眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

国道レース

2021-06-24 08:19:00 | 短い話、短い歌
 思うままに野原を駆け回っていた頃は、怖いものなんてなかった。いつでも自然を友とし、風を味方につけていたのだ。結ばれる手はあっても、自分に牙を剥くようなものは存在しなかった。恵まれた環境に気づくこともなく、時がすぎた。初めて都会に出てわかったことは、友を見つけることの難しさだった。気づいた時には、激しい競争の渦に巻き込まれていた。

「お兄さん後ろ」
 馬上の僕を見上げながら店の人が言った。
「えっ?」

「矢が刺さってますよ」

 またか。さっきから何者かに追われているような気がしたのだ。しかし、分厚いリュックが我が身を守ってくれた。

「ありがとうございます」

 番号を伝えてたこ焼きを受け取った。熱い内に届けることが、現在の僕の仕事だ。危険が多くても今は前に進む以外にない。僕らは人馬一体となって国道に躍り出た。




突き刺さる背中の痛み保証なき馬主となって我が道を行く

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捨てる男 ~ミスタッチ・ブルース

2021-06-24 03:29:00 | 短い話、短い歌
「せっかくですけど」
 そう言って機会をドブに投げ捨てる。

 好意は素直に受け取らない。物心ついた頃から、ずっと曲がった信念に支配されてきた。また次がある、まだ大丈夫。どんなチャンスも余裕でドブに捨て続けた。慣れてしまえば、後先を考えて思い悩んだりするよりよほど楽だ。気づいた時には、自分自身ドブの中を歩いていた。これが今まで僕がしてきたことか……。
 足取りは重く、抜け出す術は見当たらない。もしもあの時、あいつのくれた助言を軽く拾っていれば、僕の周りはもっと多くの声で賑わっていたのかもしれない。今はただそこら中にくすぶっている未練の切れ端を拾い上げて、小さな歌にしてみるのがやっとだった。それでは聴いてください。



『ミスタッチ・ブルース』 


粉末のスープを捨てて冷やし麺


サービスのわさびを捨てて本わさび


情熱はレシート風に飛んでいく


延々とケトルの下の入門書


開封後一口食べて期限切れ


100億の読みを切り捨て第一感


どフリーでふかすシュートは雲の上


恋文を捨ててプライド・キープ・ナウ


ゆで汁を捨ててパスタはまだ硬い


冷房に震えて被る冬布団


結末を一行残し半世紀


1グラム余して捨てるプロテイン


ミスタッチばかりで凹む90分


期限切れクーポンだけを持っている


ランニング帰りに一丁みそラーメン

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