アンソニー・ホロヴィッツ著、山田蘭訳『メインテーマは殺人』(創元推理文庫Mホ15-3、2019年9月27日東京創元社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
自らの葬儀の手配をしたまさにその日、資産家の老婦人は絞殺された。彼女は、自分が殺されると知っていたのか? 作家のわたし、ホロヴィッツはドラマの脚本執筆で知りあった元刑事ホーソーンから、この奇妙な事件を捜査する自分を本にしないかと誘われる……。自らをワトスン役に配した、謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ! 7冠制覇の『カササギ殺人事件』に匹敵する傑作!
原題は、“THE WORD IS MURDER”。
物語の語り手は作者ホロヴィッツ自身。児童向け小説で名を成し、忙しい映画脚本に追われる人気作家ホロヴィッツは、刑事ドラマのコンサルタントを務めていた元刑事でロンドン警視庁から捜査協力を委託されているホーソーンから「自分の捜査する事件を取材して本を書いてみないか」と誘われた。ホーソーンのホームズばりの見事な推理を見せられ、大人向けの小説への転換途中であることもあり、読者の女性からあなたは現実に即した話を書いていないと批判されたこともあって、結局同意してしまう。
ちょうどそのとき、資産家で一人住まいの老婦人・ダイアナ・クーパーがコーンウォリスの葬儀社を訪れ、自らの葬儀を手配したその晩に殺される事件が起きる。
気難しく傍若無人で天才的推理力のホームズ役のホーソーンと手を組んで捜査を始めたワトソン役のホロヴィッツは、苛立たしいことが多く、コンビ解消と何回も思いながら、捜査に引き込まれていく。
本を書くためには探偵役のホーソーンの人物像に迫る必要があるのだが、ホーソーンは「おれはそうは思わんね。主題(メインテーマ)となるのは殺人だ」と、自身の抱える秘密を語らず、終始謎めいた存在でありつづける。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
実際の著者自身がワトソン役で探偵に引っ張りまわされ、ぼやきながら本を書くために捜査を記録するという構成は面白い。
しかし、実在の映画名や、俳優・監督名、本の題名がずらずら出て来たり、スピルバーグによる著者の脚本の映画化の話が数ページにわたり続いたり、虚実が不明で、わずらわしい。
登場人物があまりに多く、しかも登場人物の多くはかなり身勝手なので、誰でも犯人になりうると思ってしまう。謎解き後も納得感は十分でない。
アンソニー・ホロヴィッツ Anthony Horowitz
イギリスを代表する作家。ヤングアダルト作品〈女王陛下の少年スパイ! アレックス〉シリーズがベストセラーに。また、人気テレビドラマ『刑事フォイル』の脚本などを手掛ける。
アガサ・クリスティのオマージュ作品『カササギ殺人事件』では史上初の7冠を達成。
ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ『メインテーマは殺人』、『その裁きは死』。
コナン・ドイル財団公認のシャーロック・ホームズ・シリーズ『シャーロック・ホームズ 絹の家』、『モリアーティ』
他、『007 逆襲のトリガー』
山田蘭(やまだ・らん)
英米文学翻訳家。
訳書に、ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』、ギャリコ『トマシーナ』、ベイヤード『陸軍士官学校の死』、キップリング『ジャングル・ブック』など。
ダイアナ・クーパー:資産家の老婦人。猫のティブス氏と暮らす。
ダミアン・クーパー:有名な俳優。ダイアナの息子。
グレース・ラヴェル:ダミアンの恋人。娘はアシュリー、父はマーティン。
アンドレア・クルヴァネク:ダイアナの家へ通う掃除婦。ダイアナの死体発見者。
レイモンド・クルーンズ:劇場プロデューサー
ジェレミー&ティモシー・ゴドウィン:交通事故に遭った双子。父はアラン、母はジュディス。乳母はメアリー。
チャーリー・メドウズ:警部。ジャック