hiyamizu's blog

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ドナ・タート『ひそやかな復讐』を読む

2016年05月20日 | 読書2

 

 

ドナ・タート Donna Tartt著、岡真知子訳『ひそやかな復讐(上)(下) THE LITTLE FRIEND』(扶桑社ミステリー、2007年5月30日発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

みんなから愛されていた少年ロビンが変わり果てた姿で発見されたのは、ある母の日のことだ。家族が目を離したわずかな隙に、木の枝から首をくくられ、ぶら下げられていたのだ…それから12年。ロビンの死はいまもなお暗い影を落とし、家族は徐々に崩壊への道を歩んでいた。事件当時、まだ赤ん坊だった末妹ハリエットは、頭の切れる少女に成長し、自分たちの不幸の原因へ目を向けた。すなわち、ロビンの死の真実を探り、犯人に裁きを下すのだ。こうして、ハリエットの危険な夏がはじまった―。

 

 物語の舞台は、ミシシッピー州の架空の町アレクサンドリア。主人公は12歳のハリエット・グリーヴ・デュフレーヌ。早熟、大胆不敵、才気煥発で、母親、祖母、大人にたてつき、罰を受けても意に介さない。おっちょこちょいの子分ヒーリーを伴い、とんでもない冒険に挑戦する。
 12歳の少女の自転車を駆った子供時代の最後の夏の、南部の匂いたっぷりの冒険譚。


 ハリエットが赤ん坊だった9年前、9歳の兄のロビンが木の枝に吊り下げられ殺され、母は廃人のようになり、父親は家を出て別居し、姉は内向して閉じこもり、大おばたちは何かにつけてロビンを懐かしむ。

12歳になった彼女は犯人探しに立ちあがり、奮闘が開始される。

没落した名家デュフレーヌ家、根にあるどうしようもない黒人差別、逆に黒人軽蔑される貧乏白人(レッドネック)が集う玉突き場、狂信的な伝道者、いかにも、70年代のアメリカ深南部といった光景が描かれる。

ハリエットが批判的に見た母親、大おば達の心の動き、彼女が慕う祖母イーディスとの行き違い、母とも言える黒人家政婦アイダ・ルーの哀しみ。トレーラーハウスに住む麻薬がらみのレッドネックの悪人一家も個性的で、グロテスクで不完全な人物造形も面白く、読ませる。

 南部と言えばM・ミッチェルも約10年かけて『風と共に去りぬ』を出した。一方『アラバマ物語』のH・リーは燃え尽きて隠遁作家に。南部という素材はそれほど手強い!?米国版女手の新・南部小説。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

ミステリーとして読むと、冗長過ぎるし、結論もぱっとしない。しかし、頭脳明快、感受性豊かで、強気、活発で、滅茶苦茶突貫する女の子が魅力的で、子どもから見た大人たちの矛盾もはっきりと描かれている。ディープな南部の情景、色濃い雰囲気の中で、周辺の個性的な人たちも巧みに描かれている。

上下合わせて文庫本1200ページと、確かに長すぎる。記述が詳細過ぎる箇所が多く、本筋に関係ない脱線も多い。しかし、それでも、文章は明快で解りやすく、話も面白いので、どんどん読み進めてしまう。

 

 

ドナ・タート Donna Tartt
1963年、ミシシッピー州生まれ。ミシシッピー大学在学中に才能を見いだされ、92年に発表した『シークレット・ヒストリー』で全世界にセンセーションを巻き起こした。その後、10年の沈黙を経て、第2作である本書『ひそやかな復讐』を発表した。 

タートはこの執筆期間について訊ねられると、「駄作を十冊書くよりも、傑作を一冊書きたいから」と答えたという。

さらにその後、11年ぶりの大作『黄金の足枷(仮題)』(原題「The Gold Finch」)が、2014年ピューリッツァー賞(フィクション部門)を受賞した。(河出書房新社より発売予定)

岡真知子
神戸大学文学部英米文学科卒業。

主な訳書、フォークス『シャーロット・グレイ』、ロゴウ『降霊会殺人事件』、ホフマン『七番目の天国』他

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