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hiyamizu's blog

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立山良司『イスラエルを知るための60章』を読む

2012年09月19日 | 読書2
立山良司編著『イスラエルを知るための60章』エリア・スタディーズ104、2012年7月明石書店発行、を読んだ。

私の最も嫌いな国はイスラエルとアメリカだ。嫌いなものについてはよく知る必要があると、前回アメリカについで、今回イスラエルの歴史、文化、生活を紹介する本を読んでみた。

歴史、政治、経済、軍事の話はもちろん、ユダヤ教徒の実際の生活、世界各地からの移民の影響、教育事情、ハイテク・医療など先端産業、文化などを紹介し、その複雑な全体像を描こうとしている。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

政治の話は腹が立ってイライラして、生活の話は興味深く読んだ。最先端の技術を誇る一方で不合理そのものの戒律が支配している社会に驚く。

ユダヤ教の戒律はとんでもない事が多く、ご同情申し上げたい。しかし、イスラム教やキリスト教のいくつかの教派に似通っている面があり、あらためて3つの宗敎は親戚だなと思った。

イスラエルでは、多くの人々が享楽的になっているのかと思っていたが、宗敎勢力がますます権力を持って宗教色を強化し、右傾化していく現状に絶望的になった。

シオニズムの目標は「シオニズムはパレスチナの地に、公的に認められ、法的に保障されたユダヤ人にためのホームグランドの創設を追求する」だそうだ。シオニスト達は、今のやり方で、「公的に認められ、法的に保障される」道が開かれると思っているのだろうか。
第57章の名前は「世界最大の刑務所ガザ」だ。



編著者
立山良司(たてやま・りょうじ)
防衛大学校総合安全保障研究科・国際関係学科教授。専門は中東現代政治。
著書、『イスラエルとパレスチナ』『エルサレム』『宗教世界地図』など



以下、私のメモ

ユダヤ人
イスラエルでのユダヤ人の法的定義:ユダヤ教を信じていて、母親がユダヤ人
(母系家族というところがユダヤらしい)

世界のユダヤ人(自分で認識している人)は、1342万人で、そのうちイスラエルに570万人(43%)、アメリカに528万人(39%)、フランス48万人(3.6%)、カナダ、英国、ロシアなど。
(アメリカに約半分いる。色々事情はあるだろうが、イスラエルに移住しない人が多い)

ユダヤ人男児は生後8日目にシナゴーク(ユダヤ教の教会堂)でブリット・ミラーと呼ばれる割礼を受ける。

宗敎
イスラエルの祝日はユダヤ暦に従うので、9月~10月にかけて新年となる。ローシュ・ハシャナ(元旦)の10日後は1年を懺悔するヨム・キムプール(贖罪の日)で、普段は宗教的生活とは無縁の人々も、その日は断食しながら、シナゴークへ行き聖書を読む。国民の60%が断食をし、40%がシナゴークへ行く。日本人が正月には神社へお参りするのと同じ。

正統派のラビによる結婚式しか法的に認められない。また、死者の清掃から墓穴を掘ることまでヘブラ・カディシャという宗教組織の権限である。ハレディーム(超正統派)が既得権限を保持している。なお、刺青はすべて剥ぎ取られてから埋葬される。

エルサレム旧市街の北西にあるメア・シャリームはハレディーム(超正統派)が集まって住む地域だ。男性は黒いスーツや帽子、あごひげやもみあげを伸ばす。女性は長袖、長いスカートに分厚いストッキング。既婚女性は髪を剃ったりカツラやショールで髪の毛を見せない。教義に基づき避妊しないため子供を10人生む女性も珍しくなく、人口が増大している。

イスラエル全体で、超正統派は8%、(キッパをかぶる宗敎派?、伝統派?)世俗派は42%。
エルサレムでは超正統派が29%、テルアビブでは世俗派が59%。

生活
18歳で徴兵があるが、アラブ系や、神学校のハレディーム(超正統派)などは免除される。近年約半数の若者は兵役の代わりに社会活動に奉仕する。

大半のレストランでは、カシュルートという戒律により、肉と乳製品を一緒に口にすることはできない。マックにもチーズバーガーはない。調理器具、流し台、食器を肉用と乳製品用で2つに分けている家庭も多い。
蹄(ひづめ)が分かれていて反芻するもの(牛や羊)を、規則にしたがって、血抜きした肉のみ食べて良い。ヒレやウロコのないエビや貝などの甲殻類は食べてはいけない。食べられる菓子や調味料など加工品には、カシュルート適合マークが付けられている。
しかし、イスラエルに住む限り、カシュルート不適合製品は少ないので自然に戒律に従うことになり大きな不便はないという。そう言えば、イスラム教徒が多いマレーシアでは肉売り場が2つに分かれていた。

金曜日の日の入りから土曜日の夕方まで(時間は毎週異なる)は安息日シャバットだ。公共交通は止まり、デパートなどは閉店する。家族や友人との団欒の時でもある。

米国
米国のユダヤ人は649万人で全人口の2.2%。議員の割合は7.3%。米国では福音派(エバンジェリカル)が力を伸ばしており(全米の30~35%)、その2/3を占める保守的キリスト教シオニスト達は、イスラエルの建国を聖書の予言の実現であり、イスラエルの勝利は神との契約が存在することの証であると信じている。

米国はイスラエルに対し、毎年2000から3000億ドルの軍事無償援助を行なっている。

今後
近年のイスラエル世論は右傾化し、和平への悲観的見方が強く、たとえパレスチナとの和平が仮に実現してもアラブ諸国との敵対関係が残ると考える人が多くなっている。

政府の優遇処置もあり入植は増加し続け、入植地は約150個所、約50万人になっている。最近ではイスラエル政府の許可無く土地を占拠する「アウトポスト」が増加し2千人にも達している。



以下は、明石書店HPの本書紹介より。

執筆者
池田明史(いけだ・あきふみ)
鴨志田聡子(かもしだ・さとこ)
武井彩佳(たけい・あやか)
立山良司(たてやま・りょうじ)
辻田俊哉(つじた・としや)
林真由美(はやし・まゆみ)
樋口義彦(ひぐち・よしひこ)
三上陽一(みかみ・よういち)
村橋靖之(むらはし・やすゆき)
屋山久美子(ややま・くみこ)

目次
はじめに
I イスラエルという国
第1章 一瞬も退屈のない国――波乱と緊張と多様性の中で
第2章 自然と気候――「肥沃な三日月地帯」の南端
 【コラム1】 世界のユダヤ人とイスラエル
II 歴史
第3章 シオニズム――ユダヤ人ナショナリズムの三つの流れ
 【コラム2】「近代シオニズムの父」ヘルツル
第4章 宗教共同体から民族共同体へ――ヨーロッパ近代がもたらした新たな潮流
第5章 パレスチナへの移民の波――ユダヤ人社会の誕生とアラブ系住民との軋轢
第6章 ホロコーストとシオニズム――悲劇をどう解釈するか
 【コラム3】アイヒマン裁判──陳腐ではなかった悪
第7章 イスラエル独立と第一次中東戦争――民族の悲願達成、戦いの歴史の始まり
 【コラム4】ダヴィッド・ベングリオン──イスラエル建国を実現
第8章 第三次中東戦争と「領土と平和の交換」原則――いまだ達せられない和平の枠組み
第9章 第四次中東戦争から現代まで――40年の変化は大きかったが
III イスラエル歳時記
第10章 夏に迎える新年――ユダヤの歴史に基づく年中行事
第11章 誕生から死まで――世俗的イスラエル人と通過儀礼
 【コラム5】メア・シャリーム
第12章 聖と俗の緊張関係――ユダヤ教とイスラエル社会
 【コラム6】労働禁止の安息日「シャバット」
第13章 産めよ育てよ――イスラエルの出産・子育て事情
第14章 教育重視社会――18歳で大きな転機
第15章 体外受精も保険でカバー――柔軟な医療・社会福祉制度
第16章 イスラエルのユダヤ料理――ユダヤ教の戒律と多様性
IV 多様な言語と社会
第17章 日常語になった現代ヘブライ語――手に入れた自分たちの言語
 【コラム7】イディッシュ語やラディノ語の「復活」
第18章 アシュケナジームとスファラディーム――移民とイスラエル社会
第19章 世界中のユダヤ人を受け入れるイスラエル――3分の1が国外出身
第20章 いろいろ話せて当たり前――多言語社会イスラエル
第21章 活発なメディア――SNS利用時間は世界一
第22章 ホロコースト生存者――高齢化と拡大する格差の陰で
第23章 時代とともに変化し続けるキブツ――自然と社会環境の豊かな生活
V 政治と安全保障
第24章 多党化と不安定な政権――百家争鳴の政党政治
第25章 右傾化するイスラエル――背景に人口構成の変化
 【コラム8】イツハク・ラビン──イスラエル建国からの“象徴”
第26章 「憲法」のない国――将来の憲法を構成する「基本法」を整備
第27章 政治と軍事――安全保障政策は誰が決定しているのか
第28章 国防軍(IDF)とイスラエル社会――「国民軍」から変わるのか
第29章 イスラエルの核戦略――曖昧政策と一方的抑止
第30章 兵器産業と武器輸出――最先端システムを支える柱
第31章 変化するイスラエルの脅威概念――「戦争を強いる」存在への変貌
第32章 情報機関――国家安全保障の根幹
第33章 モサド――失敗の系譜
第34章 軍事作戦と国際法――自衛権の行使か、過剰な軍事力の行使か
VI 経済発展の光と影
第35章 イスラエル経済の変遷――特異な発展モデル
第36章 二つの基幹産業――農業とダイヤモンド
 【コラム9】イスラエル産ワイン――ストレートで味わい深く
第37章 ITからナノテクまで――ハイテク国家の旺盛な起業精神
第38章 共存の夢は遠く――進むパレスチナとの経済分離
第39章 経済を取り巻く課題――国際協調と社会的不平等の是正に向けて
VII 文化・芸術・若者
第40章 イスラエル文学――ヘブライ語の再生・建国とともに
 【コラム10】村上春樹とエルサレム賞――「壁と卵」
第41章 クラシック音楽界――芸術音楽の限界と可能性
第42章 オリエント音楽からジャズまで――移民社会ゆえの多様な音階とリズム
 【コラム11】今あつい「ムズィカ・ミズラヒート」
第43章 元気なイスラエル映画――「芸術的なディベート文化」の結晶
第44章 ポスト・シオニズム論争――「新しい歴史家」が提起したもの
第45章 盛んなスポーツ――そこにも政治の影が
第46章 若者文化――サブカルチャーとバックパッカー
 【コラム12】二都物語――エルサレムとテルアビブ
VIII 外交
第47章 曲折の対外関係――最近は孤立傾向
第48章 米国のユダヤ人――政治的影響力の背景にも変化の兆し
 【コラム13】 キリスト教シオニズム
第49章 米国との「特別な関係」――活発に議論されてきた特別さ
第50章 米国政府の対イスラエル援助――大きな規模を維持
第51章 微妙なドイツとの関係――「殺人者の国」からパートナーへ
第52章 日本とイスラエル――高い関心、でも「遠い国」
IX 中東和平問題とイスラエル
第53章 オスロ和平プロセスとその破綻――行き詰まった和平プロセス
第54章 パレスチナ問題とイスラエル世論――2000年を境に大きく変化
第55章 宗教と政治の複雑な絡みあい――エルサレム問題とイスラエル
第56章 増え続ける入植者人口――パレスチナ人の反対をよそに
第57章 「世界最大の刑務所」ガザ――新たな変化の兆しも
第58章 アラブ系国民――2割を占めるマイノリティ
第59章 占領上の要衝ゴラン高原――シリアとの最前線
第60章 〈終章〉イスラエルはどこに向かうのか――「普通」と「特別」のはざまで
 イスラエルを知るための文献・情報ガイド


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