防衛省が海上自衛隊の潜水艦を南シナ海に極秘派遣して護衛艦部隊と合流させ、対潜水観戦を想定した訓練を実施したことが分かった。中国が軍事拠点化を進める南シナ海に潜水艦を初めて派遣し、同海域への関わり合いに一歩踏み込んだと断言してもよい(朝日新聞を読んで)。一方、英海軍は南シナ海のパラセル諸島(西沙諸島)周辺海域に揚陸艦「アルビオン」を派遣し、「航行の自由作戦」を実施した。その後、ベトナムのホーチミンに寄港した。
英国と日本の軍用艦派遣を目の当たりにしたとき、日本の安倍政権の単刀直入な行動と英国の計算ずくの意図を感じた。安倍政権の潜水艦派遣は公海の「航行の自由」をアピールし、中国を牽制する狙いがあるのは誰が考えてもわかる。しかし日中の歴史的な観点、中国人の対日感情を考慮すれば、この直接行動は日本に何らかの利益を与えるどころか、不利益だけを与えるに過ぎない。今も太平洋戦争前夜も日本人は正直で正攻法である。
これに対して英国政府の南シナ海への揚陸艦派遣は巧みだ。かつて英国は「7つの海」を支配し、大国が繁栄する上で海洋覇権が重要なことを知り尽くしている。南シナ海の島々の地政学的な重要性を十分認識している。だから、中国との関係が悪化することを知りつつも航行の自由作戦を実施した。それでは、英国から遠く離れた問題に深入りする危険を冒してまでして軍艦を派遣したのはなぜか?
中国が強硬な対外拡張路線を突っ走ることによって対米貿易関係がますます悪化し、それが世界経済に甚大な悪影響を及ぼすことを恐れたからだ。それは英国にとって無関心ではいられない出来事である。米国と中国との真っ向からの対決を避けるには、中国に対外膨張政策を思い止まらせる必要があると考え、リスクを恐れず行動したとみる。
英政府は、中国が経済大国になったからといっても19世紀の大英帝国や1930年代後半以降の米国ほどの絶対的な世界支配力を有してはいないことを知らせたかったのだろう。
大英帝国は力ずくで世界を制したのではない。南アフリカのケープタウンやスエズ運河など世界の要衝のみを奪い、不必要な紛争を避け、世界情勢を深く読み解き、巧みな舵さばきによって世界を制した。
英国は「一帯一路」政策にみられる習近平政権の強引な東南アジア、西南アジア、アフリカへの拡張路線を考察し、老婆心から、「身の程をわきまえないと大けがをしますよ」というメッセージを発したということだ。英国は中国にやんわりとパンチ浴びせ、東南アジアの平和的均衡と世界経済の破滅的な状況を回避しようと努力している。中国も英国のしたたかな戦略を無視はできまい。
これに対して日本が英国と同じ行動をすることが日本の国益にかなうのか。違う。中国人は1894-5年の日清戦争以来、日本に対して警戒の念を緩めたことはない。中国人は韓民族を軽く見ている節があるが、日本人を敵視と畏敬の念で見てきた。日本人に対しては「恐れ」を抱いている。
周近平のブレーンである劉明福将軍は「日本は米国の覇権維持の片棒を担いでいるどころか、中国を敵視して再びアジアの覇権を握ろうと画策している」と記している。それが、日本人は彼の恐れを一笑に付すかもしれないが、中国首脳部がそう考えていることを銘記しなければならない。彼らの本心は日本への畏敬である。
2016年6月下旬に中国の程永華駐日大使は日本政府に、南シナ海で米国が実施する「自由航行作戦」に海上自衛隊が派遣されれば「中国の譲れぬ一線を日本が越えたことになる」と警告したという。
この警告は中国海軍が米国海軍や海上自衛隊よりも弱いと言っていると見て取れる。中国は現在、世界の海を支配できるほど卓越した力を有しているわけではない。艦船をたくさん作るだろうが、海軍の伝統がない。とりわけ海軍技術や操船技術において日米英に劣る。この3国は海軍国であり、中国は伝統的な陸軍国だ。
この見方は南シナ海問題に直接関連する。中国はベトナム、フィリピン、マレーシアと紛争してまでも海軍力を向上させようと南シナ海の軍事化を進めている。この3国は対中貿易でかなりの赤字だ。中国との貿易を喜んでいない。そしてこの3国は中国と南シナ海の岩礁領有権で争っている。
日本はどうすべきなのか。米国のアジアへの影響力に陰りが見え始めた中で、日本は南シナ海の問題にどのように立ち向かえばよいのか。日本も自衛艦を送って航行の自由作戦を行うべきであろうか。それは逆効果だ。日本は英国とは立場が異なる。日本が航行の自由作戦を行えば間違いなく事態を悪化させる。中国の良識派は英国の行動には耳を傾けるが、日本に対しては良識派といえども反発する。
日本が行うべきなのは、中国を直接的に追い詰めたり刺激したりすることではない。最もよい対応は、南シナ海に面する3国との経済的な関係を深めることだ。この3国は中国に抵抗したいのだが、経済的な関係が深いために、なかなか強いことが言えない。もちろん国力も違う。だが、日本が投資額を増やし、かつ交易量を増やすことで、この3国の対中貿易赤字は改善される。
3国の中でも、ベトナムとの友好関係を促進し、交易量を増やすことは大切だ。ベトナムが中国との交易で279億ドルもの赤字を計上している。なによりも、フィリピンと違って、ベトナムが対中政策において日本を裏切ることはない。ベトナムはその長い長い歴史において何度も中国と戦い、ベトナム人は骨の髄から中国を嫌っている。一方、中国も、小国ながら何度戦っても完全に打ち負かすことができないベトナムを苦手にしている。ベトナムが米国と戦ったのは15年に過ぎないが、中国との戦いは紀元前から今日まで断続的に続いている。
日本とベトナムの経済関係を強化し、マレーシアやシンガポール、豪州、ニュージーランド、インドと連携することが中国の膨張政策に対して最も有効な対応策になると信じる。戦国の知将、黒田官兵衛や竹中半兵衛が城攻めで城を落とすのではなく、城を包囲して兵糧攻めすることに似ている。
中国のアキレス腱は中国共産党の一党独裁と民族紛争だ。間もなく、日本同様、少子高齢化社会に突入する。日本は長期的な展望を描き、中国を刺激せずに、中国を自重させる手段を用いて、アジアの平和を維持する努力をすべきだ。どんなときも我慢してはならない。我慢はいつかは、太平洋戦争の指導者のように爆発する。目的達成への、理想へ向けての飽くなき忍耐が必要だ。短慮は禁物。そうすれば展望は開けていく。
英国と日本の軍用艦派遣を目の当たりにしたとき、日本の安倍政権の単刀直入な行動と英国の計算ずくの意図を感じた。安倍政権の潜水艦派遣は公海の「航行の自由」をアピールし、中国を牽制する狙いがあるのは誰が考えてもわかる。しかし日中の歴史的な観点、中国人の対日感情を考慮すれば、この直接行動は日本に何らかの利益を与えるどころか、不利益だけを与えるに過ぎない。今も太平洋戦争前夜も日本人は正直で正攻法である。
これに対して英国政府の南シナ海への揚陸艦派遣は巧みだ。かつて英国は「7つの海」を支配し、大国が繁栄する上で海洋覇権が重要なことを知り尽くしている。南シナ海の島々の地政学的な重要性を十分認識している。だから、中国との関係が悪化することを知りつつも航行の自由作戦を実施した。それでは、英国から遠く離れた問題に深入りする危険を冒してまでして軍艦を派遣したのはなぜか?
中国が強硬な対外拡張路線を突っ走ることによって対米貿易関係がますます悪化し、それが世界経済に甚大な悪影響を及ぼすことを恐れたからだ。それは英国にとって無関心ではいられない出来事である。米国と中国との真っ向からの対決を避けるには、中国に対外膨張政策を思い止まらせる必要があると考え、リスクを恐れず行動したとみる。
英政府は、中国が経済大国になったからといっても19世紀の大英帝国や1930年代後半以降の米国ほどの絶対的な世界支配力を有してはいないことを知らせたかったのだろう。
大英帝国は力ずくで世界を制したのではない。南アフリカのケープタウンやスエズ運河など世界の要衝のみを奪い、不必要な紛争を避け、世界情勢を深く読み解き、巧みな舵さばきによって世界を制した。
英国は「一帯一路」政策にみられる習近平政権の強引な東南アジア、西南アジア、アフリカへの拡張路線を考察し、老婆心から、「身の程をわきまえないと大けがをしますよ」というメッセージを発したということだ。英国は中国にやんわりとパンチ浴びせ、東南アジアの平和的均衡と世界経済の破滅的な状況を回避しようと努力している。中国も英国のしたたかな戦略を無視はできまい。
これに対して日本が英国と同じ行動をすることが日本の国益にかなうのか。違う。中国人は1894-5年の日清戦争以来、日本に対して警戒の念を緩めたことはない。中国人は韓民族を軽く見ている節があるが、日本人を敵視と畏敬の念で見てきた。日本人に対しては「恐れ」を抱いている。
周近平のブレーンである劉明福将軍は「日本は米国の覇権維持の片棒を担いでいるどころか、中国を敵視して再びアジアの覇権を握ろうと画策している」と記している。それが、日本人は彼の恐れを一笑に付すかもしれないが、中国首脳部がそう考えていることを銘記しなければならない。彼らの本心は日本への畏敬である。
2016年6月下旬に中国の程永華駐日大使は日本政府に、南シナ海で米国が実施する「自由航行作戦」に海上自衛隊が派遣されれば「中国の譲れぬ一線を日本が越えたことになる」と警告したという。
この警告は中国海軍が米国海軍や海上自衛隊よりも弱いと言っていると見て取れる。中国は現在、世界の海を支配できるほど卓越した力を有しているわけではない。艦船をたくさん作るだろうが、海軍の伝統がない。とりわけ海軍技術や操船技術において日米英に劣る。この3国は海軍国であり、中国は伝統的な陸軍国だ。
この見方は南シナ海問題に直接関連する。中国はベトナム、フィリピン、マレーシアと紛争してまでも海軍力を向上させようと南シナ海の軍事化を進めている。この3国は対中貿易でかなりの赤字だ。中国との貿易を喜んでいない。そしてこの3国は中国と南シナ海の岩礁領有権で争っている。
日本はどうすべきなのか。米国のアジアへの影響力に陰りが見え始めた中で、日本は南シナ海の問題にどのように立ち向かえばよいのか。日本も自衛艦を送って航行の自由作戦を行うべきであろうか。それは逆効果だ。日本は英国とは立場が異なる。日本が航行の自由作戦を行えば間違いなく事態を悪化させる。中国の良識派は英国の行動には耳を傾けるが、日本に対しては良識派といえども反発する。
日本が行うべきなのは、中国を直接的に追い詰めたり刺激したりすることではない。最もよい対応は、南シナ海に面する3国との経済的な関係を深めることだ。この3国は中国に抵抗したいのだが、経済的な関係が深いために、なかなか強いことが言えない。もちろん国力も違う。だが、日本が投資額を増やし、かつ交易量を増やすことで、この3国の対中貿易赤字は改善される。
3国の中でも、ベトナムとの友好関係を促進し、交易量を増やすことは大切だ。ベトナムが中国との交易で279億ドルもの赤字を計上している。なによりも、フィリピンと違って、ベトナムが対中政策において日本を裏切ることはない。ベトナムはその長い長い歴史において何度も中国と戦い、ベトナム人は骨の髄から中国を嫌っている。一方、中国も、小国ながら何度戦っても完全に打ち負かすことができないベトナムを苦手にしている。ベトナムが米国と戦ったのは15年に過ぎないが、中国との戦いは紀元前から今日まで断続的に続いている。
日本とベトナムの経済関係を強化し、マレーシアやシンガポール、豪州、ニュージーランド、インドと連携することが中国の膨張政策に対して最も有効な対応策になると信じる。戦国の知将、黒田官兵衛や竹中半兵衛が城攻めで城を落とすのではなく、城を包囲して兵糧攻めすることに似ている。
中国のアキレス腱は中国共産党の一党独裁と民族紛争だ。間もなく、日本同様、少子高齢化社会に突入する。日本は長期的な展望を描き、中国を刺激せずに、中国を自重させる手段を用いて、アジアの平和を維持する努力をすべきだ。どんなときも我慢してはならない。我慢はいつかは、太平洋戦争の指導者のように爆発する。目的達成への、理想へ向けての飽くなき忍耐が必要だ。短慮は禁物。そうすれば展望は開けていく。