眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ホーム&ユー

2019-12-24 23:09:00 | 自分探しの迷子
「本日ライブのため貸し切り」

 ようやくたどり着いた時にはもう閉店時間が迫っていた。入店してすぐに帰り支度をしなければならない。ついてないな。僕が外出を始めたのは自分のホームを広げていくためだった。決済をして次の場所へ向かう。グーグルの情報は既に尽きていた。商店街の入り口に近いところの明るく奥行きのある喫茶店に入った。分煙はされておらず、ずっともくもくとしていた。場所がいいのか回転は早かった。仕事帰りの会社の集まりのような人が賑やかに入ってきた。U字型のカウンターの隅にかけて物を書いた。

 目の前に置かれた造花の向こうから女の吸う煙草の煙が漂ってくる。冷房が利きすぎていないことが救いだった。物を書く内に私は時の経つのを忘れていました。気がつくとすっかりと人の気配がなくなっていました。お店の人が床にモップを走らせている様子が見えました。「もう終わりですか」そんな……。私は残ったコーヒーを一気に飲み込まなければなりませんでした。歩き出すと急にお腹が空いてきた。僕が消えている間に脳内で激しい運動が行われたのかもしれない。僕は次の街へと向かう。

 僕が外出の味を覚えたのは家の落ち着きを知ってからだ。自分の家が最も落ち着く。落ち着きが最大化するのは家に帰ってきた瞬間だ。居続けるとその内に息苦しくなるから不思議だ。その時はまた外出を試みねばならない。俺は外へと向かって歩きながらホームを広げていった。隣の街まで行けば自分の街はホームになった。その先に行けば、既に行った街もホームになった。俺が外へと向かえば向かうほど、その内側は俺のホームになる。

 俺は歩きながら自分のホームを広げていく。俺の本当のホームには部屋が一つばかりあるだけだ。だが俺のホームは狭くはない。俺のホームはいくらでも広がり続けるばかりだ。そうしてたどり着いたかどっこのうどん屋は昼しかやっていないとかで、またもう一つある父ちゃんのうどん屋の方は、もう麺が尽きてしまったとかで、空腹を満たす機会は私から逃げて行くばかりでした。閉鎖しました。移転のお知らせ。閉店のお知らせ。ここも駄目。ここも違う。望むような場所はすべて私に微笑みを返さないようになっていました。今日は最初のカフェからしてそうだったし、こういう一日というのは、何から何までが裏目に出るものだけど、いつもいつも行き当たりバッタリだからこうなる運命なのかもしれません。

 もう広げることには心底疲れました。たった一つのあなたを僕は求めていた。そうすればもう何も迷うこともない。あなたはいつも無数のあなたと一緒になっていて本当のあなたを見分けることは難しかった。「あなた?」あなたは何も答えてくれない。きっと違うのだろう。僕は本当のホーム(あなた)にたどり着くために歩き続けている。いつもいつも歩き続けて探し回っている。きっとそのためにあなたを見つけることができないのだろう。誰よりあなたをわかっていないのは僕かもしれない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来を指しながら

2019-12-24 04:08:00 | 自分探しの迷子
 テーブルの上に寝そべったまま僕は誰かが僕を動かしてくれるのを待っていた。
 その手に導かれて僕はどこへ向かうのだろう。まだ僕の知らない未来。ここにいる長い時間のことを思えば、どこへでもいいと思うだろう。理想もないとこだとしても、その瞬間は、離れていくという事実が何よりも最初の救いになるだろう。
 僕に触れて導いていくものの存在。君はいつやってくるのだろう。
 僕には君が必要だ。そして私はいくつものテーブルの間を縫って、ついに私という存在を見つけ出すあなたが現れる瞬間を心待ちにしながら、今という退屈な時間をただ待つという行為に捧げているのでした。他に方法があるのなら、例えば自ら声を上げてあなたに私という存在を知らせることができたなら。あるいは、他のものに頼んでそのヒントの端くれのようなものでも、どこかにそっと置くことができたなら。
 できるものなら、私は迷うことなくそうすることでしょう。僕は小屋から抜け出すことを知らない犬のようなものだ。わしはコントロールされて駆けることを覚えすぎた馬のようなものじゃ。

ヒヒーン! ヒヒヒヒーン! そうわしの声はそのように単純に訳することもできるのじゃ。じゃがな、もし、わしが馬であったとして。俺はペン。ずっと俺はここにいる。ここに忘れられたままだ。いったい誰が? それを問うたとこで何になる。
 ともかく俺は待つしかない。
 待つしかない存在。それが俺だ。だが、俺は自分のことを疑ってはいない。そいつは必ずやってくるだろう。
 俺はここに存在する。お前はどこかで俺を探している。俺を探してさまよっている。動かなくても俺には見える。俺は動かない。お前はあきらめない。だから、俺にはわかっている。出会うことは必然だ。俺は未来を指している。あっしはヒヒーンの使い。ずっと一つの未来を指しながら、僕はここで君が訪れるのを待っている。忘れられた哀れな存在などではない。僕はここに静止した状態で長い助走を取っているのだと思う。
 ここに流れている時間は、きっとそういう時間だ。
 僕には君が必要だ。君にとっても同じだろう。

 どこまでもどこまでも進むことができる。それが君と僕の先にある未来なのだから。誰かが私の存在に気づいて近づいてくるけれど、その目は長い間探し続けたものをついに発見した人の目ではなく、ただ何となくそれを見てしまった者の目なのでした。見たいものを見つめるのではなく、他に何も見あたらないからという理由で、気もなく向いているような目。
 その時、私は寒気さえも感じ、実際テーブルの上で音を立てて震え始めていたのでした。

「君じゃない!」僕が待っていたのは君じゃない! 
来ないでくれ! 向こうに行ってくれ! 
どうか見つけないでくれ! 
「触れないでくれ!」僕をどこにもつれてかないで。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする