敏  徳間文庫

2014-01-27 10:29:52 | レビュー
 本書は1994年4月に『拳と硝煙』と題して出版された作品を文庫本化(2007.12)にあたり、改題されたものだ。

 時代背景としては、ロシア連邦においてエリツィン派と議会派が対立している時期に設定されている。議会との対立は1993年9月の議会による大統領解任劇に発展した。そして、モスクワの北にあるオスタンキノでテレビ局占拠に端を発したモスクワ銃撃戦が1993年10月に発生した。大統領派は、反大統領派がたてこもる最高会議ビルを戦車で砲撃し、議会側は降伏した。いわゆる10月政変である。
 エリツインがロシア連邦の初代大統領として在任したのは1991-1999年である。
 この作品が出版された時期を考えると、当時のロシアの状況をタイムリーに作品に取りこんだということだろう。だが現時点で読んでも、それはこの作品の背景の雰囲気を取りこむという意味合いにとどまっている。本書のストーリー展開において、導入を劇的にし、主人公がなぜそのように行動するかの深奥の動機づけとしての役割を担うだけとみてよいだろう。つまり、あまり時代背景を気にする必要なしに、作品のストーリーを楽しめるということである。

 この作品の主人公は、沖縄少林流を祖とする常心流の指導者の一人、仙堂辰雄である。筆者はこの作品以前に、常心流の免許皆伝を受けた武術家として竜門光一を主人公にしたシリーズを書いている。文庫本の題でいえば、渋谷署強行犯係シリーズ3作である。
 その後で、筆者は新たにこの仙堂辰雄という武術家を生み出したといえる。

 さて、話はロシアの支部に空手の指導に行っていた仙堂が、モスクワでのテレビ出演の収録を終わった頃に、議会派によるテレビ局占拠に巻き込まれるところから始まる。まさに戦闘状況の描写である。議会派はマフィアと手を結んでいて、テレビ局占拠に出た。通訳と共に退避した部屋に、そのテレビ局の記者、アレクサンドロフが居たのだ。彼は、仙堂にジャンパーの内ポケットから取り出した8ミリ・ビデオのカセット・テープを託す。議会派と組んだマフィアが狙っているのはこのカセット・テープだろうと言う。(今読むと、カセットテープというのが時代を感じさせる・・・・ちょっとなつかしい。)そして、日本に帰国したら必ずこの映像を放映してくれと依頼する。彼は仙堂に言う。アレクサンドロフのスタッフがモスクワの高級レストラン「さくら」で隠し撮りに成功した映像であり、そのテープの価値は、マフィアとヤクザの取引の場に、現役政治家が同席しているのを収録したのだと。あなたはサムライだから託したいと言う。
 仙堂はこのビデオ・テープを預かることになる。彼はモスクワにある半官半民のような組織、カウンター・テロ・アカデミーで空手を指導するために滞在していたのだ。そのアカデミーでの弟子である戦闘のプロ、アントノフに無事助け出される。そして、無事日本に帰国することになる。

 日本に帰国した仙堂は、帰国後に通訳およびアントノフと連絡を取る。そのときアレクサンドロフが殺されていたという事実を知らされる。テレビ局占拠に巻き込まれて殺されたのではなく、マフィアにビデオ・テープの所在を追及された上で、口封じのために殺されたのだろうと聞く羽目になる。仙堂は帰国後に初めてその映像を再生してみるが、勿論その中身の価値はわからない。しかし、亡くなったアレクサンドロフの遺志を果たすために、日本のテレビ局にそのテープを持ち込む。
 テープの内容は、単にビジネスの商談場面に見えるだけの様なシーンなのだ。持ち込まれたテレビ局の応対者は、放映対象に取り上げることに難色を示す。2つの局が難色を示すだけだったが、3つ目の局の応対者である向井田は、仙堂の話を聞き、ビデオの周辺情報を収集すれば、場合により使える材料かも知れないと前向きになってくれる。

 仙堂はその向井田とさらに食事をしながら具体的な話をする段階に進むことができた。だが、その後仙堂と向井田の前に、ヤクザが現れる。仙堂はその場をうまく切り抜けるが、ビデオ・テープの内容に何か重要な秘密があることを感じ始める。向井田も勿論その価値が何かを知ることへと記者魂が動き出す。
 仙堂は、ヤクザにビデオ・テープを奪われずに、放映するという約束を実現するための行動に踏み出すのだ。向井田はテープのダビングやテープの預かりを提案するが、仙堂はビデオ・テープに関わることで犠牲者が出ることを避けるために、自分があくまで原ビデオ・テープを保持することで、切り抜けていきたいという。
 ここから、具体的にストーリーが急展開していくことになる。

 ビデオ・テープの内容がどんな価値を持つものであるかの追求と解明。そのためにはモスクワのアントノフの線で調べてもらうことが必要となる。ビデオ・テープを奪還しようと攻めてくるヤクザの正体の解明と対抗策に対し、仙堂は行動を起こさなければならない。
 向井田はこのビデオ・テープの未知ではあるが放映する価値に気づき始める。番組のキャスターの一人もその話に乗り気になってくる。ビデオ・テープの内容への関心を強化するためには、ヤクザの動きを映像化することが重要な要素となってくる。つまり、仙堂が囮の立場になることに繋がっていく。仙堂はアレクサンドロフとの約束を実現するためにも、ヤクザとの対決は不可避とみて、一歩踏み出していく。

 仙堂はもっぱら、次々と手を打ってくるヤクザとの戦いの修羅場に入って行く。そのプロセスで、アレクセイからビデオ・テープの持つ意味についての具体的な連絡が入ってくる。商談場面に見える内容がどんな密約だったのか、なぜ執拗にヤクザが仙堂を狙ってくるのか・・・・仙堂の孤独な戦いが進展していく。テレビ局のクルーは仙堂のヤクザとの戦いを映像に収め、番組放映への周辺固め、価値づけにまわる。
 ストーリーが思わぬ方向に急展開していく。仙堂はそれに対処しなければならない。

 テレビ局占拠の戦闘シーンによる導入の後は、日本国内での仙堂とヤクザの戦いの展開へとストーリーは切り替わり、話が進展していく。ビデオ・テープのもつ意味と価値はモスクワのアレクセイが解明してくれるという筋立てである。
 武闘活劇のエンターテインメント作品、そこを読ませどころでもある。一気に読んでしまいたくなる話の展開でおもしろい。時代背景はあまり意識しなくてもすむ作品だとも言える。

 仙堂は再び、モスクワに飛ぶ。そしてアレクサンドロフの墓の前に立って言うのだ。

 「約束は果たした」
 彼は、赤いバラの花束を、墓標の前にそっと置いた。
 
この二行が作品の末尾なのだ。「赤い」にはいくつもの意味が重ねられていると感じる。

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ちょっと気になる語句をネット検索して調べて見た。一覧にしておきたい。

ボリス・エリツイン :ウィキペディア
緊迫の10月政変   :「ロシアNOW」
 2013年10月4日 グリゴーリー・ネホローセフ, ロシアNOWへの特別寄稿

ロシアン・マフィア :ウィキペディア
 
オスタンキノ・タワー :ウィキペディア
オスタンキノ・タワー :「都市徘徊blog 徒然まちあるき日記」
 


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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
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『内調特命班 徒手捜査』  徳間文庫
『龍の哭く街』  集英社文庫
『宰領 隠蔽捜査5』  新潮社
『密闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『最後の戦慄』  徳間文庫
『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』  集英社

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新2版




『内調特命班 徒手捜査』 今野 敏  徳間文庫

2014-01-24 09:48:13 | レビュー
 この作品は1992年に犬神族シリーズとして発刊されたもの。原題は『謀殺の拳士 犬神族の拳2』だったようである。文庫本化にあたり改題され、『邀撃捜査』に続くタイトルになったようだ。
 前作で奇しくも運命的な出会いをし、互いの武道の武技が同源であることを確認し合った三人は、内閣情報調査室次長・陣内平吉の下に、チームとして事件を解決する。『外交研究委員会』がこのチームのコード名となった。事件の解決後に、三人はそれぞれの日常に立ち戻り、ちりぢりになる。その三人が、「『外交研究委員会』のメンバーへ、連絡を乞う。総理府・陣内」という新聞広告を見て、集結することになる。それは再び事件を解決するために、三人の武技が必要だという情報発信なのだ。

 三人とは、歴史民族研究所に籍を置く民族学の学者・秋山隆幸。空手と琉球古武術に一生を捧げる武道家で武者修行の旅を続ける屋部長篤。学生ビザで入国しそのまま日本に居ついている不法就労外国人の陳果永。そこに、秋山の担当教授である石坂陽一教授の研究室に出入りする熱田澪という美人大学院生が関わってくる。『外交研究委員会』の事務局的役割を担うのだ。実は、熱田澪の家に伝わる伝説が関わっている。熱田家の先祖に熱田宗覚という武芸者が高貴な人間が飼っている犬から奇妙な拳法を教わり、無敵になった。彼の技が強力すぎたため、その技を3つに分け、それぞれを特に人格のすぐれた3人に別々に伝えたという。その流れが、秋山、屋部、陳だった。

 『邀撃捜査』では、アメリカの不明な組織から送り込まれたチームが、東京でテロを引き起こし日本の経済社会を崩壊させようという計画を、陣内に協力する3人が未然に阻止して、問題を解決した。
 その不明な組織のベールが本作品の冒頭で明らかになる。それは、ボストンの『シティー・クラブハウス』に集まるメンバーで構成された秘密結社『アメリカの良心』だった。この組織が、再び日本に違った形で、ある人間たちを送り込んでくるという話である。
 どこにお送り込もうというのか。
 そこには2つのプランがあった。1つはフルコンタクト系の源空会国際大会。もう1つは長門勝丸率いるANMSの異種格闘技戦の興行である。

 源空会国際大会には、195cm、90kgの筋肉のかたまりのような巨体の海兵隊員、ジャック・ローガンを送り込もうとする。大会の決勝戦の試合で相手を殺して優勝せよという指示だ。その参加の前に、ニューヨークで芹沢猛の特訓を受けさせるという準備をさせた上での参戦なのだ。
 芹沢猛は源空会を破門された武道家で今は独自の道場をニューヨークで開いている。彼はかつて、源空会の大会で優勝し、師範の資格を持つ。かつては源空会ニューヨーク支部の責任者だった。源空会のテクニックを知り尽くしている人物。ある理由から今は源空会への遺恨を抱いており、『アメリカの良心』に協力し、このジャック・ローガンを殺人マシーンにさらにチューンナップさせる役割を担うことになる。
 ANMSの興行の方には、アメリカのプロ空手の団体AAAKがリック・クラッシャーを送り込むという手はずをとる。彼はアマチュアの空手で全米タイトルを取り、プロ空手に転向。異種格闘技戦の強者であり、身長2m、体重120kg超という男。熊と戦って完璧に勝利した最初の人物でもある。

 陣内が新聞広告を出した時、秋山と陳は別々に都内から陣内にコンタクトを取る。一方、屋部はその時、仙台のフルコンタクト系のある会派を訪れていた。かつて少林流系の空手をみっちり叩き込まれたあと、ボクシングのテクニックを取り入れて独自に工夫を重ねたという九門高英の道場である。屋部は九門と試合をし、しばらくこの道場で稽古を続けようと思っていた矢先に、新聞広告を目にしたのだ。勿論陣内にコンタクトを取り、東京に戻ることになる。
 ところが、この九門高英自身が源空会国際大会に参加する予定をしていたのである。

 コードネーム『外交研究委員会』の3人は、試合参加に来日してくるジャック・ローガンとリック・クラッシャーに如何に対処していくのか。筋はシンプルであるが、その展開はなかなかおもしろい。
 冒頭はアメリカ本土で相次ぐ日本人をターゲットにした事件が発生するところから始まる。そして、秘密結社の対日本攻撃計画の会議。屋部と九門の出会いと武道談義。ジャック・ローガンの秘密特訓。源空会国際大会の準備進行。ANMS興行の計画の進行。遂にまず、源空会国際大会が開催され、試合が進んで行くという武術試合の展開。・・・・めぼしい選手が勝ち進んでいく。その中に九門も含まれているのだ。
 主人公3人は、国際大会そのものには出場しない。自らの素性を表に出せる立場ではない。それなら、どうなるのか・・・・。
 それが今回のストーリー展開のおもしろいところでもある。

 陣内は3人に告げる。「今回の危機管理方針は決まりました。『外交研究委員会』の出番はもうないのです。ご苦労さまでした。今日までのギャラは指定の銀行口座に振り込まれます」
 だが、3人の行動はここから始まるのだ。

 まさに3人の「徒手」による行動が最終的に問題解決を行っていく。
 本書もやはり陣内平吉は、3人を引き出す黒子を演じるだけである。ストーリーの本流は武闘の展開にある。本書でもまた、著者は武術の歴史と技の蘊蓄をあちらこちらにちりばめてくれている。ジャック・ローガンに対する芹沢の特訓の描写は興味深い。著者の実践経験の裏打ちがあるのだろうか。空手と無縁の私には判断できないが、読んでいてなるほどと感じる描写である。基礎訓練の重要性を暗示しているともいえる。
 前作にも出ていたが、やはり『槃瓠伝説』には興味をそそられる。
 本書もまた、古さをあまり感じさせないストーリーといえる。ひととき楽しむにはもってこいの作品だ。


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本書に出てくる語句、関連語句でネット検索したものを一覧にまとめておきたい。

本部流 ホームページ 
船越義珍 :ウィキペディア
Gichin Funakoshi 船越義珍 Tekki Shodan :Youtube
糸洲安恒 :ウィキペディア
糸州安恒先生遺訓 :「沖縄空手道の真実」
喜屋武朝徳 :ウィキペディア
拳聖喜屋武朝徳先生とは :「沖縄空手少林流 斯道の館」
八極拳 :ウィキペディア
李書文 :ウィキペディア
八極拳 金剛八式 用法示範  :YouTube
八極拳表演 :YouTube
郭雲深 :ウィキペディア
 
槃瓠伝説 世界大百科事典内の槃瓠伝説の言及 :「コトバンク」
『後漢書』槃瓠伝説  :「民族学伝承ひろいあげ辞典」
 
 
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『龍の哭く街』  集英社文庫
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『密闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『最後の戦慄』  徳間文庫
『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』  集英社

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新2版



『龍の哭く街』 今野 敏  集英社文庫

2014-01-22 10:22:28 | レビュー
 本作品は1996年1月に飛天出版より刊行され、2011年8月に文庫本化されたものである。
 本書には年代が出てこないが、出版された時期の時代背景を踏まえた作品である。1990年代初めに日本経済はバブルが崩壊し、1992年に暴力団対策法が施行されている。日本の暴力団の牙が削がれ、台湾マフィアが次第に引き上げる中で、その間隙に中国人が入り込んで来たという時期である。新宿地域では、中国人同士の抗争が勃発し、2002年後半には日本の暴力団と中国マフィアとの抗争も発生している。そういう時代推移のなかで、この作品が構想され、出版されている。
 具体的な年代、時期の記述がないので、そういうことと無関係に独立したフィクションとしても楽しめる。

 主人公はバーテンダーの氷室和臣である。新宿区役所通りとゴールデン街を結ぶ細い路地に面したビルの地下にある『ハイランド』というカウンターがメインのバーに勤めている。身長は175cm前後、年齢は40歳を過ぎているが、肌の色つやもよく30台前半に見える。ワイシャツを着た肩のあたりが丸く盛り上がり、ベストから筋肉がはみだしているような良い体格である。オールバックというおとなしいスタイルで、あまり口をきかないが聞き上手な人物。彼はかつて入国管理局の第二庁舎、警備課に勤めていた。ある事件で収容されていた不法残留者の兄弟の一人が急性心不全で死亡する。それに関わっていたことから氷室は入管を辞め、就学ビザを取得して台湾に2年間住んでいたことがある。台湾語を学ぶ傍らその文化を理解するために、形意拳と八掌拳という武術や風水を学んだという。帰国してから『ハイランド』に勤めているのだ。

 新宿署が環境浄化作戦を実行した後、しばらく静かになっていたのに、中国人同士の抗争が再びエスカレートし始める。中国人の発砲事件の翌日、法務局入国管理局・特別対策室室長・土門武男という名刺を持った人物が、バーに訪れ、氷室に質問することからストーリーが展開していく。
 土門は不法残留者として収容され、その後中国に送還された中国人呉俊炎を事情があって調べていると言う。呉俊炎と呉良沢という兄弟の不法残留者のうち、呉良沢が急性心不全という死因でなくなり、病死として発表された。そのことに対し、兄の呉俊炎が入管職員の暴行で死亡したと主張して訴訟を起こそうとしたが強制退去で出国、送還されたということの事実を調べているようなのだ。氷室は昔のことで忘れたと答える。だが事実はそのリンチ事件に関わっていた。弟の死亡自体に直接関わりを持ってはいなかったが、兄を押さえているということで暴行を傍観していたのだ。

 氷室は新宿歌舞伎町のキャバクラで働く19歳の村元麻美が客に連れられて『ハイランド』にやってきたことから、知り合いとなり今は中野坂上のマンションで同棲している。この麻美が氷室に、新宿での中国人同士、中国人と日本の暴力団の抗争についての伝聞を氷室に話したり、思わぬことで氷室が耳を傾けざるを得ない発言をするなどの役回りを果たしていく。

 一方、いずれ氷室と関わっていく中国人のヤンという流氓(リュウマン)が登場する。彼は長拳を学んでおり、あることがきっかけでストリートファイターとして才能を開花させ、今や流氓の1グループのリーダーになっている。彼は表社会の経済力をバックに、この歌舞伎町を自分たちのものにしたいという野望を抱いているのだ。その野望を抱かせた裏には大きな資本力を持つボスがいるという。そして、日頃はゴールデン街の空き地で屋台を出す中国人などの用心棒まがいのことを行い、流氓グループの勢力を伸ばそうとしている。ヤンのグループと地元の暴力団との抗争が始まっていく。またボスの指示で密かに指示された人物を事故死に見せかけて殺めることも実施している。

 ある日、『ハイランド』に来た客が、中国人だか台湾人だかが夜中から夜明けにかけて、道路に鉄の杭をさかんに打ち込んでいるという噂話をする。その日、麻美も来店していてその噂を耳に留めるのだが、氷室は難しい顔でその話を聞いていると麻美は観察していた。氷室は鉄の杭に関心を抱き、麻美と調べに回る。誰がそれを実行しているのかは知らぬまま、その鉄の杭が、風水に関係しているのではと推論していく。このことが、本書のタイトルとも関係しているのである。

 週明けに『ハイランド』の最初の客として、氷室が入国管理局警備課に勤めていたころの同僚、沢渡昇一がひょっこり現れる。沢渡は氷室に橋本と村上が殺された、俺も危ない、おまえも注意しろと告げにきたのだ。橋本と村上は不審な死に方だが警察は事故と言っているという。その沢渡が、『ハイランド』を訪れた直後に、新宿駅ホームから転落し、轢死する。それを契機に麻美と話し合った氷室は土門とコンタクトを取る。
 氷室は、土門から呉俊炎が香港で成功した大実業家として来日していることを知る。だが、土門は呉俊炎の来日意図は別のところにあり、それを阻止するのが自分の使命と考えている。そして、氷室をそのために活用しようとする。氷室は己が殺されないことと麻美に被害が及ばないことのために土門に協力していくことになる。つまり、氷室が囮になる立場なのだ。
 呉俊炎は、ヤンを手先として介在させて氷室の抹殺を狙う一方で、新宿・歌舞伎町を拠点として支配下に置くためにヤンとそのグループを利用して工作していこうとする。呉俊炎・ヤンと氷室・土門が対決していく形になる。
 呉俊炎は、弟の仇をとりたいという私怨で氷室を狙い、新宿歌舞伎町の複雑な縄張り抗争を操り支配権を掌握し、表の政治の局面をも自ら意図に絡めていこうとする。そこに風水の力をも持ち込もうと画策していく。
 氷室は土門のバックアップがあるというものの、囮として孤独な闘いを開始する羽目になる。付け焼き刃ではあるが、土門の指示を受け、氷室は正式に教官からSIGザウアーという拳銃の撃ち方、メンテナンスの訓練を受け、拳銃保持の身分証の発行を受けることになる。
 
 氷室に仕組まれた筋書き、歌舞伎町乗っ取りの工作が併行して俄然急速に進展していくというストーリー展開である。そしてそれらが意外な形で交錯し収斂していく。この作品も比較的シンプルでありながらおもしろい展開である。
 本作品もやはり一気に読み終わった。

 ご一読ありがとうございます。
 

作品に出てくる、あるいは関連する語句をネット検索してみた。一覧にしておきたい。

入国管理局 ホームページ
  東日本入国管理センター 組織・機構
法務省 入国管理局 :法務省ホームページ
  退去強制手続等 統計資料 2012年
 
歌舞伎町 :ウィキペディア
歌舞伎町ポータルサイト
歌舞伎町・外国人マフィア裏面史 :「裏の裏は、表・・・に出せない!」
Q&A 快活林青竜刀事件 :「YAHOO!知恵袋」
知られざる韓国・組織暴力(ヤクザ)事情とその歴史!
   :「裏の裏は、表・・・に出せない!」
 
盛り場総合対策=盛り場の環境浄化に向けて= :「警視庁」
  薬物乱用の恐ろしさ 薬物って何?
 
東京新宿鎮座 花園神社 ホームページ
流氓  デジタル大辞泉の解説 :「コトバンク」
 
中国武術の分類 :「中国武術基礎講座」
長拳と太極拳 :「亀戸図書館委員会」
形意拳  :ウィキペディア
形意拳 川村老師 演武 :YouTube
八掌拳 → 八卦拳 :ウィキペディア
Baguazhang form 八掌拳  :YouTube
虎拳 → 黒虎拳 :ウィキペディア
功夫  :ウィキペディア
 
風水 :ウィキペディア
風水の歴史 :「風水168」
風水学とは? :「風水専科」
龍穴 :ウィキペディア
龍の道 → 風水について :「運気アップ.com」
 
SIGザウアー → SIG SAUER P220 :ウィキペディア
  シグザウエル P220 :「ハリウッド女優と拳銃」
 


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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。

『宰領 隠蔽捜査5』  新潮社
『密闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『最後の戦慄』  徳間文庫
『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』  集英社

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新2版




『宰領 隠蔽捜査5』  今野 敏   新潮社

2014-01-17 11:42:30 | レビュー
 著者は『隠蔽捜査』で2006年に吉川英治文学新人賞、『果断 隠蔽捜査2』で2008年に山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞した。この作品も中心人物が警視正・竜崎伸也であるため、最初の受賞作の延長線上で、副題に「隠蔽捜査5」となっている。このシリーズも拙ブログを書き始める以前から全作読み継いできている。著者が小説新人賞以来長い作家歴の後に受賞した作品のシリーズであるとはいえ、その内容を考えると、受賞作品名称を副題に冠することに違和感を感じている。第2作以降、「隠蔽」に関連する捜査ではないので、この副題はそぐわないなと私は思う。副題のネーミングを考慮するべきではないか。出版側のちょっと安易な副題の付け方のような気がする。勿論、当初の受賞ということのハロー効果というか、あ!あの作品の・・・というわかりやすさだけを狙っているのかもしれないが。冒頭から脇道感想になってしまった。

 本作品についての総論的印象をまず箇条書きにしておきたい。独断的な私見ということで読んでいただきたいと思う。
 1.捜査展開の描写にスピードがある。
 2.警視庁と神奈川県警という2自治体にまたがる捜査態勢という特異さが興味深い。
 3.本作品は竜崎伸也を介した組織マネジメント実践論として読める。
 4.竜崎と伊丹という同期の警察官が役割分担していくおもしろさが味わえる。
  一方で、大森署の強行犯係戸高の活躍がみられないのがちょっと残念である。
  その代わり、横須賀署の板橋課長の行動とキャラクターがおもしろい。
 5.捜査は竜崎の長男の東大受験と重なり、竜崎の心理描写に奥行きを加えている。

 まず少し印象について補足してみよう。
 1つめについて:
 捜査展開のスピード感、緊迫感を持続する描写になっているのは、この作品が殺人・誘拐・監禁という流れで、「誘拐」事件の解決が時間との勝負という局面描写に主眼が置かれているためだろう。
 2つめについて:
 警察組織が必ずしも一枚岩でなく、縦割り組織の弊害が自治体を跨がることでコミュニケーションの阻害、非効率な運営・動きに陥る弊害が一層様々に現れるという側面を鮮やかに描かれている。多少の小説的誇張が含まれるのかもしれないが、そこにはリアル感がある。過去の実際の事件を思い浮かべると・・・・。勿論、一自治体内における警察組織内の部門間でそのミニチュア版現象があることは論をまたない。いままでの小説には、その点が多く描かれている。
 競争意識が裏目にでる事象についての書き込みがなかなかリアルである。
 3つめについて:
 これは2項目とはコインの裏表とも言える。一般企業で考えれば、本社と主要工場、本社と拠点支社の関係に類比できる。この作品では、東京都の大森署に置かれた指揮本部と神奈川県の横須賀署に途中から設置された前線本部という特異な捜査体制/態勢で事件に取り組む姿が描かれる。大森署に本部が設置されたため、指揮本部の副本部長となった竜崎が、神奈川署に設置された前線本部の副本部長になって、神奈川県の警察署内で実質的トップとして捜査の指揮監督をすることになる。突然、本社部門から、主要工場あるいは主要支店に単独で送りこまれ、本社部門との連携を考慮しながら、日頃接触のない人々をマネジメントする立場になることに等しい。
 原理原則、目的の明確化、指揮命令系統、コミュニケーションの効率化、リーダーシップ、統合と分散、人物評価と心理操作、動機づけ・・・・などが巧妙にストーリー化されている。そういう観点から読んでもおもしろい作品であると言える。
 人間集団、組織になればいずこも同じ現象が起こっているということか。
 4つめについて:
 実社会でこの二人のような関係がどこまでリアルなものとして存在しうるか、という点では、ある意味一種の願望が入っているようにも思う。だが、二人の関わり方、まさに俺・おまえの関係で目的の遂行に邁進する関わりが楽しめる。ユーモラスなところもあって、楽しい。縦の指揮命令系統中心という警察組織の人間関係を際立たせるコントラストにもなっている気がする。
 私は毎回、戸高刑事の活躍ぶりを楽しみにして読んでいる。今回は、重要なキーポイントで顔を覗かせるだけにとどまるのはちょっと寂しい。まあ、舞台が横須賀署になるので仕方がないだろう。その代わり、板橋課長というノンキャリアの捜査畑一筋の刑事が登場する。彼が戸高刑事の役回りのようなものでであるが。竜崎の板橋課長への対応が読みどころになっている。
 5つめについて:
 事件発生とその解決のための数日間が、2浪して東大受験に臨む長男を抱えた竜崎ファミリーの状況と丁度重なっているという設定なのだ。家庭のことは妻に任せ、国の仕事に注力するという竜崎の基本方針、だが父親としての心理が時折顔を覗かせる。竜崎も人の親、優秀警察官モデルマシンではない。竜崎ファミリーの受験期描写が竜崎の思いを軸に点描されていく。これが本作品にある種の暖かみと広がりを与えていて、うれしいところだ。

 さて、本書のストーリーである。
 福岡三区選出の衆議院議員、牛丸真造が行方不明になったという連絡が警視庁刑事部長の伊丹俊太郎に入る。伊丹の三期下の田切勇作が警察官を辞め、牛丸議員の秘書になっている。その田切が伊丹に内々の捜査を依頼する。ただ、牛丸には時々雲隠れするという癖があるというのだ。伊丹は大森署署長・竜崎伸也に電話をかけ、内密に捜査したという実績をつくる程度の捜査を依頼する。秘書に恩を売る程度の措置でいいと。なぜ竜崎署長に関係するのかといえば、羽田から都心に向かうとすると大森署管内を通過するからだ。
 勿論、竜崎は捜査を原理原則から考え行動する人。伊丹の考えに真っ向から反論して、捜査を始める。この態勢づくりからマネジメント視点がもろに入ってくるといえる。そして捜査が始まる。
 事務所が空港に迎えに出した黒のセダンが、大森署管内、昭和島の対岸で発見される。運転手がナイフで喉をざっくりとやられた他殺死体が車内で発見される。その後の捜査で犯人の車とみられるものが首都高湾岸線の路肩で発見される。だが牛丸が誘拐された状況の手掛かりがぷっつりと途切れる。
 勿論、竜崎の原則論の反論がそのまま、捜査体制になっていく経緯を辿る。指揮本部が200人態勢で大森署に置かれるのだ。本部長が伊丹、副本部長が竜崎。本部には特殊班捜査係SITが参画する。SITが殺人・誘拐犯人との交渉窓口となる。犯人と想定できる人物かが警察に公衆電話からの掛けてくる。なぜ誘拐をマスメディアで報道しないのだという言い分から、SITとその人物との交渉が始まる。マスコミを意識するのは、劇場型犯罪の特徴だ。この事件はその種のものなのか。犯人のねらいは何か。

 2回目の電話から、誘拐犯は神奈川県内に潜伏していることが判明する。伊丹は合同指揮本部の設定を考え出す。竜崎は指揮の一元化と効率性からは大森署の指揮本部一本での捜査推進を主張するのだが、伊丹本部長の決断がくだされる。そして、反論した竜崎が横須賀署の前線本部の副本部長として乗り込まねばならなくなる。伊丹は竜崎の手腕に期待する。そして、東京での本部長としての総指揮と竜崎支援に徹していく。
 横須賀署の前線本部に単身乗り込んだ竜崎は、副本部長という立場だが実質上の前線本部トップの立場になる。孤立無援の指揮官だ。横須賀署の捜査態勢の再構築、横須賀署の刑事たちや署長などと、ゼロからの人間関係構築、実質的かつ効率的な指揮命令系統づくりから始めなければならない。
 誘拐事件は初動捜査が死命を制する。被害者の命を守れるのは時間との勝負である。殺人事件発生後の犯人追跡捜査とは異質次元のことなのだ。現場第一線重視の竜崎の活躍が始まる。劇場型犯罪の特徴をもつこの事件が、必死の捜査とともに、意外な方向へと展開していく。竜崎の行動にもかかわらず、前線本部と指揮本部の間には微妙なずれが出始める。捜査情報の積み重ねの上で、竜崎の論理的推論と現場経験豊富な板橋課長の読みが対立し始める。誘拐事件の解決は時間が勝負。だが、その中で、試行錯誤や読みの対立に伴う捜査人員の分散が起こる。犯人の要求内容が事件の読みを攪乱させる。

 ストーリーは紆余曲折を経ながら緊迫感の中に展開していく。一気に読ませる作品である。一件落着したかに見えた事件に、別の側面が竜崎の一言から見え始めるという意外性が組み込まれていて、興味深いエンディングになっている。
 伊丹刑事部長の命令に逆らって、現地指揮での判断と効率重視の原則で動いた竜崎の行動が問題視され、監察官の調べが開始されるかもしれないという付録まで飛び出してくるおもしろさ。
 作品の構成が巧妙である。警察組織の問題点への視点、警察官の心理描写など興味深い。読み応えがある作品に仕上がっていると思う。


最後にいくつか興味深い文章を抽出・引用して、ご紹介しておこう。
*私は、部長の指示がどうあれ、正しいと思った措置をとりますよ。  p55
*多くの仕事をこなし続けている人ほど、「忙しい」などとは言わないものだ。時間の使い方がうまい、と世間では言うが、それは、具体的には、しっかりと優先順位を守っているということなのだ。   p72
*思い込みというのは恐ろしいものだ。だから、捜査に予断は禁物だと、昔から言われている。  p116
 本人が経験していなくても、そういう事案の話を何度も見聞きしていただろう。それが先入観につながった。  p204
*悪い面だけ見てむやみに批判的になったり、虚無的になったり、あるいは冷笑的になる人々を、竜崎は心から軽蔑していた。そういう連中に限って、自分では何もしていないのだ。
 日本の未来なんて、どうなるかわからない。だが、この日本のどこかから、日夜努力を続ける若者たちが生まれ続けていることも事実なのだ。 p124
*現場では捜査員たちが必死で犯人を追っていると、伊丹は言っていた。それは間違いない。ならば、幹部は彼らが動きやすいような態勢を整えてやることに力を尽くすべきだ。  p145
*誘拐事件発生後、24時間が過ぎると、被害者の生存率は各段に下がるのだ。  p175
*現場の経験や能力はもちろん大切だが、それを運用する者に対して反感を持つようでは、警察のような組織は成り立たない。問題は、管理する側にもある。現場になめられているようではいけないのだ。そのためには、管理者としての訓練を積み、勉強をする必要がある。捜査能力に劣等感を持つ必要などない。管理する能力があればいいのだ。 p188
*「竜崎署長は、いつかは神奈川県警にいらして、私の上司になるかもしれないと言われました」(板橋課長)
 「そんなこと言ったかな・・・・」(竜崎)
 「そのときは、正直申し上げて、冗談じゃないと思いましたが、今は、それが実現することを望んでおります。」(板橋課長)         p300
*「家のことは任せて、国の仕事をしてらっしゃい」(竜崎冴子)  p309


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本書に関連する語句をいくつか検索してみた。一覧にしておきたい。

Nシステム → 自動車ナンバー自動読取装置 :ウィキペディア
 
劇場型犯罪 :ウィキペディア
 
グリコ・森永事件 :ウィキペディア
グリコ・森永事件 「劇場犯罪」の風化を拒む :「DO楽」
誘拐 :ウィキペディア
変革を続ける刑事警察   警察白書(平成20年)より
 捜査体制の充実・強化に向けた取組み
 
小型船舶操縦免許の制度 :「国土交通省」
 
警視庁の組織図・体制  :「警視庁」
大森警察署 ホームページ
神奈川県警察組織図 :「神奈川県警察」
横須賀警察署 ホームページ
 


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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。

『密闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『最後の戦慄』  徳間文庫
『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』  集英社

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新2版


『継体王朝 日本古代史の謎に挑む』 森浩一・門脇禎二 編  大巧社

2014-01-15 15:50:19 | レビュー
 本書は、表紙右上に記載されているが「第7回春日井シンポジウム」の記録出版である。本書冒頭で初めて知ったのだが、春日井市では平成5年から毎年シンポジウムを開催してきたそうだ。その後の経緯を少し関心を抱き、ネット検索してみた。その結果は別記する。この第7回は平成11年(1999)11月に継体ゆかりの市町協力による「継体サミット」として実施されたという。ごく最近まであまり継体大王/天皇(以下継体と略記)に関心を持っていなかったので、当時にそんなサミットがシンポジウムとして存在することすら知らなかった。サミット参加市町は、福井県丸岡町、滋賀県高島町、京都府宇治市、大阪府枚方市、福岡県八女市、愛知県春日井市である。私の地元、宇治市も参加しているということを読み、継体との関連について認識を新たにした次第。

 最近継体に関心を持ち始めて、本を読み継いでいくと、1990年代の後半に出版された本がよく目にとまる。この頃に考古学や古代史の領域で一つの継体ブームが訪れたようだ。1999年11月に開催されて、本書が2000年11月に記録として出版されている。
 「はじめに」(森浩一)を読むと、こういう一節がある。
「考古学的にいえば、古墳時代中期末から後期初頭、歴史的にいえば、五世紀末から六世紀前半にかけての時期の研究は、ここ数年でめざましい成果が集積された。それらの成果を持ちよって問題点を確かめあい、それを深化させることができれば、一つには古代においての東海地域の役割を日本列島全体のなかで位置づけられることであり、もう一つは日本歴史全体のためにも役に立つと考え、このシンポジウムを実現した。」

 考古学や古代史の学会論文などは少し関心を抱く古代史入門者には敷居が高すぎる。その点、この種のシンポジウムは専門用語が含まれるとはいえ、すこしかみ砕いた形での総括的な報告がベースとなっている。一般的な啓蒙という観点も念頭にあるからか比較的読みやすく、素人でもそれなりに概略把握できて有益である。

 継体は大和での皇位継承者の空白期に、越の国(今の福井県)から現れて新たに倭国の支配者になった人物。大和に入るのは晩年になってからという特異なプロセスを経ている。継体が勢力を持ち、いわば新王朝を確立するうえで、越、尾張、近江、山背の在住豪族たちがその支援者になったという。私自身は近年、滋賀県高島市にある鴨稲荷山古墳跡や、田中王塚古墳などを探訪する機会を得、「平成24年度 春季特別展 湖を見つめた王 継体大王と琵琶湖」というのを滋賀県立安土城考古博物館で見たことが、継体関連本を読み継ぐきっかけになった。地元の古墳・御陵探訪という軽い気持ちで継体を意識することなく訪れた宇治二子塚古墳が、これまた継体の勢力圏という意味で関わりがあるという基調発表を読み、認識を新たにした。一層、継体の謎に関心をそそられてきている。

 さて、本書の構成をまずご紹介しよう。本書は5部構成になっている。シンポジウムなので、最初に基調発表がいくつかあり、討論でまとめられるという流れである。シンポジウム自体は4部構成、本書には第5部として誌上参加の論文が加えられている。基調講演は*で略表記した。

第1部 継体の出自と系譜
 *継体王朝の成立          和田 萃
 *継体大王の母・振媛の里・三国   青木豊昭
 *彦主人王・三尾          白井忠雄
 *目子媛・味美二子山古墳      伊藤秋男
 討論 継体王朝の成立  福岡・青木・和田・兼康・白井、(助言)森(司会)伊藤
 討論資料 継体大王をめぐる近江の古墳  兼康保明
第2部 継体と淀川地域
 *継体・欽明王朝と考古学の諸課題  森 浩一
 *くすばと樟葉宮          西田敏秀
 *継体期前後の山背地域       荒川 史
 *継体大王の陵・棺・埴輪      森田克行
 討論 淀川流域をめぐって 門脇・清水・赤崎・森田・西田・荒川、森(司会)八賀
第3部 継体王朝の展開
 *継体・欽明紀にみる朝鮮半島の地名と遺跡  西谷 正
 *玉穂宮・手白香媛の墓       清水禎一
 *磐井の乱と岩戸山古墳       赤崎敏男
 討論 近畿から九州・朝鮮半島へ 西谷・清水・赤崎・森田・大竹、森(司会)福岡
 討論資料 潘南面 新村里9号墳の再調査   大竹弘之
第4部 まとめにかえて  
 継体王朝をめぐって   門脇禎二・森 浩一  (聞き手)宮崎美子
第5部 誌上参加
 今城塚古墳の築造規格        大下 武

 この本書目次をご覧いただくと、継体に関連して人の繋がり、基盤となった勢力地域、当時の日本と朝鮮半島との関係など、網羅的多面的に論じられていることがお解りになるだろう。継体に関心を抱き始めた人には、豊富な示唆が得られ、論点も多々あり、刺激的である。考古学、古代史研究の時間軸から考えると、14年前の出版とはいえ、それはほんの瞬時くらいの長さにしかすぎず最新刊同然であろう。勿論、10年という単位で見ると、そろそろまた、継体研究の成果が多くまとめられてくるのかもしれない。その点も期待したいけれど、この書をまず開けてみてはいかがだろうか。

 最後に、本書からメモ書きしておきたいと思う刺激的で示唆に富む箇所を引用しておきたい。
*古代史学者の水野祐氏の仮説にたてば、古墳時代にほぼ相当する期間についての古王朝、中王朝、新王朝のうちの、まさしく新王朝の始祖が継体天皇であり、考古学的には古墳時代を前期、中期、後期の三区分したときの後期のほぼ最初の人物である。 pii
*6世紀後半代に大王系譜がまとめられた段階では、崇神から武烈まで、一つの王統が連続していますが、元々は少し違っていたのではないか。そんなことも想像されます。・・・いくつかの複数の王家から大王が出ていたものが、後にはそれが父親から子へという形の系譜に手直しされた可能性もかなりある。・・・継体はもし従来の王統と血縁関係があったとしてもごく薄い関係であり、全く別の王統とみてよいと思います。やはり継体によって新しい王朝が立てられたとみるべきものと思います。  p14
*オホイラツコから始まる王家、私は一応、息長王家というふうに考えておりますけれども、その血筋を引いていたことが実は継体が擁立された最大の背景にある。応神五世孫というふうな、後に生じた伝承ではなく、曾祖父の段階でその姉であった忍坂大中姫が允恭天皇の皇后になったことこそ、継体が擁立された最大の理由ではなかったかと思います。  p16
*新池埴輪窯の研究から太田茶臼山古墳は実は五世紀中ごろのものであり、今城塚古墳が真の継体陵であることがはっきりしました。・・・太田茶臼山古墳は、実は継体の曾祖父オホイラツコに結びつくのではないかと考えています。 p25
*古代の三国は一般に流布している地域概念とは違っている・・・・三国というのは後の律令制の時代でいいますと、坂井郡、足羽郡、大野郡の三つの郡域にわたる地域です。・・・三国の主要部は、現在の平野名でいいますと福井平野で、越前の穀倉地帯です。 p30
*横山古墳群は律令時代の三尾郷、あるいは律令時代の三尾駅と推定される付近にありますので、まさにここが三尾氏の根拠地だろうと私たちはみています。  p38
*今後、五世紀代までさかのぼるような鉄生産遺跡が三尾郷に出てくれば、継体大王の近江勢力は鉄と深い関わり合いを持った三尾氏を含めた豪族のなかから誕生したといえるのではないかと思っています。   p48
*大和の王家の血筋が絶えたから継体の擁立になるのではなくて、アジア全体の新しい動きのなかから倭国の次の国王にふさわしい人を擁立しようという動きがあった。継体擁立の問題はそういう大きな流れのなかから出ていると考えています。  p116
*川はそのまま海に出ることができるのです。だからなぜ継体は樟葉とか筒城とかあるいは弟国のようなところに都を置いたのかというと、アジア全体の都の位置と共通性があるということに加え、瀬戸内海ひいては朝鮮半島へ行くにも便利な位置を押さえていたということだろうとおもいます。  p119
*木津川沿いに木津から宇治へ行くまでに大小さまざまな港があります。・・・交通を統制するというのは、交易をどう統制するかにかかってくると思います。・・・巨椋池の役割は非常に重大だと思いますね。古代の巨椋池が淀川と木津川、宇治川の水運をむすび、そして山科盆地をへて琵琶湖に出る交通の要衝である・・・・大変参考になりました。 p187
*何世の孫といいましても、その用い方に時代や国による特徴があるということです。だから中世や近世より後の系図のように、現実の人びとの世代を示しているという考え方をあまり古代の史料に持ち込んだらいけない、と私は思っています。 p286
*「ヤマト(倭)」と「オオヤマト(大倭)」というのは非常に大事な問題だ・・・・ヤマトとオオヤマトの使い方には微妙な違いがある。  p286
 → ヤマト:元来は三輪山麓西の狭い地域 / オオヤマト:ほぼ大和盆地全体地域
*たしかに奈良県には古墳はたくさんあるけれども、それは全部足したらたくさんあるということで、例えば五世紀の末とか、六世紀中ごろとか区切っていったら必ずしも近畿全体で大和がいつもトップというわけではないのですね。これからはそこを区別して、文献の方のおっしゃる大和のイメージと重ねないと、絶えず大和は一枚岩で大きな存在だという見方になってしまいます。これはまだかなり時間をかけないと、解消されないでしょう。  p287
*ちょうど玉穂宮がある磐余地域の最も大きな豪族は阿倍氏であり、阿倍氏が中央政権傘下に入ってくる時期が継体の時期と重なってきます。この阿倍氏を注意深くみていきますと、そのうしろにいつも蘇我氏の影がちらついています。継体の初期のころは尾張氏などの物部氏、それから大伴氏といった大和古来の豪族がその基盤を支えていたと思うのですが、後半から欽明の時代になってきますと、徐々に蘇我氏が台頭してくるのではないかとみてとれます。  p226
*和珥氏というのは複雑で、春日氏、大宅氏、柿本氏、小野氏などいろいろな氏になっていきます。・・・継体町以後のころから和珥氏というのは大和の東南部では阿倍氏になっていった可能性があるのではないかと考えてきました。  p288
*継体と欽明の時代に仏教を取り入れてしまったわけです。思想・精神の面の一大改革をやりはじめたのも継体ということになります。 p293 →存在としてのすごさ
  付記:継体は、天皇の非直系。非名門。地方出身。各地有力者を組織化・連携。
     倭国の国王にふさわしい教育を受けて育った。九州や朝鮮半島との問題解決
*冠が大和に入るのは実は藤ノ木古墳の時代になってからです。北陸や近江などよりもはるかに遅い。
  付記: 二本松山古墳(福井県松岡町)出土の冠  金メッキと銀メッキの二冠
      韓国の大伽耶の古墳、高霊の池山洞32号墳出土の冠と形態が類似
      鴨稲荷山古墳(滋賀県高島市)出土の冠  金銅製広帯二山式冠
 そういう交通の問題とか、地域の成果を汲み上げながら新しい古代史像を作らなくてはいけないと思います。       p293

 この一冊で一層継体への関心が高まった。

 ご一読ありがとうございます。

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以下、本書関連でのネット検索結果を一覧にまとめておきたい。

{ 春日井シンポジウム関連 }

NPO法人 東海学センター ホームページ
「春日井シンポジウム20年の歩み」  春日井市発行
 
継体天皇 :ウィキペディア
継体大王の生い立ち :「継体大王と越の国・福井県」
二本松山古墳 → 県内の継体大王ゆかりの地:「継体大王と越の国・福井県」
滋賀県 田中王塚古墳/鴨稲荷山古墳/水尾神社:「継体大王と越の国・福井県」
鴨稲荷山古墳 :「滋賀県観光情報」
継体の威光きらめく冠と沓 鴨稲荷山古墳(滋賀県高島市)
古きを歩けば特別編・装いを重ねて(5)
味美二子山古墳 :ウィキペディア
味美(あじよし)二子山古墳公園画像12枚 :「愛知限定歴史レポ」
断夫山古墳 :ウィキペディア
断夫山古墳 :「邪馬台国大研究」
断夫山古墳 :「文化財ナビ愛知」
今城塚古墳 :ウィキペディア
史跡今城塚古墳とは :「インターネット歴史館」(高槻市)
  発掘調査でわかったこと
太田茶臼山古墳 :ウィキペディア
 
今城塚古代歴史館 :「インターネット歴史館」(高槻市)
高島歴史民俗資料館 :「淡海の博物館」(滋賀県博物館協議会)
高島歴史民俗資料館1階  :Youtube
 
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継体関連では以下の本の読後印象を掲載しています。
ご覧いただけるとうれしいです。

『継体天皇と朝鮮半島の謎』 水谷千秋 文春新書

『大王陵発掘!巨大はにわと継体天皇の謎』 
    NHK大阪「今城塚古墳」プロジェクト NHK出版

『倭の正体 見える謎と、見えない事実』 姜吉云  三五館

『密闘 渋谷署強行犯係』 今野 敏  徳間文庫

2014-01-11 10:43:28 | レビュー
 本書の文庫化はおもしろい経緯をたどっている。
 私が文庫本でこのシリーズを読み始めたからそう感じるだけなのかもしれないが。既にこのシリーズの読後印象をここに載せている。この渋谷署強行犯係を『羲闘』、『宿闘』と読み継いだ。文庫本で『最後の戦慄』を読んだとき、その巻末に2009年12月現在の「今野敏著作リスト」が載っていた。そこでこれを使って今まで読んできた本をチェックしてみた。『羲闘』、『宿闘』という改題文庫タイトルはこのリストに出ている。つまり『賊狩り 拳鬼伝2』『鬼神島 拳鬼伝3』が改題されたものとしてリストに明記されている。このリストにいては旧題・副題の『拳鬼伝』はトクマ・ノベルズとして1992.6に出版されたものが1999.1に文庫本化して出ていた。
 シリーズの2作目から文庫本化の際に改題し、渋谷署強行犯シリーズにしていたのである。改題された『密闘』が文庫本で出版されているのを知り、一気に読み通した。読後に奥書をみると2011.5に文庫本化されている。シリーズ前2作より後の文庫本化だから、単純に『密闘』が改題シリーズの後続だと思っていた。この文庫本だけにある「あとがき」を読んで、上記リストとの関係が氷解した次第である。
 著者が申し訳めいた一文を書いている理由がそこにあった。実は『密闘』は『拳鬼伝』がそのままのタイトルで先に出版化されていたために、本来の連作第2作から上記シリーズ副題「渋谷署強行犯係」で改題出版された。そして、一旦文庫本で出版されていた『拳鬼伝』を2011.5に再度改題して『密闘』とすることですっきりとシリーズがそろったという裏話になる。
 改題『羲闘』は2008.11に文庫本化されている。つまり、2000年代に入ってから警察小説ものがブームとなってきて、そのジャンルが一つ確立してきたということを意味するようだ。そこで、武闘ジャンルだけで創作されたものでなく、武闘プラス警察という組み合わせの筋である拳鬼伝が2作目から、警察小説畑の名称に衣替えされたという次第。そこで文庫本『拳鬼伝』として出版後、絶版状態になっていた第1作が、2作目からの改題本を手にして、おもしろく読んだ読者から再刊要望が出てくるという経緯になる。まあ、私は旧題との関連を全く意識せずに、第3作が『密闘』と思っていた次第なのだ。

 これからわかることは、小説というものにその時代動向やブームが大いに反映しているということだろう。いわゆる古典の部類に入り長年定番として存続する作品を除き、大半の小説はその時代の好みを反映することが読者に受け入れられる条件になる。それは当然として、作品のタイトルづけもその時代の関心を惹きつける大きな要因になることがこれでうなづける。エンターテインメント作品は特にそういう面で影響が大きいかもしれない。

 裏話が長くなった。本題に戻ろう。
 この作品、読み始めると上記の経緯がなるほどとわかる。毎回読後感想に書いていることだが、渋谷署強行犯係の刑事として辰巳吾郎が登場する。この辰巳刑事は本シリーズでは竜門整体院の院長・竜門光一の武術家としての側面を引き出すための黒子的役割を担う。事件解決のために常心流武術の免許皆伝者・竜門の武術を役立てさせようという狙いで、竜門の関心を事件に引きつけ、本人を動機づけ、乗り出させる。辰巳自身は竜門の行動を側面援助する形となり、彼を事件解決への実質的な相棒にしてしまうという筋書きである。そこには、武術を使わなければならないという事件の場面設定と、なぜそういうことになったのかという事件発生原因の究明、犯人追跡プロセスとがうまく結びついていくという仕立てになっている。タイトルでいえば、「密闘」という形での秘かな武闘がメインであり、「渋谷署強行犯係」という刑事事の件解決は添えであり、興味を引きつけるトリガーといえる。
 
 事件は何か? 渋谷のセンター街にたむろするチームと呼ばれる少年グループがちょっとしたいざこざを起こす。支配的な勢力を持つ『渋谷自警団』とマイナーな『メデューサ』の乱闘である。『メデューサ』が袋叩きになるところに、黒いスウェット・スーツの上下に黒い目出し帽をかぶった黒ずめの男が突然に現れて、一瞬の間に『渋谷自警団』の少年4人をそれぞれ一撃で倒してしまう。その後、目出し帽を外した男をビルの陰にいた少年が目撃したのだ。黒づくめの男は髪に白髪が混じる50歳過ぎに見える中年だった。目撃した少年は『渋谷自警団』のリーダーであるリョウと名乗る少年だ。男に気づかれたと感じた少年は夢中で逃げる。その後彼はグループを動員し、その黒づくめの男を『渋谷自警団』として見つけて復讐しようとする。
 病院につれて行かれた4人の少年を診た外科医は面食らうだけだった。たった1か所の打撲傷のためにひどいダメージを受けているのはわかるが、打ち身であること以外に何もわからないのだ。胸骨の上、胸の中央に打撲傷があるだけで、胸骨に異常がないことはレントゲンの結果でわかっているからである。

 辰巳刑事は、竜門整体院にでかけ、施術を受けている際に、竜門光一に「新聞、読んだかい、先生?」と話しかけて、この傷害事件を話題にする。竜門の好奇心に火をつける。そして、竜門を少年たちが入院している病院に引っ張り出すことに成功する。
 少年たちの打撲症状を見た竜門は、その場で整体施術をして少年たちの苦しむ状態を和らげてやるのだ。その打撲傷を見ることで、その打撲傷がどういう状態で加えられたのか、その武術の推測をしてしまう。だが、それは結果を見て、竜門の知識と経験を踏まえた仮説を持ったに過ぎない。その技が高度なものであり、かなりの武術レベルであるとわかるが、的を射ているかはわからない。それほどの武技を持つ人がなぜ少年に危害をくわえる行動に出たのか・・・・・。竜門はそこに悲しさを見る。
 少年たちの状態を見た竜門の武術家としての関心が一挙に高まっていく。武術家としての竜門の血が騒ぐのだ。その謎の人物を見つけて、その技を知りたい探求心がついにトリガーとなる。辰巳刑事はまんまと封印された武術家としての竜門を事件解決のプロセスに引き出すことができたことになる。

 竜門はどうするか? 昼間は整体院の仕事に従事し、予約の人々に対する施術を行い、その仕事の終了後、夜は遂に武術家に変身して謎の男を見つけ出そうとする。そのためには、その男を見つけて復讐しようと意図する『渋谷自警団』の少年たちの行動を追えばいい。一方で、ジャズ・バー『トレイン』を訪れ、マスター、岡田英助に謎の武術家について情報を集めてもらう依頼をする。自警団の行動を見張り、岡田から情報を得ること、そして渋谷自警団のリーダー、リョウに会って話を聞くことで、竜門は謎の人物に一歩ずつアプローチしていくことになる。
 八極拳をつかう相当に武技を修練した人物と推測した竜門は、その事実を具体的につかんでいくことになる。そして、その謎の人物との一戦が必然化する。謎の人物の悲しみ、怒りが見えてくるのだ。

 辰巳刑事は、竜門の行動を監視しつつ、竜門をサポートする形で、より深みへと竜門が歩むようにしむける役割になる。それがこの事件を解決する近道だと彼は考えている。そして、あくまでも傷害事件は事件として裁かれねばならないと。

 けんかと武闘というダイナミックな戦いのシーンを積み重ねながらストーリーが展開していく。そのプロセスで、著者の武技に対する蘊蓄がこの作品でも書き込まれていく。一方において、東洋医学と西洋医学の違いが描かれ、またツボという東洋医学が要所要所で登場してきて、興味が尽きない。このあたり、著者の得意な領域なのだろう。著者の作品を読み継ぐにつれ、副産物として東洋医学に関心を引かれつつある。

 この作品で、辰巳刑事が、竜門光一と整体病院で事務に従事する葦沢真理の間でキューピッド的役割を取ろうとするところが、けっこうほほえましくてよい。ちょっとした作品の味付けになっている。

 ストーリーは単純だが、読ませどころのツボを押さえた武闘ものエンタテインメント作品に仕上がっている。ひとときの時間を楽しむのにはちょうどいい。


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本書に関連する語句への関心からネット検索した結果を一覧にしておきたい。

ワンシュウ wanshu 2012 :Youtube
八極拳 :ウィキペディア
神槍・李書文の八極拳の真実とは?
八極拳動作示範 :Youtube
「棒」を用いた八極拳の研究  森田 真 氏 :「八極拳研究会」
陳発科 :ウィキペディア
心意把  :Youtube
カポエラ ← カポエイラ :ウィキペディア
カポエラの達人 :Youtube
犬拳  :Youtube
発勁 ← ハ極拳的「発勁」
 
経絡 :ウィキペディア
任脈 :ウィキペディア
督脈 :ウィキペディア
奇経八脈  デジタル大辞泉 :「コトバンク」
奇経八脈 :「太極拳から学ぶ会」
ツボ →「第二次日本経穴委員会」ホームページ
  資料として「経穴図版」が掲載されています。
丹田 :ウィキペディア
臍下丹田呼吸法 :「自然から学ぶ生命の浄化」
膻中(だんちゅう) :「ツボマスター」
天窓のツボ → 天窓 :「南大阪鍼灸所」
気功 :ウィキペディア
気功入門 :「気功のひろば」
気の導引術 :「日本道観」
小周天法 ← 矢山式小周天気功
大周天法 ← 気功・矢山式 - 矢山気功教室 東京(大周天気功法02) :Youtube
 

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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。

『最後の戦慄』  徳間文庫
『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』  集英社

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新2版


『最後の戦慄』    今野 敏   徳間文庫 

2014-01-10 09:27:13 | レビュー
 この作品は1989年7月に『ガイア戦記』として刊行され、文庫本化にあたり改題されたものだ。ガイアはギリシャ神話に登場する女神、地母神であり大地の象徴だが、ガイアは天をも内包した世界そのものをも意味するという(資料1)。著者は本書の冒頭ページで、大地の女神であることを述べたうえで、「イギリスの科学者J・ラブロックがこの名を『生きる地球』という意味に使い、環境用語として定着し始めている」と付言している。
 日経スペシャル「ガイアの夜明け」というシリーズで、ガイアという言葉が使われている。この2013年11月19日で第591回だそうである。2002年4月から番組がスタートしたようだ。全く次元は違うが、ここらあたりから「ガイア」という言葉をよく目にし始めたのではないだろうか。「ノーベル賞作家のウイリアム・ゴールディングが地球を指してガイアと呼んだことから『ガイア=地球』という解釈が定着している」とされる(資料2)。
 冒頭から余談話に入ってしまったようだが、著者は一歩先んじてガイアという言葉を利用していたのではないかと推測されるのだ。最初の作品タイトルと改題後のタイトルを結びつけるとこの作品のテーマ、スケールを暗示している。つまり、日本を軸に、地球規模での捜索と闘いが始まり、話が宇宙に及ぶSF要素をブレンドした作品だ。

 ストーリーは、レッドアメリカ地区(キューバ、ニカラグア地域)のジャングルで完全に子律している米陸軍特殊部隊に対する援軍および救出部隊が派遣される。だがそこでウェーバー大佐が発見したのは敵味方の区別のない死体の山だったというシーン描写から始まる。だが、場面は一転、中近東に飛び、世界中の主要紛争地域のテロ・ネットワークを掌握しているアブドル・カッシマーの住む「カッシマーの城」が襲われる話に展開する。のっけから地球規模のスケールの話となる。

 本作品の主人公はシド・アキヤマである。国籍不明の日系人であり、彼は世界最強の戦士の一人、テロリストと目されている。極限状態を耐え抜ける戦士である。テヘランでアブドル・カッシマーの死の報道を聴くが、彼は連絡役を通じてアブドル・カッシマーと接触する予定だったのだ。だが連絡役と会った後、彼に別のスポンサーの話に乗らないかと説かれる。そして日本に向かうことになる。スポンサーは日本政府。直接の窓口は内閣官房情報室の黒崎高真佐である。

 シド・アキヤマは黒崎から、レッド・アメリカの死体の山、カッシマーの城での惨劇の映像を見せられる。映像にはこれらの惨劇を引き起こした犯人の姿が映っていた。アラン・メイソン、ジョナリー・リー、トニー・ルッソ、ホーリィ・ワンの4人。きわめつけの優秀な傭兵であり、A級のテロリストだったが、死亡したとされていた連中だった。その連中が、彼らを捨て駒として扱ったアブドル・カッシマーを殺害したと言うのだ。
 黒崎はこの4人が宇宙、ラグランジュ点のひとつにあるスペースコロニーへ半死半生の状態で連れて行かれ、ゲンロク社によってサイボーク人間として生き返らせられたのだと推測している。ゲンロク社は人体のサイボーグ化において、人体にウェポン・システムを埋め込むことを実行できる最新鋭の科学力を有し、かなり有効な有機体コントロール・システムを完成している組織である。世界のテロ・ネットワークを掌握し、世界のテロリズムを独占しようとしていると図っているという。サイボーグ化された4人は、ゲンロク社のサバー・アーミーなのだ。
 黒崎はシド・アキヤマにこのサイボーク化した4人の戦闘能力を解析し説明する。その上で、黒崎はこの4人を狩ることをシド・アキヤマに依頼する。アキヤマは自分も命が惜しいとこの依頼を拒否するが、「失いたくないのはジョナ・リーの命ではないのですか?」と黒崎から質問される。そして黒崎からこの依頼を引き受ける代わりの交換条件を提示される。アキヤマは遂にこのミッションを引き受けることになる。

 日本政府は国際軍事力への配慮と役割分担として、情報戦と直接の犯人4人を狩ることでゲンロク社をターゲットにする陰の戦争を請け負うという立場なのだ。そこにシド・アキヤマが巻き込まれていくというストーリー展開である。アキヤマは黒崎と交渉の結果、15億の報酬とジャック・バリーと連絡が取れることで合意する。

 ジャック・バリーと連絡を取れることから、アキヤマによる4人狩りの戦略が始まって行く。アキヤマはまずチームを作ることからスタートする。
 ストーリーの舞台は、日本→アフガニスタン→ロサンゼルス→チベット→ベルフアスト→中国チベット自治区の首都ラサへと変転していく。そして、最後はスペース・コロニーにまで至るというスケールである。まさにガイアにおける戦闘ストーリーとなる。
 サイボーグ化され特殊な戦闘能力をもって蘇ったテロリストとシド・アキヤマが集めたチームとの闘いが、エンターテインとして一気に読ませるストーリーになっている。
 最後に、アキヤマが選び抜いたチーム・メンバーの氏名に触れておこう。ジャック・バリー、白石達雄、陳隆王、ギャルク・ランパである。
 これから先は、この作品のストーリー展開を読みながら楽しんでいただくとよいだろう。作品末尾の二文を記しておこう。

 シド・アキヤマの窓から太陽の光を受けて青く輝く地球が見えた。
 アキヤマはその美しい惑星をじっと見つめていた。
 

  ご一読ありがとうございます。


参照資料
1) ガイア :ウィキペディア
2) 日経スペシャル ガイアの夜明け :ウィキペディア
 日経スペシャル ガイアの夜明け :「TV TOKYO 50」
   メニューバーにある「バックナンバー」から過去の掲載をご覧ください。
 


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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
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『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』  集英社

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新2版



『宿闘 渋谷署強行犯係』   今野 敏   徳間文庫

2014-01-08 10:49:08 | レビュー
 この作品は1993年6月に『鬼神島 拳鬼伝 3』として出版され、文庫本化に伴い改題されたものである。渋谷署強行犯係の辰巳刑事が、この作品でも整体師・竜門光一の助力を得て事件解決に挑むというものである。事件の発端から解決のプロセスに武術、武闘が絡んでいくという形になる。

 中堅芸能プロダクション・TAK AGENCYが六本木のディスコを借り切って、30周年記念を祝うパーティの途中で事件で発生した事件が発端となる。この芸能プロダクションは代表取締役の高田和彦が仲間2人と興した会社である。専務取締役の浅井淳と取締役営業本部長の鹿島一郎が共同経営者であり、3人のイニシャルからTAK AGENCYと名付けたのだ。
 パーティ会場の入口に、長髪で黒々とした髯面の50歳以下には見えないまるで浮浪者のような男が、社長の高田に会いたいと行って現れる。その男は、高田、浅井、加藤の名前を知っていて、対馬から来たという。高田は知らないと言い、つまみ出せと社員に命じる。浅井は対馬ということが気になり、男と話をしてみたいと追いかける。男の姿を見つけられないが、後方から声をかけられ振り返った瞬間にひどい衝撃を受け期を失う。探しに来た社員に助けられ、意識を戻す。二次会の席で頭痛がすると言って浅井は帰宅する。そして、脳出血で亡くなってしまう。浅井は妻に襲われたことを話してはいなかった。事情を知らない医者は脳出血と判断したが、なぜ起こったかまでは関知しなかったのだ。高田は何も伝えず、一般の葬儀で処理されてしまう。
 そして、高田は加藤とともに、それぞれに念のためボディーガードを付けるという用心を始める。ボディーガードを連れて、客の接待のために鹿島が道玄坂近くの店にむかう途中で、パーティ会場に現れた同じ男が再び出てきて、鹿島にやはりしたたかな衝撃を与えたのだ。その後、頭痛を感じながらも接待をしていた鹿島の様子が急変する。救急車で病院に運ばれるが、やはり脳出血で死亡する羽目になる。
 事ここに及んで、高田は警察に通報する決心をする。病院は渋谷署管内だったため、刑事捜査課の出番となり、辰巳刑事が関わっていくことになる。

 鹿島の死因は急性硬膜外血腫と診断される。暴漢に襲われた際の頭の強打などの原因によるだろうと医者は言う。そして、統計的には、頭をぶつけたとか殴られたという日常的な打撲ではあまり急性硬膜外血腫は起きないこと。日常的な打撲ではむしろ慢性硬膜下血腫の方が多いと、辰巳刑事に説明するのである。
 辰巳刑事は竜門整体院の院長の竜門光一を訪ね、急性硬膜外血腫を起こさせることを目的とした武術の技があるかと、質問を投げかけ、事件の一端を竜門に語る。辰巳刑事は、竜門光一が常心流という古武術の免許皆伝を持っていることを知っているのだ。
 武術の技について、その可能性などを辰巳刑事に説明した竜門は、急性硬膜外血腫を引き起こす技が何か、その技を使った人物と技そのものを知りたいという欲求に駆られていく。そして、『トレイン』というジャズを流すバーのマスターに独自にタック・エージェンシーと高田のことを調べてもらうという行動を取る。さらに、高田の周辺をうろつけば、その技を使った人物に会えるかもしれないと考え、独自の行動を開始する。辰巳刑事は、竜門の武術に対する関心の強さを熟知し、うまく事件解決のために竜門を巻き込んでいくのである。竜門自身、己に全く関わりのない事件について、辰巳刑事にうまく利用されているということを気づきながら、己の武術の技への好奇心、関心により深みにはまっていくことになる。

 高田たち3人の活動履歴を調べていくと、対馬に絡んだ時期に何かがあったのではないかという不審な点が浮かび上がってくる。そして辰巳刑事たちの捜査の進展途中に、高田が対馬に旅行するという事態になっていく。辰巳刑事は竜門の好奇心をかき立てるかの如く、高田の対馬行きを竜門に電話で伝えるのだった。
 
 『羲闘』という作品に引き続き、この『宿闘』もやはり主人公は竜門光一であり、渋谷署強行犯係の辰巳刑事はいわば脇役的存在である。竜門を舞台に引き出す操り師的役回りでもある。捜査推理の展開と捜査プロセスでの補佐的役割に廻り、ここぞという活躍場面は竜門が関与するという分担になっている。捜査対象者にあたる人物がなんらかの武術の力を持った存在であることによる。逮捕につながる場面展開に武闘が必然的に出てくるというストーリー展開にならざるをえないからといえる。
 
 『宿闘』というネーミングがどこから出てきたのだろうか。本書に直接それを示唆する説明はなかったと思う。私は結果的にこのストーリーから、宿命の対決・闘争という意味合いを二文字に凝縮したのだろうと解釈してみた。それも2つの観点での宿闘である。
 一つは、高田の犯した罪を原因として、高田と長髪髯面の男との避けられない宿闘である。他の一つは竜門光一が武術家としての自己封じを解き放った時に、未対決の優れた武術家との対決は避けて通れない宿命であり、闘いの場を超克してこそ技が進化あるいは深化するというための宿闘である。勿論、本書のウェイトは後者の宿闘にあることは言うまでも無い。

 本作品において、竜門の武術に関する思考展開という形で、著者の武術に対する蘊蓄が語られていく。『古史古伝』から説き起こし、野見宿禰と当麻蹶速の決闘まで遡り、また対馬に伝わるという武術に言及しているところはけっこうマニアックでおもしろい。本書は武術史の広がりの一端を知るという副産物が得られて興味深い。
 
 ストーリーはこの作品も比較的シンプルである。要所要所に武闘場面が詳細に描き込まれ、最後の大団円に盛り上がっていくという展開はいつものことであるが、惹きつけられる。この作品、あまり特定の時代背景、時代感覚を感じさせない作品として書かれているように思う。逆にいえば、20年前の出版作品という感じをそんなに受けずに読める作品である。
 一気読みで楽しめるエンタテインメント作品といえよう。

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本書に関連する語句をネット検索してみた。一覧にしておきたい。

ナイファンチ :ウィキペディア
シュアイジャオ :ウィキペディア
野見宿禰 :ウィキペディア
野見宿禰(のみのすくね)神社 :「すみだあれこれ」
当麻蹴速 :ウィキペディア
当麻蹶速  朝日日本歴史人物事典の解説 :「コトバンク」
当麻の蹶速 :「奈良を巡る」
吾郷清彦 :ウィキペディア
古史古伝 :ウィキペディア
阿比留文字 :ウィキペディア
神代文字  :ウィキペディア
蘇塗 世界大百科事典 第2版の解説 :「コトバンク」
アジール 世界大百科事典 第2版の解説 :「コトバンク」
対馬 :ウィキペディア
万松院 『対馬藩主宗家墓所』 ホームページ
龍の道 in 対馬 :「風水168」
第二の脳・太陽神経叢について :「センタリング呼吸法」
 


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『クローズアップ』  集英社

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新2版


『クローズアップ』 今野 敏  集英社

2014-01-06 10:03:24 | レビュー
 本書は「スクープ」シリーズの最新刊であるようだ。前2作を知らずに本書を読んだ。巻末の広告を見ると、「スクープ」「ヘッドライン」の紹介が載っている。同じ主人公の名が出てくるので、そう位置づけてよいのだろう。
 この作品は主人公がパラレルに存在するとみてもよい気がする。第一の主人公は、警視庁本部捜査1課・特命捜査対策室の黒田祐介と谷口勲である。第二の主人公は、今はTBNの夜のニュース番組『ニュースイレブン』のディレクター鳩村(鳩村班)専属の記者として働いている布施京一、社会部の遊軍記者である。おもしろいのは、黒田と布施が、刑事対マスコミの記者という対立枠を外して、互いに認め合っているという局面を持ち、通じ合うところがある関係として描かれている点だ。これがこの作品の進展で重要な要素になっていると思う。こういう局面を書き込んでいる著者の作品を知らない。そういう意味では、新機軸を含むものになっていると感じている。

 クローズアップ(close-up)という英単語には、辞書を引くと、映画技法で使われる「大写し」という意味の他に、「詳細な観察[検査、描写]」という語義もある。まさにこのタイトルはこの2つの意味合いを重ねているように思う。
 特命捜査対策室は重要未解決事件を担当するために新設された部署である。事件発生と同時に現場に駆けつける捜査員とは違う。未解決案件になるまでに膨大に積み上げられた資料を読み込み、資料漁りに時間を費やすというのが日常の勤務になるのだ。つまり、後者の意味でのクローズアップが日々の仕事の中心になる。そういう捜査経緯の分析作業プロセスが土台となって、刑事の経験、第六感の働きと論理思考、ひらめきで特定の事象あるいは事件が大写しされる。そのクローズアップを追跡すると重要未解決事件との繋がり、解明の糸口が発見されるというケースにもなる。これはそういうアプローチで事件が究明解決していくというストーリー展開である。

 午前五時頃に、赤坂の檜町公園で男性の遺体が発見されたというニュースに、登庁してきた黒田はなぜか着目していた。谷口もニュースは知っていたが、担当事案でないということで、それ以上の関心を抱いていなかった。だが、黒田は谷口にこの事案の内容を確かめて来いと指示する。「どんな事案が、俺たちの仕事に関連してくるかわからないんだ。誰かを捕まえて話を聞いておけ」と(p5)。それはなぜか? 「この殺しがさ・・・・。なぜか、テレビのニュースで見たときから、ずっと気になっているんだ」(p6)という理由なのだ。谷口は経験豊富な先輩に従うしかない。だが、この事案が彼らの抱える未解決事件に関係しているということが、徐々に判明していくことになる。
 一方、布施京一は、六本木のミッドタウン近くのバーで酒を飲んでいたことで、遺体発見の間なしに、現場の状況をケータイで映像を押さえる。鳩村がこれは『ニュースイレブン』のニュースショーに使えるという。他局よりも早い段階の映像が撮れていること自体がスクープにつながるのだ。

 午後11時になると黒田はテレビの『ニュースイレブン』に注目する。「この番組は油断できないんでな・・・」と。この番組を担当している布施という記者が気になるからだ。そこに、檜町公園の遺体発見直後の現場の模様の映像が放映される。スクープ映像である。黒田は布施とコンタクトをとるために、平河町にある『かめ吉』という居酒屋に向かう。警察官がよく行く店なのだ。やはり、その店には布施が来ていた。黒田と布施の阿吽の会話が始まる。刑事と記者の関係を前提にしての会話である。
 その場に、東都新聞の持田からスクープ映像を撮ったのはあなたかと、男が現れる。『週刊リアル』なんかでライターをしている藍本祐一と名乗る。藍本は店を変え、布施と話をしたいようなのだ。二人は『かめ吉』を出て行く。黒田は、谷口に藍本祐一を洗ってみろと指示する。この殺人事件の捜査活動に属さない黒田に、この事件への端緒ができることになる。

 檜町公園で殺害された被害者は、片山佳彦という週刊誌のライター。『週刊リアル』で極道記事を専門に書いていた人物。茂里下組に独自のルートを持っていたと目されているようなのだ。
 一方、黒田は未解決事件の一つ、継続捜査の事案になっている事件を思い浮かべている。それは3ヵ月ほど前に木田昇、25歳が殺害された事案だった。木田昇は関西の組織の三次団体の構成員だった。その団体は、関東の茂里下組と対立していた。木田はその組長、茂里下常蔵の殺害を試みたヒットマンだった。計画は失敗に終わり、殺人未遂の現行犯で逮捕されて、5年の刑期となる。刑期を終えて出所してすぐに、殺害されたのだった。茂里下組に狙われることを想定し、出所後の所在が厳しく秘匿されていたのに、殺害されたのだ。証拠がなく、実行犯も特定できなかったため、継続捜査事案の一つになっていたのだ。
 そして、これらの事案に接点が現れる方向へと、黒田・谷口の捜査プロセスが展開していくことになる。それは、布施との関わりが深まることにも繋がっていく。
 さらに、それは単に暴力団の抗争という枠を越えた広がりの中に位置づけられるものへと展開していくのである。

 本作品のおもしろい点がいくつかある。箇条書き的に感想をまとめておこう。
1. 黒田、谷口という刑事とテレビ報道記者の布施という、事件の事実公開という点で立場の異なる両者が、微妙な駆け引きをしつつ、阿吽の関わりを持ちながら、事件解決に進んで行くプロセスが描かれていること。
2. ニュース報道の方針に信念を貫こうとする鳩村と番組の視聴率にしか注目しない上司が、鳩村に報道内容についての指示を出すという局面が描かれている点。現実にありそうな軋轢がうまく取り入れられていて、興味深い。
他局が檀秀人という政治家のスキャンダルを報道している中で、鳩村は『ニュースイレブン』は週刊誌じゃない。「報道番組を作っているからには、私はニュートラルな姿勢で臨んでいます」(p23)とメインキャスターの鳥飼に述べる。
 一方、局長は他局が報道しているこのスキャンダルを報道しろと要求する。
 この辺りの軋轢・確執、報道番組成立の背景をかなり具体的に著者は書き込んでいく。報道に対する著者の視点が反映している気がする。
3. 布施という記者のキャラクターがおもしろい。報道について、独自の視点と見識をもちつつ、マイペースで行動する。スクープを頻度高くものにするが、スクープを狙って行動しているわけではないという。そこにはニュースを追う独自の視野と思考があるのだ。 布施は檀秀人のスキャンダル報道はネガティブキャンペーンの一環だと、独自の見方を提起する。そのうち舌禍事件を起こすとすら予測する。舌禍事件はマスコミの取り上げかた次第だからと。「前後の文脈なんて無視して、一言の揚げ足を取るわけです。国民は、ころりとだまされる」(p27)と。こんなことをさらりと言う記者なのだ。
4. 黒田と組む谷口刑事もおもしろい。捜査の最前線に立てると想像していたのに、継続捜査という大半が資料漁りの地味な仕事を拝命し、やってみて自分の性に合っていると思う。先輩の黒田を観察して、様々なことを学ぶ。その長時間に及ぶ捜査行動に、内心不満を感じつつ、付き従い、そうなることになっとくしていくというところがある。布施からも様々なことを学び始める。徐々に刑事としての能力を高めていくプロセスが、なかなかおもしろく描かれている。読んでいてユーモラスであり、楽しい部分でもある。
5. 一つの殺人事件が発端となり、様々な事案に関わりが広がっていく。そこには捜査を担当するそれぞれの捜査部署が重層的に絡んできて、捜査に組織間の力関係や思惑がダイナミックに働いていく。時にはそれぞれの部署の行動が、二律背反的なものにもなりかねない。そんな状況の中で、黒田が継続捜査の立場での捜査追跡を谷口とともに進めて行く。警察組織内の人間関係や力学が描き込まれている点も興味深い。

 著者は登場人物におもしろい発言をさせている。ストーリーの流れから拾い出しておこう。末尾の名前はこの作品に登場する発言者名である。
*発表を待っているだけじゃだめだろう。記者がその眼で見た事実が重要なんだ。
 記者が自覚を持っていれば、どんなことでもニュースになり得る。 鳩村  p11 
*扱っている事案のことを、いつも真剣に考えていれば、勘が働くこともある。 
  黒田  p41
*新聞記者とテレビの記者は、立場が違いますから・・・・。
 俺たち、映像がなければ何もできないんですよ。     布施 p55
*どんなにモザイクをかけて、音声を変えても、身近な人たちには人物が特定できてしまいますから・・・。身に危険を感じている人は、決してテレビには出てくれません。
  布施 p55-56
*立場は人を変える。いつまでも、理想ばかりを追ってはいられないということなんだろうか。  鳥飼 p63
*そう。編集のマジックですね。写真のトリミングと同じことです。どんなに発言に注意したところで、作為的に編集されるのですから。気をつけようがありません。 
  布施 p66
*やめといたほうがいいですよ。
 何に戦いを挑むつもりかわかっているんですか?  布施 p68
*遺体は公園に放置されていたんですよね?
 もしヤクザが犯人なら、それは見せしめです。そうでなければ、今頃は遺体はどこかの山中か海の底でしょう。
 政治家の秘書などをやっていると、いろいろなことを見聞きしますからね。
                  檀秀人の政策秘書 湯本 p177
*政治家というのは、いろいろなことを知っているよ。  湯本 p178
*みんなに、情報を洩らしているんじゃないかと思われるのが嫌なんだよ。 酒井刑事
 情報を洩らすとか、そういうことじゃないだろう。殺人の捜査をしているんだ。犯人を特定して身柄を押さえるために、俺はできることなら何でもする。それが刑事ってもんだろう?             黒田 p194
*それは報道マンのやることではありません。  鳩村   p207
 おまえは、報道マンである前に、テレビマンなんだよ。よく考えろ。 油井報道局長
*マスコミは大きな影響力を持っています。それをちゃんと自覚していないと、たいへんなことになるんですよ。抜いた抜かれただけを考えていると、つい自分たちの影響力のことを忘れてしまう。その無自覚は罪ですらあります。  布施 p254
*俺、記者と刑事だなんて、あまり考えたことないんですよ。ただの友達です。 布施
 その言い分が通用するのは、おまえだけだと思うよ。 鳩村  p293
*役割分担は心得ている。俺は、木田殺しの実行犯を特定したいだけだ。その身柄を挙げれば、俺の仕事は終わる。 黒田 

 なるほど、おまえらしいな。 捜査二課 中島刑事  p297



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公訴時効 :ウィキペディア
 
公訴時効の改正について :「法務省だより」
 
ネガティブ・キャンペーン :ウィキペディア
 


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