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hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

川上弘美『神様2011』を読む

2012年01月29日 | 読書2

川上弘美著『神様2011』2011年9月講談社発行、を読んだ。

2編よりなる40ページ足らずの短篇集。前編は、川上弘美のデビュー作である「神様」がそのまま収められている。後編は、大震災、原発事故以降の設定で、「神様」にごく一部を追加している。

神様
隣に引越してきたくまは、同じ階の住人に引越し蕎麦と葉書を渡してまわる。「ずいぶんな気の遣いようだと思ったが、くまであるから、やはりいろいろとまわりに対する配慮が必要なのだろう」
その後、くまと川原まで散歩に出て帰るという話で、くまが人間並に登場するが、その点を除けば、何でもない日常がほのぼのと描かれる。昔気質のくまが生きていくことの辛さをなんとなく漂わせる。万物に宿る神、例えばトイレの神様と同じように、くまの神様の話なのだ。

神様2011
一見平和な日常が描かれる「神様」の中に、防護服、ガイガーカウンターなどが挿入されている。

例として、出だしの部分で、「神様」にはなく、「神様2011」に挿入されている部分を( )で示す。

春先に、鴫を観るために、(防護服をつけて)行ったことはあったが、暑い季節にこうして(ふつうの服を着て肌を出し、)弁当まで持っていくのは(「あのこと」以来、)初めてである。散歩というよりハイキングといったほうがいいかもしれない。



最後の部分にも、「眠る前に少し日記を書く」次に、「総被爆線量を計算する」という行為が付け加わっている。

「神様2011」には、「神様」のなにげない日常にも原発事故がしっかり異常な影響を及ぼしていることが描かれている。
川上さんは、「あとがき」でこう述べている。

原子力利用にともなう危険を警告する、という大上段にかまえた姿勢で書いたのでは、まったくありません。それよりもむしろ、日常は続いてゆく、けれどその日常は何かのことで大きく変化してしまう可能性をもつものだ、という驚きの気持ちをこめて書きました。





初出  『神様』:中公文庫、「神様2011」「あとがき」:「群像」2011年6月号



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

ほんわかした「神様」の日常の中に、いままで馴染みがない放射能が突然忍びこんでしまったことがわかりやすく、不気味な形で示されている。そのアンバランスが面白く、日常ってなんだ?とあらためて思う。

あとがきで川上さんがウランについて解説しているのがわかりやすい。さすが理系??



川上弘美の略歴と既読本リスト



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