伊坂幸太郎著『死神の浮力』(文春文庫い70-2、2016年7月10日文藝春秋発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
娘を殺された山野辺夫妻は、逮捕されながら無罪判決を受けた犯人の本城への復讐を計画していた。そこへ人間の死の可否を判定する“死神”の千葉がやってきた。千葉は夫妻と共に本城を追うが――。展開の読めないエンターテインメントでありながら、死に対峙した人間の弱さと強さを浮き彫りにする傑作長編。 解説・円堂都司昭
著者の連作短編集、死神・千葉が主人公のベストセラー『死神の精度』の続編で、長編だ。ただし、物語は独立しているので必ずしも前著を読んでいなくても問題ない。
死神:担当した人間を1週間調査し、彼・彼女の死の判定を下す。「可」となると、翌8日目に死が訪れる。今回の対象者は、被害者とも言える山野辺遼。
音楽好きでCDショップや音楽喫茶で死神が鉢合わせする。
サイコパス:良心を気にしない脳みそをもっている。25人に1人はいるとされる。一見普通の人間で、成功者であることも多い。良心がないから無敵で『できないことがない』とも言える。
情報部:死神に担当する人物の情報を与える。ミスで人間を多く死なせすぎたので、調整しようと、寿命を20年延ばす『返還キャンペーン』中で、通常「可」なのに、千葉に「無理に可にしなくてもいいぞ」と言ったりする。
千葉:死神。眠る必要がなく、何百年も生きているので、江戸時代のことも昨日のように話す。クールで、とぼけた、ずれた会話をするが、仕事は誠実一筋。雨男。常人には聞こえない小さな声が聞こえ、遠くが見えたり、痛みも感じない。素手で人に触ると失神させてしまう。
山野辺遼:人気作家だったが、3年間新作を発表していない。1年前、殺人事件で10歳の娘の菜摘を失った。パスカルの言葉、例えば「敬意とは、面倒くさいことをしなさい、という意味である」などをしばしば口走る。
山野辺美樹:遼の妻。
本城崇:十代の頃に火事で両親をなくし、その遺産で暮らす無職の青年。している。山野辺菜摘の犯人として逮捕されたが、無罪判決を受けた。
香川:死神。女性。対象者は本城崇。
箕輪:遼のデビュー当時の担当編集者で、現在は週刊誌記者。
轟:盗撮常習犯の引き籠り
本書の解説が、「本の話WEBの円堂 都司昭」にある。
初出:2013年7月文藝春秋刊行
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
前作『死神の精度』は、「私としては五つ星だが、癖が強いので、一般的には強くお勧めできないので四つ星に。」との評価だったが、今回は普通の四つ星。
相変わらずの死神・千葉のまじめで、とぼけぶりには笑えるし、勧善懲悪がなるか、ならぬかにはハラハラさせられ、一気に読んでしまう。しかし、それ以上の何かがあるわけではない。サイコパスの凄みもいま一つ。
「(山野辺の)初期の作品が面白いみたいですね」と言った人に、千葉が「晩年も悪くなかった」というラストに救われる。このあたりは伊坂流。
内容はPrologue、Day 1~Day 7、Epilogueに分かれているのに、目次は一つで目次の意味がない。
私も、いつも傍にいる幼い息子を遠くから見つめたとき、こう感じたことを思い出した。
・・・子供を、子供の気づかぬところから眺めるのは、少し奇妙な感覚だった。自分とは別の時間を生き、彼女は彼女なりに現実社会と向き合っていると分かり、頼もしさと心許なさを覚える。