藤野千夜著『じい散歩 妻の反乱』(2023年10月21日双葉社発行)を読んだ。
双葉社による内容紹介
多くのメディアで紹介されて注目を浴びた『じい散歩』、待望の続編! 前作からさらに歳を重ね、夫婦あわせて180歳を超えた新平と英子。3人の独身中年息子たちは相変わらずで、自宅介護が必要になった母親の面倒を見る気配もない。まさに老老介護が始まった新平の束の間の息抜きは、趣味の散歩や食べ歩きだが、留守番している妻への土産も忘れない。果たして、老夫婦の道のりは? そして、妻の「反乱」とは? 身につまされながらもどこか可笑しい、明石家のその後を描いた家族小説。
前作『じい散歩』では夫の明石新平89歳、妻・英子88歳で認知症の兆候。3人の息子は皆独身で、高校以来の引きこもりの長男・孝史52歳、次男のはずがいつの間にか長女になっていた40代の健二、事業の赤字を抱えつねに親にたかる借金王の三男・雄三。
本書では新平は相変わらず健康だが93歳。英子は介護が必要で、すべて新平が面倒を見ている。なのに、引きこもりの孝史は手を貸さず、次男の健二は小うるさいばかりで役に立たないし、雄三は事あるたびに金をむしろうとする。
新平は毎朝、妻の介護ベッドを起こし、一日1,2回の胃瘻をし、車椅子に座らせて居間に連れて行き、TVを見て、話をし、トイレに連れて行って世話をする。おやつも食事も口に運んでやり、歯も磨く。手が空くとにに二階の健康器具で運動をし、自分で建てたアパートに一室の事務所の整理をし、時間を見つけては電車に乗って外出、散歩する。江古田浅間神社の富士塚、雑司ヶ谷霊園、練馬の造園カフェなどなど。
ところが新平は妻の介護も、息子たちの先行きも、後悔しても仕方ないし意味もないと割り切る。訪問看護師などを利用し、妻と自分の最期の始末を自分でしっかり段取りして、その後息子がどうなろうがそれは彼らの責任と潔い。マイペースで自分勝手に気楽に生活を楽しむ。
初出:「小説推理」2022年5月号~2023年8月号
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
新平は前作の89歳から93歳となり、衰えがあるとはいえ、一人で出かけるほど元気、矍鑠(かくしゃく)としていて、細かいことにはこだわらず、文字通りの老々介護なのに気楽な生き方をしているのは、読んでいて心地よい。
特に何が起こると言うわけでもないし、息子たちも含めてキャラは立っているのだが、退屈気味。
14話のタイトルが「妻の〇〇」で統一されているが、認知症であるから当然なのだが、登場シーンは少ない。本のサブタイトルが「妻の反乱」であるが、何か反乱なのか私には不明。
藤野 千夜(ふじの・ちや)
1962年福岡県北九州市生まれ。麻布中学校・高等学校、千葉大学教育学部卒業。
漫画雑誌の編集者を経て、
1995年「午後の時間割」で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。
1996年『少年と少女のポルカ』で野間文芸新人賞候補
1998年『おしゃべり怪談』で野間文芸新人賞受賞
1999年「恋の休日」で芥川賞候補
2000年「夏の約束」で芥川賞受賞(同性愛者のカップルを中心に現代の若者風俗をえがいた)
2006年『ルート225』が映画化
その他、『中等部超能力戦争』『時穴みみか』『D菩薩峠漫研夏合宿』『編集どもあつまれ!』『君のいた日々』『編集どもあつまれ!』『団地のふたり』『じい散歩』
スカートをはいて会社に行き、首になった実績があり、女性として生活。