語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】国の役割・自治体の役割(3) ~復興計画の具体的なあり方~

2011年05月16日 | 震災・原発事故
(6)復興計画の具体的なあり方
 復興計画を策定し、復興事業に着手するために解決しなければならない実務的な課題、懸案がある。過去の震災では必要が生じなかった課題、懸案だ。
 (a)タイムスケジュール
 復旧・復興までの期間は、10年だとあまりにも長い。せめて5年を目標に掲げるべきだ。生活設計も、5年先ならある程度読める。10年先となると、まったく読めない。
 住まいの復興は3年、基本的な復興完成は5年、といった目標を打ち出し、そのタイムスケジュールに向かって国は最大限努力する。その間の明快な手順、進み方を地元自治体と地元住民にわかりやすく示してほしい。誰でもわかりやすい時間軸の目標を早めに打ち出す。それこそ、国の役割だ。さもないと、故郷の都市、集落に戻る目処が立たない場合、壮年層は収入と職を求めて他県に定住してしまう。
 1年目・・・・民有地と漁船も含めた瓦礫の処理、現在地で再建可能な市街地の整地工事、移転する場合は移転候補地選定と用地買収を進める。
 2年目・・・・住まいの建設を急ピッチで進める。来年からは本設の住宅が続々できて家に住めるようになる、とアナウンスする。
 3年目・・・・基本的なインフラが回復され、水産業も再開され、都市復興を実現させる。

 (b)死者・行方不明者の土地・財産
 まだ多数の行方不明者がいる。地震で敷地も微妙にずれている。敷地の境界画定をしようにも、隣が行方不明で死亡も確定していない場合は土地境界の画定ができない。
 行方不明者の土地は、“保留地”として地元自治体管理にするなど特別な措置が必要になる。短期の調停システムなど、緊急時における被災地限定の簡便な土地境界の画定ルールだ。
 相続財産の処理もある。被災地には巨額の国費が投じられ、公共投資が入る予定だ。現地に住むつもりのない相続人には、相続を遠慮してもらうような措置が必要になる。
 境界画定と亡くなった人の土地を集約する措置が必要になる。生活道路の舗装工事などは行政の費用負担で実施する。土地の権利移動、敷地の移動のために、減歩は一切なし、という大前提で簡便な区画整理を実施することが必要だ。これは法改正せずとも実施可能だ。
 自力再建を容認する地域を早めに線引きして公表する必要がある。また、市街地の高台移転を実施する場合には早期に適地を選定し、これも公表する必要がある。
 今回の大規模津波災害で初めて直面する難題は、県と市町村が早めに調整し、方向性や指針を出す必要がある。

 (c)水没地の扱い
 仙台平野の水没地全体の嵩上げは、農業水利・排水を含めて大工事となり、容易ではない。
 実現可能な方策は、津波による浸水を機会に離農する権利者の土地を土地改良事業により海沿いに換地・集約化し、地元自治体で買収し、これを種地として海浜沿いの区域を堤防状に嵩上げし、防潮堤と防潮林を兼ねた海浜公園を整備することだ。
 その実現には、農林水産省の農地行政と国土交通省の海岸行政・都市行政の全面的な協力が必要になる。

 (d)地元自治体の機能の回復
 マンパワーが圧倒的に不足している。
 国、都市再生機構、地方自治体の現役職員や退職直後のOBを含めて大量に支援投入するしかない。こうした人材を、例えば国関係の職員は国土交通省東北地方整備局に重点的に配置し、さらに拠点都市に東北地方整備局出張所を設けて駐在員とし、現地と本省の連絡拠点とする。地元の行政や関係者からの国に対する陳情や相談、補助金申請の窓口とするのだ。
 地元の市役所・町役場に投入する人材は、現場の実務を知っている市のベテラン・中堅職員が適している。
 被災地の自治体に長期間、組織的に人員を派遣する体力と能力を持つ自治体は、人口50万人以上の政令指定都市、中核市に限られる。全国各地の主要都市が被災地の拠点都市の支援に向かうことが望ましい(4月20日に名古屋市は陸前高田市に1年以上職員を派遣すると決定した)。その縁組み斡旋は県の役割だ。人員派遣の費用負担は、全額国費とする特別地方交付税で負担する、と国が表明すれば、縁組みは次々に実現するはずだ。

 復興のために、国がなすべきことは、法制度と財政面で復旧・復興を全面支援することだ。国の税金で支援できる範囲と年限を早急に明示し、強い意思表示を行うことが、地方分権下で必要とされる国の復興政策、国のリーダーシップである。
 6月末の復興構想会議の提言を受けて政府が指示し、それから中央官庁が動くのでは、あまりに遅すぎる。

   *

 以上、越澤明(北海道大学教授)「復興は時間との勝負である ~『復旧』さえ進んでいないのは遅すぎる~」(「中央公論」2011年6月号)に拠る。
 ここでは、阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、福岡県西方沖地震では必要が生じなかった課題、懸案を踏まえて、具体的な復興計画を提起している。ただし、論じた分野は限定されている。(4)で指摘のあった「深刻な高齢化を踏まえた計画」は展開されていない。
 なお、「東日本大震災復興特別措置法」の要綱案では、「例えば、宅地や農地など土地の種類ごとに分かれている規制を一元化。各省庁縦割りの手続きをひとくくりにして被災自治体が復興計画を進めやすくする。津波被害を受けた地域が農地だった内陸部に宅地を造成することや、農地や宅地だった場所を利用して大型の漁港施設を整備することを迅速に進める狙いだ」(2011年5月13日15時1分 asahi.com)。
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