「現実的に感じていただければ、運転に不安があることを自覚した上での運転や飲酒運転、あおり運転、運転中の携帯電話の使用などの危険運転をしそうになった時、亡くなった2人を思い出し、思いとどまってくれるかもしれない。そうすれば、亡くならなくていい人が、亡くならずにすむかもしれない。そう思ったのです」
東京・池袋で90歳に近い高齢男性の乗用車が暴走し、横断歩道を自転車で渡っていた松永真菜さん(31)と長女莉子ちゃん(3)が死亡した事故で、真菜さんの夫が24日の記者会見で、二人の写真の公開に踏み切った理由をこう話した。
私は会見録画を聞いているうちに、不覚にも落涙した。会社員の夫は「最愛の妻と娘を突然失い、ただただ涙することしかできず絶望しています。寿命が尽きるまで一緒にいると信じていましたが、たった一瞬で未来が奪われました」とも話した。記者会見する精神状況でないにもかかわらず、それを押して記者の前に立ったのは、高齢者の運転手への警鐘と交通事故の撲滅を伝えたかったのだろう。
32歳の夫は「それぞれのご家庭で事情があることは重々承知しておりますが、少しでも運転に不安がある人は車を運転しないという選択肢を考えて欲しい。また、周囲の方々も本人に働きかけて欲しい。家族の中に運転に不安のある方がいるならば、いま一度家族内で考えて欲しい。それが世の中に広がれば、交通事故による犠牲者を減らせるかもしれない。そうすれば、妻と娘も少しは浮かばれるのではないかと思います」と強調し、「今回の事故をきっかけに、さまざまな議論がなされ、少しでも交通事故による犠牲者のいなくなる未来になって欲しいです」と結んだ。
記者の質問への答えだったと思うが、加害者の旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長(87)が事故直後に最初にとった行動が、息子に携帯電話で連絡したことに対して、真菜さんの夫は、なぜ最初に救急車を呼んでくれなかったのかと無念な気持ちを吐露し、「私の最愛の2人の命を奪ったという相応の罪を償って欲しいです」と話した。そして「(真菜さんは)人を恨むような性格ではありませんでした」と妻の気持ちを思い、飯塚氏への批判や怒りを抑えていた。この悲惨な状況下で、なかなかできる行動ではない。真菜さんの夫は立派な人格者だと思った。
一方、飯塚氏からは何らの謝罪声明がない。胸の骨を折り、入院中なのを考慮すれば、会見はできないと思うが、せめて謝罪声明は出せるだろう。真菜さんの夫に個人的に送っていれば、彼は記者会見で紹介するだろう。まだ謝罪を公にしていないのだろう。公表するのが筋ではないのだろうか。
インターネットでは、飯塚氏へのバッシングがすごい。人々の飯塚氏への反感の気持ちは十分に理解できるが、激情に任せてはいけない。ただ、未確認情報だが、飯塚氏が自宅電話番号を変更し、フェースブックのアカウントを削除、グーグルのストリートビューの自宅にモザイクにし、経済産業省サイトに掲載していた写真が削除されているという。
保身が強い官僚がおこなう手口だとは思うが、自らの身を守るのに汲々としている姿はいただけない。巷の人々から非常識な電話がかかってくるだろうが、その時は警察に連絡すればよいではないか。電話に出なければよいではないか。被害者の夫と比べて、あまりにも腹が据わっていない。この状況を冷静で客観的に見ることができない飯塚氏と家族の行動も世間の怒りに油を注いでいるようだ。
今回の悲惨きわまる交通事故から、われわれは高齢者の免許保有について、真剣に議論すべきだ。政府、警察、関係省庁が高齢者の明確な免許返納時期について、法改正をも視野に入れ、議論すべきだ。そして何よりも、私を含む65歳以上のドライバーが、冷静になって免許の自主返納時期を見極めることだ。この見極めは人間の本性にもかかわる問題で難しい側面があるが、返納時期を考えることだ。返納時期を見誤らないことだ。
この一連の議論や行動こそが、松永真菜さんと莉子ちゃんの供養になり、絶望の淵にある夫への慰めになるだろう。亡くなられたお二人の冥福を祈ります。合掌。
(写真)亡くなった松永真菜さんと莉子ちゃん。莉子ちゃんが好きだった公園で、今月6日に遊びに訪れた際に撮影されたという(遺族提供)
東京・池袋で90歳に近い高齢男性の乗用車が暴走し、横断歩道を自転車で渡っていた松永真菜さん(31)と長女莉子ちゃん(3)が死亡した事故で、真菜さんの夫が24日の記者会見で、二人の写真の公開に踏み切った理由をこう話した。
私は会見録画を聞いているうちに、不覚にも落涙した。会社員の夫は「最愛の妻と娘を突然失い、ただただ涙することしかできず絶望しています。寿命が尽きるまで一緒にいると信じていましたが、たった一瞬で未来が奪われました」とも話した。記者会見する精神状況でないにもかかわらず、それを押して記者の前に立ったのは、高齢者の運転手への警鐘と交通事故の撲滅を伝えたかったのだろう。
32歳の夫は「それぞれのご家庭で事情があることは重々承知しておりますが、少しでも運転に不安がある人は車を運転しないという選択肢を考えて欲しい。また、周囲の方々も本人に働きかけて欲しい。家族の中に運転に不安のある方がいるならば、いま一度家族内で考えて欲しい。それが世の中に広がれば、交通事故による犠牲者を減らせるかもしれない。そうすれば、妻と娘も少しは浮かばれるのではないかと思います」と強調し、「今回の事故をきっかけに、さまざまな議論がなされ、少しでも交通事故による犠牲者のいなくなる未来になって欲しいです」と結んだ。
記者の質問への答えだったと思うが、加害者の旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長(87)が事故直後に最初にとった行動が、息子に携帯電話で連絡したことに対して、真菜さんの夫は、なぜ最初に救急車を呼んでくれなかったのかと無念な気持ちを吐露し、「私の最愛の2人の命を奪ったという相応の罪を償って欲しいです」と話した。そして「(真菜さんは)人を恨むような性格ではありませんでした」と妻の気持ちを思い、飯塚氏への批判や怒りを抑えていた。この悲惨な状況下で、なかなかできる行動ではない。真菜さんの夫は立派な人格者だと思った。
一方、飯塚氏からは何らの謝罪声明がない。胸の骨を折り、入院中なのを考慮すれば、会見はできないと思うが、せめて謝罪声明は出せるだろう。真菜さんの夫に個人的に送っていれば、彼は記者会見で紹介するだろう。まだ謝罪を公にしていないのだろう。公表するのが筋ではないのだろうか。
インターネットでは、飯塚氏へのバッシングがすごい。人々の飯塚氏への反感の気持ちは十分に理解できるが、激情に任せてはいけない。ただ、未確認情報だが、飯塚氏が自宅電話番号を変更し、フェースブックのアカウントを削除、グーグルのストリートビューの自宅にモザイクにし、経済産業省サイトに掲載していた写真が削除されているという。
保身が強い官僚がおこなう手口だとは思うが、自らの身を守るのに汲々としている姿はいただけない。巷の人々から非常識な電話がかかってくるだろうが、その時は警察に連絡すればよいではないか。電話に出なければよいではないか。被害者の夫と比べて、あまりにも腹が据わっていない。この状況を冷静で客観的に見ることができない飯塚氏と家族の行動も世間の怒りに油を注いでいるようだ。
今回の悲惨きわまる交通事故から、われわれは高齢者の免許保有について、真剣に議論すべきだ。政府、警察、関係省庁が高齢者の明確な免許返納時期について、法改正をも視野に入れ、議論すべきだ。そして何よりも、私を含む65歳以上のドライバーが、冷静になって免許の自主返納時期を見極めることだ。この見極めは人間の本性にもかかわる問題で難しい側面があるが、返納時期を考えることだ。返納時期を見誤らないことだ。
この一連の議論や行動こそが、松永真菜さんと莉子ちゃんの供養になり、絶望の淵にある夫への慰めになるだろう。亡くなられたお二人の冥福を祈ります。合掌。
(写真)亡くなった松永真菜さんと莉子ちゃん。莉子ちゃんが好きだった公園で、今月6日に遊びに訪れた際に撮影されたという(遺族提供)