よしなごと徒然草: まつしたヒロのブログ 

自転車XアウトドアX健康法Xなど綴る雑談メモ by 松下博宣

iPadと電子出版→ライターイノベーションの萌芽

2010年04月03日 | 技術経営MOT


アメリカではiPadを買うための行列騒ぎが起こっているようですが、たぶん日本でもそうなるでしょう。しかし、iPadは、たんなるユーザの立場で買ってしまうと、気持ちよくAppleに囲い込まれてしまうビジネスモデルなので要注意。で、発想を転換してなんらかの収益源を求めるスタンスで眺めてみることをおすすめしています。

いくつかアイディアがあります。ここではテキスト提供業(売文業、ライター稼業)の立場から。何冊かの本の著者として、また現在も紙媒体や電子媒体にテキストを提供している身にとって、iPadと電子出版の動きにはことさら注視してきています。

なかでも注目の動きは株式会社アゴラブックでしょうか。池田信夫さんの電子出版はすでに始まっている、のエントリーは面白いです。

<以下貼付け>

3月1日付で「株式会社アゴラブックス」を設立し、私が代表取締役に就任した。役員兼社員5人の超零細企業だが、4月から電子書籍の刊行を始める予定だ――といっても、設備は何もない。インフラはGoogle Appsで1人年間6000円。システム管理もすべてアウトソースするので、固定費はゼロ。失敗した場合のリスクもほとんどない。

iPadは今月下旬に日本でも発売されるが、それを使って読む電子書籍が日本にはほとんどない。このまま放置すると、日本は音楽流通や映像流通のように欧米に大きく引き離され、中国にも抜かれるおそれが強い。しかし日本の業界の実態を知っている人ほど、ビジネスを始めようとしない。電子書籍は、これまで挫折に次ぐ挫折の連続だったからだ。その原因はいろいろあるが、大きくいって次の3つだろう:

1紙の本に匹敵する見やすい端末がない
2出版社がコンテンツを出さない
3流通ルートがない

このうち1は、iPadやKindle(秋には日本語版が出るようだ)で解決されるだろう。2は意外にそうでもなく、出版不況が深刻化する中で「座して死を待つより電子出版に活路を求めたい」という出版社は多い。角川歴彦氏のように著書を全文公開する経営者もいるし、Google Booksに4000点も提供した出版社もある。

たぶん一番むずかしいのは3で、これまでの電子出版がこけた最大の原因もこれだ。実は今でもそういうウェブサイトはあるが、ほとんど売れていない。ところがオタク系サイトは繁盛しており、並みの出版社よりもうかっている。携帯の読書サイトの大部分もオタクとマンガとエロで、これも高い収益を上げている。

<以上貼付け>

従来10%程度の印税で満足させられていた(!?)のですが、電子出版では中抜きを排除するので、本の単価X部数の70%位が身入りになるそうです。こんな話を聞くと、僕にかぎらずライター稼業は、電子出版に食指が伸びることでしょう。東販、日販などの取次会社(日本独自の業態)は全出版物の80%をも取次をしています。小売店である街の本屋さんは、返本がだいたい50%くらいあり、返本された本のリスクは出版社が負担しています。

つまり、取次会社は優越的地位の濫用に近いことをやっているといわれてもしょうがないでしょう。とはいえ、バリューチェーンの川上にいる著者、出版社も、川下にいる書店も、「それをいったらおしまいよ」ということで疑問に思っていても、なかなか言えなかったことなのです。



また、iPadは「出版のユニクロ」の出るチャンスのなかでは次のようなことが述べられています。

<以下貼付け>

アップルの発表したiPadは、さまざまな話題を呼んでいる。アマゾンのKindleがハードウェアもソフトウェアも英語版しかないのに対して、アップルは日本語ホームページも立ち上げて日本で売る姿勢を見せており、3月に発売されるときは日本語表示も入力も可能だ。しかし残念ながら、日本語の本を読むことはできない。書籍ソフト「iBooks」の日本語版がないからだ。日本で発売されるiPadは、iPhoneを4倍程度に拡大したものにすぎないのである。

iBooksを表示させたiPad。日本のアップルのサイトでは、iPadの情報はあっても、iBooksの情報はない。ただ、そのうちiBooksが出る可能性もある。今でもReaderboxというiPhone用の書籍ソフト(有料)があるので、青空文庫などの無償で配布される本は読める。問題はiPadで売れる本が出てくるかどうかだが、今のところその見通しはほとんどない。ある編集者によると「出版業界の状況は非常にきびしく、日販(大手の取次)が在庫を減らすため『総量規制』で中小の出版点数を絞っている。この状態で日販の頭越しに電子出版など開始したら、『おたくはiPadで売るから、うちで扱わなくてもいいでしょ』などと意地悪されるのを恐れて、電子出版に踏み切れない」という話もある。

この背景には、日本の特殊な書籍流通システムがある。書籍は委託販売で、小売店で売れ残ったら返品できる代わり、再販制度(価格カルテル)で定価が決められている。在庫リスクを負うのは、取次ではなく出版社だ。最近では返品率は50%近くに達し、返品の山に埋もれて倒産する中小出版社が続出している。また定価のうち出版社に支払われる割合は、大手出版社と中小では差が大きいと言われている。

このように問屋が価格をコントロールする定価販売システムでは、小売店にはリスクはないが、価格競争でもうけるリターンもない。これはユニクロ(ファーストリテイリング)の登場前の衣料品業界と似ている。ユニクロの柳井正社長は、このように「小売店を生かさぬよう殺さぬよう」利用するシステムでは成長できないと考え、製造直販に踏み切った。在庫リスクを取ることによって、利益も100%取るシステムを構築したのである。

<以上貼付け>

何冊か出版の企画を持っていますが、電子出版の可能性を試してみたいと思いますね。ついでに言うと、iPadと電子出版が重なる領域には山のようにビジネスチャンスが眠っています。ファーストムーバーになれば、いろいろ機会を先取りできます。つまり、起業として可能性がある領域があります。

先日友人からPh.Dの論文をもらったのですが、学位審査に通ってしまえば、結局査読した先生方数人とゼミの関係者10~20人くらいの読者しか得ることができず、出版という観点からPh.Dの論文はまったくワリにあわないとボヤいていました。なるほど同感です。

たとえば、博士論文をニッチな専門分野ごとにカテゴライズして電子出版で配布するのであれば、著者、読者ともにハッピー、かつ低コストで電子出版を行う事業者の運営コストをカバーできる可能性はあります。

ニッチながらも「三方良し」のビジネスのビークルはどうするのか?フォープロフィットでゆくのならば株式会社でしょう。あるいは、公益性を徹底重視し、創業者がIPOやM&Aによるイグジットをことさら狙わないのならば、近々できるだろう「社会事業法人」(税制優遇、無配当株式)という手もあるでしょう。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿