「本日ライブのため貸し切り」
ようやくたどり着いた時にはもう閉店時間が迫っていた。入店してすぐに帰り支度をしなければならない。ついてないな。僕が外出を始めたのは自分のホームを広げていくためだった。決済をして次の場所へ向かう。グーグルの情報は既に尽きていた。商店街の入り口に近いところの明るく奥行きのある喫茶店に入った。分煙はされておらず、ずっともくもくとしていた。場所がいいのか回転は早かった。仕事帰りの会社の集まりのような人が賑やかに入ってきた。U字型のカウンターの隅にかけて物を書いた。
目の前に置かれた造花の向こうから女の吸う煙草の煙が漂ってくる。冷房が利きすぎていないことが救いだった。物を書く内に私は時の経つのを忘れていました。気がつくとすっかりと人の気配がなくなっていました。お店の人が床にモップを走らせている様子が見えました。「もう終わりですか」そんな……。私は残ったコーヒーを一気に飲み込まなければなりませんでした。歩き出すと急にお腹が空いてきた。僕が消えている間に脳内で激しい運動が行われたのかもしれない。僕は次の街へと向かう。
僕が外出の味を覚えたのは家の落ち着きを知ってからだ。自分の家が最も落ち着く。落ち着きが最大化するのは家に帰ってきた瞬間だ。居続けるとその内に息苦しくなるから不思議だ。その時はまた外出を試みねばならない。俺は外へと向かって歩きながらホームを広げていった。隣の街まで行けば自分の街はホームになった。その先に行けば、既に行った街もホームになった。俺が外へと向かえば向かうほど、その内側は俺のホームになる。
俺は歩きながら自分のホームを広げていく。俺の本当のホームには部屋が一つばかりあるだけだ。だが俺のホームは狭くはない。俺のホームはいくらでも広がり続けるばかりだ。そうしてたどり着いたかどっこのうどん屋は昼しかやっていないとかで、またもう一つある父ちゃんのうどん屋の方は、もう麺が尽きてしまったとかで、空腹を満たす機会は私から逃げて行くばかりでした。閉鎖しました。移転のお知らせ。閉店のお知らせ。ここも駄目。ここも違う。望むような場所はすべて私に微笑みを返さないようになっていました。今日は最初のカフェからしてそうだったし、こういう一日というのは、何から何までが裏目に出るものだけど、いつもいつも行き当たりバッタリだからこうなる運命なのかもしれません。
もう広げることには心底疲れました。たった一つのあなたを僕は求めていた。そうすればもう何も迷うこともない。あなたはいつも無数のあなたと一緒になっていて本当のあなたを見分けることは難しかった。「あなた?」あなたは何も答えてくれない。きっと違うのだろう。僕は本当のホーム(あなた)にたどり着くために歩き続けている。いつもいつも歩き続けて探し回っている。きっとそのためにあなたを見つけることができないのだろう。誰よりあなたをわかっていないのは僕かもしれない。
ようやくたどり着いた時にはもう閉店時間が迫っていた。入店してすぐに帰り支度をしなければならない。ついてないな。僕が外出を始めたのは自分のホームを広げていくためだった。決済をして次の場所へ向かう。グーグルの情報は既に尽きていた。商店街の入り口に近いところの明るく奥行きのある喫茶店に入った。分煙はされておらず、ずっともくもくとしていた。場所がいいのか回転は早かった。仕事帰りの会社の集まりのような人が賑やかに入ってきた。U字型のカウンターの隅にかけて物を書いた。
目の前に置かれた造花の向こうから女の吸う煙草の煙が漂ってくる。冷房が利きすぎていないことが救いだった。物を書く内に私は時の経つのを忘れていました。気がつくとすっかりと人の気配がなくなっていました。お店の人が床にモップを走らせている様子が見えました。「もう終わりですか」そんな……。私は残ったコーヒーを一気に飲み込まなければなりませんでした。歩き出すと急にお腹が空いてきた。僕が消えている間に脳内で激しい運動が行われたのかもしれない。僕は次の街へと向かう。
僕が外出の味を覚えたのは家の落ち着きを知ってからだ。自分の家が最も落ち着く。落ち着きが最大化するのは家に帰ってきた瞬間だ。居続けるとその内に息苦しくなるから不思議だ。その時はまた外出を試みねばならない。俺は外へと向かって歩きながらホームを広げていった。隣の街まで行けば自分の街はホームになった。その先に行けば、既に行った街もホームになった。俺が外へと向かえば向かうほど、その内側は俺のホームになる。
俺は歩きながら自分のホームを広げていく。俺の本当のホームには部屋が一つばかりあるだけだ。だが俺のホームは狭くはない。俺のホームはいくらでも広がり続けるばかりだ。そうしてたどり着いたかどっこのうどん屋は昼しかやっていないとかで、またもう一つある父ちゃんのうどん屋の方は、もう麺が尽きてしまったとかで、空腹を満たす機会は私から逃げて行くばかりでした。閉鎖しました。移転のお知らせ。閉店のお知らせ。ここも駄目。ここも違う。望むような場所はすべて私に微笑みを返さないようになっていました。今日は最初のカフェからしてそうだったし、こういう一日というのは、何から何までが裏目に出るものだけど、いつもいつも行き当たりバッタリだからこうなる運命なのかもしれません。
もう広げることには心底疲れました。たった一つのあなたを僕は求めていた。そうすればもう何も迷うこともない。あなたはいつも無数のあなたと一緒になっていて本当のあなたを見分けることは難しかった。「あなた?」あなたは何も答えてくれない。きっと違うのだろう。僕は本当のホーム(あなた)にたどり着くために歩き続けている。いつもいつも歩き続けて探し回っている。きっとそのためにあなたを見つけることができないのだろう。誰よりあなたをわかっていないのは僕かもしれない。