おじいさんは山に芝刈りに、おばあさん川に洗濯に……。そんなのおかしいと言って君は出て行った。私は布団の中に潜り込む。方法は違うけれど、お互いにとっての旅だった。たくさん眠るほどに遠くへ行った人に会うことができる。そこには忘れかけた何かが残っていて、失われた自分を取り戻すことができる。
(何も置かないでください)
貼り紙の効力は半月ばかり続いた。
新しい作業スペースの誕生。しかし、いつまで経っても何も始まらなかった。仕方なく地べたで泣いている手荷物は多くあった。閉店が決まると次々と処分品が集まってきてスペースを占領した。いつの間にか、あの貼り紙も姿を消していた。そして、もうすぐ私たちも……。
「もしも明日オリンピックが開かれるとしたら、何の問題もなく開かれるものとお考えですか?」
「外出そのものは悪くないと聞いております。まずは若者と酒類の販売に重点を置きながら、広く専門家の意見も聞いて様々な観点から総合的に判断した上で、できる限り早急に人流の抑制に努めて参りたい……」
消してくれ!
メルヘンの奥に足を踏み入れていた君が、今はいちばん近くにいた。倉に眠っていた絵画を売りに出すと、それなりの額になったようだ。君はその中に実験的に1つの自作を交ぜてみたのだが、それは50円の値がついた。君はいったい何に怒っていたのか。まだ途中だった多くの作品を一度に捨ててしまったのだ。
君が絵を持って行ってしまったので、私の詩は頭を失ってしまいました。今は文字だけ。それは孤独になったという意味です。
「着飾っていなければ見つけられない」
私はそれを信じているわけではない。
だけど、失った何かは大事にしていたものだった。
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愛してた脈に流れる詩を切って
夜行列車のカイトヘ飛ばせ
(折句「あみじゃが」短歌)