語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、さらに失われる10年の入り口に立つ日本 ~「超」整理日記No.535~

2010年10月31日 | ●野口悠紀雄
(1)経済構造の大変化
 7~9月期の実質GDPは、マイナスになる可能性が高い(輸出伸び悩み、エコカー買い換え補助終了)。
 政府は、10月の月例経済報告において下方修正し、「足踏み」とした。しかし、これからの日本経済は、むしろ「下落」する。
 経済構造が大きく変ろうとしている。景気変動より、重要な問題だ、
 その重要な指標は、為替レートだ。9月中旬に介入が行われたが、効果は一時的だった。03年、04年の介入と異なり、現在の環境では恒常的に円安にすることはできない。先進諸国が金利を引き下げているからだ。それに、世界の1日の為替取引額は4兆ドルである。2兆円程度では流れを変えられない。損失を被るだけだ。
 07年頃までの円安にはもうできない。企業戦略や経済政策は、円高が今後も進むことを前提として考えねばならない。
 生産拠点の海外移転は、今後さらに進展するだろう。その結果、設備投資・雇用が増えないだけではなく、国内に膨大な過剰設備・過剰雇用が残される。
 いまの日本が直面しているのは、景気の問題ではなく、構造変化である。

(2)補正予算案
 ところが、大多数は、いまの日本経済の問題を景気変動としてしかとらえていない。これが補正予算案にも明確に表れている。
 今回の補正予算案は、自民党時代に導入された政策の延長が中心だ。緊急避難策であり、雇用情勢や産業構造を変えるものではない。むしろ従来の構造の温存が目的だ。
 「対策はとっている」との言い訳のための補正予算案だ。未來への展望を開くものではない。このままでは「さらに失われる10年」になる。
 今回の補正予算案で唯一評価できるのは、公共事業である。都市のインフラ整備は重要な課題だ。高度なサービス産業実現のためにも、不可欠である。
 経済危機の経済対策として、建設国債の発行による公共事業増はありえた。日本のインフラストラクチャの状況は大きく変わったはずだ。千載一遇の機会を取り逃してしまった。

(3)経済成長に必要な高度サービス産業
 日本企業海外移転の理由の一つは、社会保険料の事業主負担だ。しかし、軽減は困難だし、少しばかり軽減しても企業の決定に影響しない。
 介護分野で100万人単位で雇用を吸収できるのはたしかだ。しかし、介護だけで日本経済全体の状況は変わらない。
 どうしても必要なのは、新しい産業だ。高度なサービス産業である。すぐに実現できることではない。また、即効性はない。しかし、もう20年もの間、「即効性のあるもの」という緊急対策しか行ってこなかったから日本は衰退したのだ。場当たり的対処からの脱却こそ、いま求められている。
 製造業に期待する「モノづくり大国」論者に欠けているのは、国際分業の視点である。新興国工業化を前提として、日本が比較的優位を持ちうる分野は何かを考えねばならない。現実にすでに製造業が日本を脱出しつつある。日本は大きな転換点にさしかかっている。
 高度な先端的サービス産業のために、人材育成がなによりも必要だ。20年以上放置されてきた課題である。

【参考】野口悠紀雄「さらに失われる10年の入り口に立つ日本 ~「超」整理日記No.535~」(「週刊ダイヤモンド」2010年11月6日号所収)
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