金原ひとみ『アタラクシア』(2019年5月30日集英社発行)を読んだ
秀英社の宣伝は以下。
望んで結婚したのに、どうしてこんなに苦しいのだろう——。
最も幸せな瞬間を、夫とは別の男と過ごしている翻訳者の由依。
恋人の夫の存在を意識しながら、彼女と会い続けているシェフの瑛人。
浮気で帰らない夫に、文句ばかりの母親に、反抗的な息子に、限界まで苛立っているパティシエの英美。
妻に強く惹かれながら、何をしたら彼女が幸せになるのかずっと分からない作家の桂……。
「私はモラルから引き起こされる愛情なんて欲しくない」
「男はじたばた浮気するけど、女は息するように浮気するだろ」
「誰かに猛烈に愛されたい。殺されるくらい愛されたい」
ままならない結婚生活に救いを求めてもがく男女を、圧倒的な熱量で描き切る。
芥川賞から15年。金原ひとみの新たなる代表作、誕生。
表題のアタラクシアとは、古代ギリシアの哲学者のエピクロスによる「心の平穏」の意味。
「由依(ゆい)」、「桂(けい)」、「真奈美」、「枝里」、「瑛人(えいと)」、「由依」、「英美」、「真奈美」、「桂」と各章ごとに話題の中心人物が変わる。全体的には由依が主人公。
水島由依:フランスでモデル後、現在翻訳者・ライター。旧姓高梨。夫・桂がいながら瑛人と不倫している。
水島桂:問題を起こし売れなくなった作家。由依の夫。非モテ系。「由依には実体がない」という。
蓜島瑛人(はいじま):フランス帰りのシェフ。由依と不倫している。
藤岡英美:瑛人の店のパティシエ。浮気で帰らない夫・拓馬、文句ばかりの母親、反抗的な息子・信吾。
佐倉真奈美:出版社で15年編集職。元有名バンドマンで現在暴力夫の俊輔と息子・絢斗(けんと)と暮らす。荒木と不倫。
荒木裕司:出版社の編集から4年前に広報へ異動。カッコ良いが浮気性で真奈美と不倫。
枝里:由依の妹。出会い系で遊ぶ20歳。ホストのヒロムに夢中。
NOPE:英語のNOのスラング
初出:「すばる」2018年10月号~2019年1月号
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
数人の男女に恋愛模様が描かれるのだが、不倫、浮気が多く、虚無的な人物もいて、どうもなじめない。「汗水たらして夢中になるのは恥ずかしいこと」のような厭世的、虚無的なトーンが全体に流れていて、「お若いの、いまからそれでどうするの」と言いたい。
ところどころ急に難しい話が飛び出してくる。
「…人間が内包する偶然性の中で、そもそも人類が誕生したのだって偶然性によるもので、その偶然性の集大成が今のアクチュアルな必然性を形作っていて、その必然性には誰しもが……」と、桂は由依に語る。こんな会話をする夫婦って、どうなのよ。
金原ひとみ(かねはら・ひとみ)
1983年、東京生まれ。
2003年、『蛇にピアス』ですばる文学賞受賞
2004年、同作で芥川賞受賞し、各国で翻訳出版
2010年、『TRIP TRAP』で織田作之助賞受賞
2012年、パリに移住、『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞
2018年、帰国
翻訳家の金原瑞人が、娘の金原ひとみが芥川賞を受賞したとき、「私は200冊近い本を出したが、(引きこもりだった)娘は一冊目でその部数を上回ってしまった。」というような趣旨の話を嬉しそうにしていた。