眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

納豆の法則

2022-06-17 22:00:00 | 短い話、短い歌
 おばあさんは納豆を混ぜていた。一定のリズムで箸を動かすスピードは少しも老いを感じさせない。納豆は少しずつ艶を増し十分な粘りを放ち始めた。それでもまだおばあさんの勢いは止まらない。始まった頃と変わらぬペースで運動が続いていく。
 おばあさんが当たっているのは納豆という組織だ。けれども、その愛情は一粒一粒に対して注がれている。
「こうしている間がいちばん幸せかもね」
 そう言って笑う時も、手を止めることはなかった。




揺るぎない仕草につれて満ちて行く幸福は個の運動の中

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金持ち喧嘩せよ

2022-06-17 21:03:00 | 将棋ウォーズ自戦記
 あなたは桂損についてどう考えるだろうか。まあたいしたことない。別にどうってことはないと考えるだろうか。実際、ちょっとした代償でもあれば、桂損でもバランスが取れているという局面は多い。だが、場合によっては、それが致命的な桂損になることもある。桂香というのは隅っこに配置されていて、すべての将棋において活躍することが望めるわけではない。居飛車対振り飛車の対抗形などでは、打ち込まれた大駒によって回収されてしまうことも少なくない。

 損した桂によって銀桂交換を強いられる。今度はその銀によって角銀交換。まあ、「交換だよね」と甘く考えているといつの間にやら角損になっている。そんな経験はないだろうか。(駒損は拡大する場合がある)たかが桂損のはずが、気づいた時には大損になっている場合がある。駒の損得はプロでも最も重視される要素であるが、いくら駒得でも多くの駒が遊んでいては話にならないということもある。「終盤は駒の損得より速度」という格言もあって、難しいところである。

 あなたは大きな駒得をして優勢を自覚した時、どのように考えるだろうか。例えば金1枚を得したとしよう。楽観的にみてもう半分勝ったような気分になる。さて、そこからどうやって勝ちに持って行くか。せっかくいい将棋なのだから、大事にしたいと思う。できるだけ安全に勝ちたいと願うのも自然なことだ。
 得した金を自陣に埋めて堅さを主張する。あるいは、中盤の要所に置いて盤上を制圧する。そうした指し方が有効である場合もあるだろう。言わばそれは長期戦志向だ。(金持ち喧嘩せず。長くなれば徐々に戦力差が物を言う)

 しかし、その判断が裏目に出ることもある。余裕を与えている間に戦力の補充・回復を許す。(長くなることでミスを重ね、差を詰められる)例えば、自分だけ歩切れでと金攻めをみせられている時など、とてもゆっくりできるとは思えない。

 そこで「金持ち喧嘩せよ」の登場である。
 これは全く逆を行く短期決戦志向と言える。
 徐々に優勢を拡大していくとか、そういう生温い発想ではなく、突然勝ちに行くのだ。先に得をしているとするなら、1枚捨てても大きな損にならない。そう考えれば思い切った手段も選択肢に入る。普通は荒っぽい筋でも(先に得をしているのなら)十分に成立するかもしれない。

 挽回する余裕を与えず、瞬間的なアドバンテージを生かして寄せに持ち込むのだ。駒得を広げる思想を放棄し、駒得から思い切って速度に転換させることで一気に勝ちを目指すのだ。(この方が切れ負け戦の戦術としても合っていると思う。長々と正解を積み重ねるのも大変)
 駒損を回復しても(逆に駒損になっても)、寄っていればいいのだ。寄り形になっていてちゃんと足りていれば問題ない。

 駒得=安全勝ちというビジョンの他に、
「駒得~捨て駒~寄せ」というパターンも持っておくと、勝ち方のバリエーションも広がっていく。

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猫のバンジー

2022-06-17 03:14:00 | ナノノベル
「うまく飛べなくてもいいじゃない」
 バンジーはまだ飛ばなかった。
 遙か地上を見下ろしながら、人間の声に耳を傾けていた。

「大丈夫。君ならできるよ」
 それは本当だろうか。
 あの男は自分の何を理解しているというのだろう。
 ここに来てからどれほどの時間が経っただろう。
「自分を信じるんだ!
苦しんだ時間を信じるんだ!
何も育んでこなかったと思うのかい?」

「さあ! やってごらん!
ここまで来たんだから」
 男はまるで手の届かない距離から猫の背中を押そうとしていた。
 バンジーは首をひねった。
 私は、言われて飛ぶのか。
 ここまで来たから飛ぶのか。
(それは論理的か?)
 飛ぶという選択もある。
 しかし、引き返すという選択だってある。
(私は流れや人の言葉に支配されるのか)

「戻りたいんでしょ?
さあ、飛べば一瞬だよ」
 そうとも。
 その一瞬も私の時間だ。


「そうだね。やっぱり怖いよね」

「必ずイメージ通りに飛べるとは限らないんだから。
でもね、そうやってためらって、引き下がってばかりだと、最後にはどこにも行くところがなくなってしまうよ。
本当にそれでいいの?
多くの猫はそこまで来ても飛ぶことはしないだろう。
愛がリスクを超えられないからさ。
君の夢の翼はどれくらいなの?
なあ、バンジー。君の好きはどれくらいなの」

「いいじゃないか。駄目駄目のジャンプでも。
チャレンジするということは、失敗への耐性を上げることさ」
「何だって?」
 長い話に猫は少し眠気を覚え始めていた。

「怖くないよ。恐怖の先に快感はある」
「うそだ! 楽しいばかりならみんなやっている!」

「苦しいばかりなら誰もやっていない!」
 人間はすぐに投げ返してきた。
 その瞬間、吸い込まれるようにバンジーの体が傾いた。
 次の瞬間、ふっと体が軽くなった。
(自分から離れたのだ)
 ああ、降りていく。
 もう自分ではどうにもできない。


 登場人物たちが世界の中を勝手に動き回る……。

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もう1つのゲーム ~切れ負け特有の事情

2022-06-17 01:58:00 | 将棋ウォーズ自戦記
「5秒将棋でも必勝」
 将棋としては終わっている。
 普通だったら(投了もやむなし)。しかし、切れ負け将棋は、話が違う。ルール/ゲームが違うのだ。(切れ負け将棋に判定勝ちはない)いくら形勢が大差でも、場合によってはあと一手で頭に金がのって逃げ場がなくなるような局面でも、先に時間が切れた方の負けとなる。

(技がかかっても、銀損しても、終わりじゃない)
(弱くても、必敗でも、チャンスがある)

 大きな駒損をして全く攻め味もないような側が、自陣に飛車を打ちつけて頑張っている。そうした絵柄を、どこででも観ることができる。

「時間内に寄せられますか?」
 自陣飛車は、そう問いかけているようだ。
 それはもう1つのゲームなのだ。
 よい側は焦るだろう。気が緩むこともあるだろう。そうしたメンタルも含めて、切れ負けというゲームだと言える。
 よい将棋をちゃんと将棋で勝ち切るとするならば……。
 試されているのは、勝つ/寄せる手際のよさかもしれない。
 いかに効率的に守備駒を一掃するか。粘る手を許さないか。王手のかかる形を築くか。より厳しい手。より困る手。より賢明な手。より本質を突く手を追究/選択できるか。

 駆け引きの上では、相手に時間を使わせることも重要だろう。(相手の考慮時間も自分の貴重な時間になる)迷わせる手。少し意表を突く手。王手のかかる形にすることで不安にさせることも有効かも知れない。
 勝つということは、ちゃんと勝ち切るということは(いかに形勢が離れていても)、それほど簡単なことじゃない。

 ~玉のみえる形にすること

(穴熊が強いのは頓死の心配なく駒を渡して攻められるところだ)
 攻め方を誤ったとしてもそれを咎めて勝ちまで結びつくには遠い。しかし、玉の周辺で受け間違えば簡単に詰んでしまう。時間に追われている状況では、どんなミスが出るかわからない。玉との距離を詰められるかどうかは、勝率にも結びつくと言えるだろう。

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ワンドリンク制

2022-06-17 00:46:00 | マナティ
「ねえ、マナティ、今日はこんなことがあったよ」
「どんなことでしょうか」

「お客様、ドリンクの注文はされてますでしょうかって言われたの」

「コーヒーですか?」
「そう。勿論そうさ。何を見てんだか」
「ちゃんとしてたんですね」
「ちゃんと見てないんじゃないか」
「なるほど」

「何も頼まず居座るなんて、僕は海賊かい?」
「いいえ。あなたは海賊ではありません」

「そうさ。僕はうんと答えた。pomeraの向こうにそれはあったんだ」
「なるほど」
「店員もそれを見つけた。失礼しましたって帰っていったよ」

「それは大変でしたね」
「そうでもないよ」
「そうですね」
「ああ、そうさ」
「なるほど」

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