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自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

大失業減給危機に備える人的資源論

2009年05月09日 | ニューパラダイム人間学


なぜ世の中に失業者がたくさんいても、派遣社員やアルバイトより高い賃金がかかる正規従業員を企業は雇っておくのか?

もうこの問いかけは古い。これからは正社員の雇用調整が本格化するからだ。

労働保持に補助金を出す「雇用調整助成金」の支給対象は、昨年2月にはわずか1269人だったが、今年3月には238万人と2000倍に激増している。このままいけば失業者数は350万人を超えて最悪記録を塗り替えることとなる。

前述の問いに答えるため、効率賃金仮説はいろいろな説と複合して1980年代に盛んに研究されてきている。

(1)離職コスト説

・基幹業務を担当するコアで優秀な社員が「はい、サヨナラ」と辞めたら企業は困る。戦略遂行にも支障がでるし、後継者人材を探したり、育成したりしなければいけないのでとにかくコストがかかる。

・だから企業は「辞められるコスト」の高い従業員には高めの給料を払って、「辞められるコスト」を実際にペイすることを回避しようとする。

(2)インセンティブ説

・人はもしクビになって転職して得られるペイが同じだとしたら、要領よくサボるものだ。

・だから企業は、従業員には相場よりはチョイ高めの賃金を払っておいて、クビになるぞと各種プレッシャーや脅しをかける。よって正規従業員は頑張るか、頑張っているふりをする。

(3)内部労働市場説
・日本の企業の多くは年功序列賃金となっている。 かつては生活保証給という観点から、年功序列賃金の理由がもっともらしく説明された。

・年齢が上がると家族の衣食住コストなどが増大する。だから賃金を上昇させないと生活が維持できないから賃金カーブは右上がりになる。

(4)人的資本説

・ノーベル経済学賞のベッカーは、人的資本論を用いて従業員が体得するスキルを「汎用スキル」と「特殊スキル」と区分した。

・汎用スキルはどの企業でも汎用的に使えるポータブルな技能。特殊スキルはその企業でしか通用しない特殊な技能。企業は特殊スキルの開発には費用をかけるが、汎用スキルに対しては費用をかけようとしない。なぜならば、労働者に一般スキルを高める訓練を一生懸命行なっても、他の企業に転職されたら、その費用を回収できないからである。

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以上の諸説を用いて、オジサン社畜世代とロスジェネ世代の2つの世代グループの標準的な姿をざっとスケッチしてみる。もちろん、オジサン社畜世代でも、ロスジェネ世代でも、突然変異を起こしてまったく別の個人的なシナリオを突っ走る人もいるが、ここではテーマとしない。

まずは化石となりつつあるオジサン社畜世代。この世代のデキる人は、社内特殊スキル(人脈、社内政治を含める特殊技能)の蓄積にいそしみ、そうすることで、上司やまわりには「こいつはデキル」と思わせておくスキルに長ける。職務習熟度は勤続年数と相関するので、とにかく会社共同体=内部労働市場のよき一員として大過なく過ごすようになる。

社内特殊スキルを高めることが仕事の習熟であり、習熟度は年功的に上がる。会社に埋め込まれたベネフィットは多様。独身寮に住んで、あわよくば彼女も社会で調達。結婚式も社内の宴会みたいなもの。社内住宅に住んで、財形貯蓄を積んで、なんでもかんでも会社ベース。社内旅行に社内宴会、なんでもござれ。会社イコール社会となってゆく。

こうして見ず知らずのうちに会社に囲い込まれてゆき、社畜度があがってゆく。退職金を積んでいるので40歳を超えたあたりから、転職するリスクが激増する。会社の仕事に純粋なパッションも感じないしリスクテークしない人が多い。基本、自分の利益をセコク計算しながら仕事をやってゆく。

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こんなオジサン社畜がイノベーションを担えるはずがない。こんな社畜の集団に巣食われたら会社はダメになるに決まっている。1980年代後半あたりから、大企業の経営者は気が付き始めた。

だから変革の志のある企業は、古くは能力主義、昨今では成果主義人事を導入してきた。役割貢献度によって今のペイを今の役割達成度で決めてゆくようになる。

    ・貢献度 = 役割責任の大きさ X 役割責任の達成度

    ・役割達成度=f(能力資質、目標達成行動)X貢献度

成果主義(meritocracy)とは、上記の役割達成度で賃金を決定してゆく方式だが、いかんせん日本企業は計測し、評価するということには熱心でない。というか、体質として受容していない。成果主義の考え方を一部導入しているのみであって、年功+暗黙的な能力評価のもとで運用されている。多くの企業では成果主義を中高年の賃金を抑制するために導入してきた。

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ロスジェネ世代はどうか?この世代のオジサン社畜に対する見方、自分たちのワークスタイルに関する見方は複雑だ。

NHK「あすの日本」の「35歳を救え」という特集。35歳の1万人へのアンケートは、このロスジェネ世代にとって終身雇用や長期安定雇用の活用度は低くなっている。「転職経験がある」が66%、「会社が倒産するかもしれない」が42%、「解雇されるかもしれない」が30%。

この世代は、離職コストを負担して上の世代にくらべればポータブルスキルの研鑽に熱心。内部労働市場、年功賃金にはさほど価値を置かず、一社懸命に働くことをよしとしない。かといって新卒のときは、一つの会社にずっと勤めたいと思っている人の方が多い。ある意味、期待が裏切られながらも、雇用環境に適応してきた結果、複雑な内面を保持している。

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35才以下の世代が元気づいてイノベーションを巻き起こす溌剌たる変化の主体者にならなければ、「あすの日本」はないだろう。さらにヤバイことになる。

衰退産業を衰退するにまかせ、新産業へ元気な人材を流動させる仕組みがぜひとも必要。ワーキングプアにのみ、貧乏くじを引かせてリスクを取らせている雇用労働政策はもう限界なのだ。

公務員を含め解雇規制を撤廃する、あるいは大幅に緩和する。そのかわり究極の失業対策、能力開発である起業(セルフエンプロイメント)支援のためのポータブルスキル・アップの機会を潤沢にするといったような雇用政策が必要だ。ポータブル化するスキル、ポータブル化する人的資源をサポートするために、年金もポータブルにすべきだ。


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