西式豊著『そして、よみがえる世界。』(2022年11月20日早川書房発行)を読んだ。
表紙の裏にはこうある。
医療テック企業、SME社が開発した脳内インプラント〈テレパス〉によって、介助用ロボットや仮想空間〈Vバース〉でのアバターの直接操作が可能となり、身体障害者の活動範囲は大幅に拡大した近未来。
事故で脊髄を損傷しテレパスユーザーとなった脳神経外科医の牧野は、かつての恩師で、現在は同社の役員である森園からオペの代理執刀の依頼を受ける。記憶と視覚を失った少女エリカに視覚再建装置を埋め込む手術は無事成功したはずだったが、術後エリカは謎の黒い影の幻に脅かされるようになる。そして院内では新たな事件が起こり、経営陣の一人が犠牲に……。
仮想と現実のはざまで少女を翻弄する幻影の、その驚愕の正体とは⁉
第12回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。
2036年という近未来を舞台に、SFであり、ミステリーでもある。
主人公は脳神経外科医・牧野。暴漢に襲われて脊髄を損傷し、首から下が動かなくなったが、脳内インプラントを埋め込み、介助用ロボットや仮想空間でのアバターを操作できるようになった。
先端的な医療技術開発企業SMEの役員で恩師の・森園から牧野に、失明している16歳の少女・恵理花(仮想空間ではエリカで、代替人格は4歳のうさ子)に、人工的な視覚システムを埋め込む手術をしてほしいと依頼された。手術は成功したが、少女は黒い影に脅かされ、不審な死や、メタバースに異変が起こる。
仮想現実:コンピューターによって作られた人工的な世界
メタバース:三次元の仮想空間
アバター:仮想空間での自分の分身
〈テレパスシステム〉:医療テクノロジー企業SMEが開発。皮質脳波検出インプラントを頭蓋内に埋設し、代替身体〈パボット〉を操れるようになり、自身の介護をすることも可能となる。
〈Vバース〉:SME社運営の仮想空間。全世界で七億人以上が利用。
〈セブンドワーフス〉:SME社を運営する七人の幹部
SME社
篠原:会長、藍坂保人:社長、藍坂詠時:CIO、保人の弟、森園:研究病院担当役員、鈴井のばら:開発部門担当役員、瀧本:役員、脳神経科学者、本荘香苗:役員、精神科医
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
絶えずどちらの空間の話なのか、読者に示されるのだが、現実空間と仮想空間が細かく切り替わるので、ややこしい。仮想空間での話などは、結局どうでもいいのではと思ってしまうが、そうではなく、この本の主体は仮想空間にあるのだ。
仮想空間でのアバターが傷つけられるなどの変化が、現実空間での対応する人物にどうような影響があるのかがはっきりしないので、話に乗っていけない。
西式豊(にししき・ゆたか)
1967年生まれ。東京都在住。成城大学経済学部卒。中小企業診断士。公認内部監査人。現在はメンズアパレルブランドの企画運営に携わる。
2022年、『そして、よみがえる世界。』で第12回アガサ・クリスティー賞大賞を受賞し、作家デビュー。