綿矢りさ著『ウォーク・イン・クローゼット』(2015年10月28日講談社発行)を読んだ。
デビューから10年、まだ子供と思っていた綿矢さんも、はや31歳。いつの間にか結婚をしたらしい。
新進陶芸家が女ストーカーの影に悩む「いなか、の、すとーかー」と、男性の好みに合わせて服を選ぶOLの「ウォーク・イン・クローゼット」の中篇2作。
「いなか、の、すとーかー」
主人公の石居透は、東京の美大卒業後、師匠のもとで若くして賞を取った陶芸家。郷里・小椚(こくぬぎ)村に戻り、工房をかまえる。村には幼馴染みの、同い年の農家の息子すうすけと、石居をお兄ちゃんと呼ぶ果穂がいる。
砂原美塑乃はいつも石居の個展にやってきて意味不明で一方的な愛を語るストーカーだ。テレビ出演した彼の居所を突き止めた砂原は勝手に工房に侵入し、ろくろを回していた。そして、事態はどんどん不穏な方向へ走っていく。しかし、実は・・・。
「ウォーク・イン・クローゼット」
主人公・早希は、28歳、彼氏なしのOL。大失恋を経験し、男性受けの良い清楚なモテ系ファッションを着る。デート先や男性に合わせて、あれこれと半日費やしてクローゼットに並ぶ服を選ぶ。
純粋に“好き”を一番にして選んでいたころと違い、現在の私のワードローブは“対男用”の洋服しか並んでいない。・・・セットをさらに世界観ごとにグループ分けするころには、どこに着ていくか、誰に会うための服かがすでに決まってる。すると、服が男に見えてくる。
一方、幼なじみの売り出し中のタレント“だりあ”のマンションには、早希には夢のような服がぎっしりつまったウォーク・イン・クローゼット部屋がある。
そんなふたりのままならぬ恋愛と複雑な友情、事件。
初出:「群像」2013年11月号、2015年8月号
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
評判の若き陶芸家を撮影するTVカメラのもとで、要求される演技に対し、石居が芸術家らしく見えるようにあれこれ考える様が見事に描かれる。やはり綿矢さんは細かな描写が上手く、始まり方も相変わらず工夫されている。
TVで取り上げられて、本人のつもりとは全く別の、良くも悪くも思いもよらぬ反響を受ける。10代で注目の作家デビューした綿矢さん自身の経験が感じられる。
無理して意外な展開に持っていったために、最後の方はバタバタでわざとらしさが目立つ。やはり綿矢さんにはダイナミックな話ではなく、静かで小さな世界の微妙な描写を期待したい。
2編目の作品は、平凡な女性と有名人の美人の幼馴染の良くある話で、恋愛話も結末が予想できる。洋服にかける女性の執念がたっぷり描かれているが、細部描写も私には興味がわかない。
綿矢さんには、平凡だが穏やかな結婚生活を経ての夫婦の日常描写を期待したい。
綿矢りさ(わたや・りさ)
1984年、京都市生まれ。
2001年、高校生のとき『インストール』で文芸賞受賞、を受けて作家デビュー。
2004年、『蹴りたい背中』で、芥川賞を史上最年少で受賞。
2006年、早稲田大教育学部国語国文学科卒業。
2007年、『夢を与える』
2010年、『 勝手にふるえてろ』
2011年『かわいそうだね?』 で大江健三郎賞受賞
2012年、『しょうがの味は熱い』、『ひらいて』
2013年、『大地のゲーム』、『憤死』