山岡ヒロアキ著『九番目の雲』(2015年10月29日講談社発行)を読んだ。
講談社の宣伝は以下。
中堅メーカーの営業マン、吾郎、37歳。
パワハラの嵐が吹き荒れるオフィスでは、ターゲットにされた同期の大江が失踪したとの噂が……。
また、近くに住む老いた母にはアルツハイマーを疑わせる兆候が現れ、それをきっかけに妻子との間には微妙なすきま風が吹き始める。
若き日に夢破れ、人を傷つけることも傷つけられることも避けて、ただただ日々を消費するように生きてきた吾郎が、この二つの出来事をきっかけに、自分らしく生きるとはなにか、自分にとって大切なことはなにか、自分にとって大切なのは誰なのかに向き合い、つまずきながら、答えを探していく。
ちなみに、クラウド・ナインとは英語で入道雲のこと。冒頭、一緒に風呂に入った息子が発したひと言から、主人公・吾郎の心に、この入道雲という言葉がひっかかり続ける。英語では、七階層ある天国のその二段階上ということから、「最高に幸せ」という意味もある。テンプテーションズ、ジョージ・ハリスンらが同名の曲、アルバムを発表している。
「ねぇ、パパはさ、入道雲がぐんぐん迫ってくるのを見たことある?」
8歳の息子、和也から、主人公の吾郎は尋ねられ、「そりゃ、あるさ」と答えた。さらに「えっ、ホント? あのさ、空が暗く――」と話しかけようとした和也を、吾郎は途中で遮ってしまい、息子と向き合おうとはしなかった。
冒頭部分のこの話が一つのテーマになって話は進む。
次に、主人公が勤める会社の部長の部員いじめが続き、母親の認知症による家庭のバタバタが同時進行する。
高梨吾郎:若いときのやんちゃがなくなりかけている。カヅミ精機の営業、8歳の和也の父親。
高梨理恵子:吾郎の妻。理想的な妻だがごく自然。
奈央子:吾郎の妹。
北川:カヅミ精機の営業本部長。何人かの部員の言葉尻を歪曲して怒鳴り散らす。
大江:カヅミ精機の営業で、繊細で優秀だが、北川にいびられる。
野風増(のふぞ):「おまえが20才になったら 酒場でふたりで飲みたいものだ」と河島英五が唄う歌。岡山県の方言で生意気とかやんちゃ坊主の意味。
初出:アプリマガジン「小説マガジンエイジ」で2014年7月から12月まで連載。
山岡ヒロアキ(やまおか・ひろあき)
1961年、東京都新宿区生まれ。東京都立大学附属高等学校(現桜修館中等教育学校)卒業後、イタリアン・レストラン等で調理師の修行を積み、巨匠といわれるバーテンダーの元で技術を磨いたのち、26歳で麻布十番にバーを開業。
2007年、自分の在り方に疑問を感じ、ここが潮時とそのバーの20周年を跨ぐ寸前で引退。周りを裏切り続けてきた自分に対する禊として、バーで垣間見てきた幾多の人生模様を物語として世に残せないかと作家を目指す。この『クラウド9~九番めの雲』がデビュー作となる。
私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)
面白く読めるのだが、デビュー作で粗削りな点が目立つ。
家族の静かな愛情(男親が息子に感じる愛おしさ、母の認知症など)、会社内の厳しい争い、かってのやんちゃ仲間の友情などが入り混じり、底流にあるメインテーマがはっきりしない。
内容にも、説明不足でわかりにくい表現も散見される。殺人になろうとする暴力シーンも全体のトーンから大きく外れていて、枝葉が多すぎる。
吾郎が本来の男気を失おうとしていたとき、家族、会社で困難が生じて、立ち直るという大きな流れをもっとくっきりさせていたら、いい作品になっていただろう。