奥山景布子著『葵の残葉(ざんよう)』(文春文庫お63-2、2019年12月10日文藝春秋発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
兄弟の誰か一人でも欠けていれば、幕末の歴史は変わった――。石高わずか三万石の尾張高須の家に生まれた四兄弟は、縁ある家の養子となる。それぞれ尾張藩慶勝、会津藩容保、桑名藩定敬、そして慶勝の後を継いだ茂栄。幕末の激動期、官軍・幕府に別れて戦う運命に。埋もれた歴史を活写する傑作長篇小説!
新田次郎文学賞、本屋が選ぶ時代小説大賞受賞
巻頭にある家系図
徳川治紀(はるとし)水戸藩7代藩主
∟徳川斉昭(なりあき)水戸藩9代藩主 将軍継嗣争いで井伊直弼に敗れ永蟄居、そのまま死去
∟徳川慶篤
∟徳川慶喜(よしのぶ)一橋徳川家9代当主→15代将軍
∟規姫(のりひめ)徳川治紀(はるとし、水戸藩7代藩主)の五女
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松平義建(よしたつ)尾張徳川家の分家・高須藩10代藩主
∟徳川慶勝(よしかつ)尾張藩14代、17代藩主、松平慶恕(よしくみ)→義勝
∟徳川義宜(よしのり)尾張藩16代(最後の)藩主
∟徳川茂栄(もちはる)高須藩11代藩主→尾張藩15代藩主(徳川茂徳)→一橋徳川家10代当主
∟義端(よしまさ)高須12代藩主、3歳で夭折
∟松平容保(かたもり)会津藩9代藩主・京都守護職
∟松平定敬(さだあき)桑名藩藩主・京都所司代
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初姫
∟松平義勇(よしたけ)高須藩13代藩主
冒頭は明治11年に高須四兄弟(松平定敬、松平容保、徳川茂徳、慶勝)がそろって写真を撮るシーンで始まる。このとき撮影されたの写真が巻末に載っている。同じ写真は例えば、「ウィキペディアの徳川慶勝」の項にある。
タイトルの「葵の残葉」とは、4兄弟の父・松平義建が「余も、そなたたちも、…、まごうことない、葵も末葉だ」と語り、55歳になった義勝が「末葉というより。我らはさしずめ、残葉だ。」と呟いたことから。
幕末の政治は確かに大混乱だった。井伊直弼が争いに勝ち徳川慶福(家茂)を将軍とし、安政の大獄を起こし、桜田門外の変で暗殺された。もめた末公武合体が行われ、禁門の変で長州藩が朝敵になり、処罰がもめ、将軍慶喜が大政奉還し、……。
主人公ともいえる尾張藩主の徳川慶勝が、藩内も混乱し火種を抱えるなか、強大な外敵が迫る中、いかに内戦せずに長州征伐を収めるかなど苦心する。一方では、強硬派の会津藩主で京都守護職の弟・松平容保はまとまりかけた体制をぶち壊してしまう。桑名藩主の弟・松平定敬も慶勝を疑う。尾張藩内の勢力争いでは下の弟・定敬とも溝が深い。さらに結局、新政府軍に抵抗し敗れた容保、定敬をなんとか助けようと努力する。
単行本:2017年12月文藝春秋刊
奥山景布子(おくやま・けいこ)
1966年愛知県生まれ。2007年「平家蟹異聞」(『源平六花撰』所収)でオール讀物新人賞受賞
名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。高校教諭、大学専任講師などを経て創作を始める。
2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞。
2009年、受賞作を含む『源平六花撰』で単行本デビュー。
2018年、本書『葵の残葉』で新田次郎文学賞、本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
左右に大きく揺れる時代の中、立場の異なる4人を書きわかるのは至難の業だ。4人名前がコロコロ変わることもあり、話が複雑すぎ、結局、歴史の概説風になってしまっている。事件を絞って、より詳細に書き込んでほしかった。
それでも、登場する殿様たちの個性が、実際がどうかは別にして、はっきり描き分けられていた。例えば、慶喜の、優秀であることは間違いないのだろうが、言っていたことをあっさり覆す、他人がどう思うかをまったく考えないなど変人ぶりがはっきり分かる。
名前が頻繁にかわるので、ややこしい。おまけに養子で他家に移る場合も多く、ややこしいことこの上ない。名前だけでも、例えば、慶永(春嶽)などと良く知られた名前を( )内に書き足して欲しかった。