hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

柚月裕子『慈雨』を読む

2018年07月19日 | 読書2

 

柚月裕子著『慈雨』(2016年10月30日集英社発行)を読んだ。

 

群馬県警を定年退職した元刑事・神場は在職中に関わった事件の被害者の供養のために58歳の妻・香代子と共にお遍路で四国を巡っていた。家には一人娘の幸知、12歳になる犬のマーサが留守番だ。


二人は巡礼を進めながら、30年近く前、県北の僻地・夜長瀬(やながせ)の駐在所で始まった新婚生活や、尊敬する先輩を見舞った不幸を思い出す。神場は、数々の労苦を担わせ、にもかかわらず明るさを失わない妻を改めて思う。それだけに娘には刑事の妻になって欲しくないと強く思う。

16年前の小学校1年生の純子ちゃん殺人事件で、神場は遺体を発見し、犯人は逮捕された。しかし、えん罪ではないかとの疑われる事実があり、今も神場は十分な捜査ができなかったと自らを責め続けているのだ。

 

そこへ、TVのニュースで、小学校1年生の愛里菜(ありな)ちゃんの遺体が発見され、群馬県警が捜査本部を立ち上げたと知った。16年前の純子ちゃん事件との関連が気になって、神場はかつての部下、32歳の緒方に電話を入れ、現況をたずねた。手がかかりは遺体発見現場近くで目撃された白い軽ワゴン車だけだった。しかも、その足跡はNシステムでも皆目つかめなかった。

緒方と幸知は半年前から付き合っていたが、神場は緒方を買っていたのだが、・・。

捜査本部の指揮は、県警捜査一課長の鷲尾で、彼は神場とともに純子ちゃん事件の捜査にあたり、ともに苦渋をなめた仲なのだ。

しかし、神場は、巡る地元の人の親切に触れ、罪を悔いる遍路の人の苦悩を聞いて、徐々に心が溶けていった。緒方からの捜査状況の進捗ははかばかしくなかったが、たまたま子供がおもちゃの車を箱にしまうのを見て、Nシステムの盲点に気づき、事件は解決へ進んでいく。

 

初出:「小説すばる」2014年12月号~2015年12月号

 


私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

愛里菜ちゃん事件の捜査は群馬県警で緒方、鷲尾を中心に行われ、神場は直接今回の事件に関与せず、純子ちゃん事件を思い出しながら、妻とともに四国の札所を巡るだけだ。

巡礼の旅の途中途中で過去の事件捜査を思い起こし、妻への態度を反省し、時に緒方から現在の事件の捜査状況を聞き出す。この二重構成が面白い。
そして、最後に神場の気付きが行き詰まった捜査を一気に進展させる。


しかしながら、神場の考え方はいくらなんでも、古すぎて、ついていけない。16年前の事件の再捜査をしないことは当時の幹部の判断であり、一刑事の神場が罪悪感を持つ必要はない。彼が責任を感じて、全財産を差し出して償おうとすることは理解できない。また、神場が妻へ何も語らない態度は、あまりに時代錯誤だ。現代の話としては、無理があると思う。

 

 

柚月裕子 経歴&既読本リスト

 

 

 

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