hiyamizu's blog

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藤井一至『大地の五億年』を読む

2022年10月01日 | 読書2

 

藤井一至著『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』(ヤマケイ文庫2022年7月5日、山と渓谷社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

今から5億年前、地球上に「土」が誕生した。ひたすら土を食べて土壌を耕すミミズ、岩を溶かすように進化したキノコ、土で塩分を補給するオランウータン……。土は動植物の躍進を支えるとともに自らも変化し、恐竜の消長や人類の繁栄に大きな影響を及ぼしてきた。土の中に隠された多くの謎をスコップ片手に掘り起こし、土と生き物たちの歩みを迫った壮大なドキュメンタリー。文庫化にあたり書き下ろしのあとがきを収録。

 

山と渓谷社」の新書発行時の内容紹介も引用。

生き物たちの営みを「土」から理解するための一冊。
生命の進化・絶滅から、生き物たちの共生関係、そして農業という人の営みや戦争の原因まで。
「土」から考えてみれば、そういうことだったのか! と納得できることがたくさんあります。
5億年前、岩石砂漠だった大地に生まれた土。
本書では、土壌学者である著者が世界中を飛び回って見て来た土を訪ねながら、その歩みを追います。
土をめぐる自然現象の精緻さと、過酷な条件下でたくましく生きてきた動植物、そしてヒトへの驚きと感動が詰まった一冊です。

 

 

まえがき

多くの惑星は岩石の風化によって生まれた砂や粘土で覆われている。地球の歴史46億年の中で、41億年目まで地球にも土はなかった。今から5億年前に植物が陸に上がったことで、砂や粘土に腐った動植物遺体が混ざり、土が生れ、緑と土に覆われた大地が誕生した。この土が、植物、昆虫、動物、人間を養い、逆に土も養われている。土壌の生成には数百年から数百万年かかり、現在では、平均すると厚さ1メートルになって大地を覆っている。しかし、人口増加、経済高度化などによる砂漠化、酸性雨、熱帯雨林の減少など土は危機に瀕している。

 

プロローグ 足元に広がる世界

一般には、土壌とは岩石の風化によって生まれた砂や粘土に腐った動植物遺体が混ざったものと定義される。

土壌の生成には数百年から数百万年かかる。

雨が少ない砂漠では蒸発などで炭酸カルシュウムを含んだ水が上昇し、水を失ったところで沈殿し、土はアルカリ性となる。雨が多い森林地帯の土は、炭酸カルシュウムは流れ、弱酸性になる。また、植物や微生物が放出する酸性物質によって土は徐々に酸性に変わっていく。

 

 

第1章 土の来た道:逆境を乗り越えた植物たち

池で浮いていた藻が陸に上がりコケになった。コケや地衣類は有機酸を放出して岩を溶かして初めての土を作った。

(赤毛のアンの舞台・カナダ東海岸のプリンスエドワード島の土は鉄酸化物により赤い。4億年前、プリンスエドワード島は赤道近くにあって熱帯土壌だった。その後、2億年かけて赤道を渡り現在の位置まで移動したのだ。)

3億年前、樹木(裸子植物)は木質成分・リグニンを生みだし、幹の強度を高めて高くなり、風雨に強く、害虫への防御力を高めた。土の微生物はリグニンを含む植物遺体はまずく食べ難く、土の中に倒木や落ち葉などの有機物が蓄積した。これらが石炭となった。

2.5億年前、白色腐朽菌によりリグニンを分解し、木材を白く腐らせるキノコが生れ、有機物が分解され始め、石炭蓄積時代を終らせた。
(キノコとは、飯食のためキノコ(子実体)をつくる微生物で、担子菌(たんしきん)や子(し)のう菌の総称)

 

亜熱帯の林では雨が多く、土や岩石を風化させ、カリウムやカルシウムを流し、酸性になり、長年の後には栄養分の少ないアルティソル(究極の土)になる。

熱帯の土は貧栄養で、肥沃な表土は薄く、その下には風化した養分の少ない土がある。雨が多く酸性になるほかに、さらにリンが欠乏する。熱帯では岩石の風化が早く、土壌にリンを供給する岩石が少ない。

 

第2章 土が育む動物たち:微生物から恐竜まで

落ち葉は10%ほどの美味しい成分と90%の食べにくいセルロース(多糖類)とリグニン(木質成分)からなる。微生物は分解酵素「セルラーゼ」を出してセルロースをグルコース(ブドウ糖)に分解しエネルギー源にする。ヒトはセルラーゼを持たず、野菜の主成分・セルロースを消化できず、腸内細菌で分解しエネルギーを得るしかない。ヒトの腸内細菌は1.5Kgにもなる。

 

第3章 人と土の一万年

現在の日本では窒素肥料が過剰で余った窒素は硝酸に変わり、土の酸性化を進める。

 

第4章 土の今とこれから:マーケットに揺れる土

日本では、窒素肥料を硫安タイプから多少高いが尿素タイプに代えることで酸性化のリスクは少なくなった。

 

文庫版あとがき

土を耕し過ぎると10年のうちに厚み1㎝の土が失われるが、その土が再生するには100年から1000年の時間がかかる。持続的に土を利用できなければ、ニューヨークも東京も、メソポタミア文明の廃墟と同じような末路をたどるかもしれない。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

土の不思議に興味がある私のような変わり者は是非読んで欲しい。

 

ただし、過去と言っても5億年もの歴史をたどるので長い話になる。余談が多く、話は面白いのだが、途中で本筋が見えなくなりそうになる。

 

内容としても、岩石、キノコなどの菌類、材木や作物、ヒトなどの動植物が複雑に絡み合い、進歩したり、退歩して消えて行ったり、歴史的経緯と共に複雑な関係を説明しているので、ややこしすぎる。

 

 

藤井一至(ふじい・かずみち)

1981年富山県生まれ。

2009年京都大学農学研究科博士課程修了。京都大学博士研究員、日本学術振興会特別研究員を経て、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員。
専門は土壌学、生態学。

インドネシア・タイの熱帯雨林からカナダ極北の永久凍土、さらに日本各地へとスコップ片手に飛び回り、土と地球の成り立ちや持続的な利用方法を研究している。

第1回日本生態学会奨励賞(鈴木賞)、第33回日本土壌肥料学会奨励賞、第15回日本農学進歩賞受賞。『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)で河合隼雄賞受賞。

 

 

レゴリス:砂や粘土の堆積層

地衣類:カビ(菌類)と藻類が共生した生き物

泥炭:植物遺体が分解されずに堆積した土壌。ピートモス(園芸用の土)。

 

日本は海に囲まれた小さな島国で、3千メートル級の山から海へ急流が流れる。明治政府のお雇い技術者ヨハネス・デ・レーケは「これは川ではない、滝だ」と言ったという。

 

コメント (2)
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