hiyamizu's blog

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浅田次郎『憑神』を読む

2016年02月18日 | 読書2

 

浅田次郎著『憑神(つきがみ)』(新潮文庫あ-47-3、2007年5月1日発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

時は幕末、処は江戸。貧乏御家人の別所彦四郎は、文武に秀でながら出世の道をしくじり、夜鳴き蕎麦一杯の小遣いもままならない。ある夜、酔いにまかせて小さな祠に神頼みをしてみると、霊験あらたかにも神様があらわれた。だが、この神様は、神は神でも、なんと貧乏神だった! とことん運に見放されながらも懸命に生きる男の姿は、抱腹絶倒にして、やがては感涙必至。傑作時代長篇。

 

 下級武士の次男坊・彦四郎は、直心影流免許皆伝、学問にも優れていて24歳で無事実家より大身の井上家へ婿入りした。妻・八重とも仲むつまじく暮らしていたのだが、息子・市太郎が生まれると、種馬の役目は終わったとばかり婿いびりされ、ちょっとした事件をもとに離縁され、貧しい実家の居候となった。彦四郎はやる気のない兄、口うるさい兄嫁、兄夫婦の息子、年老いた母と暮らしている。

 

 彦四郎は出世したいとも、禄が欲しいとも思わなかったが、婿入り先に残して来た妻と子を取り戻したいと思っていた。なじみの蕎麦屋の親爺から、出世のご利益があるという三囲(みめぐり)稲荷の話を聞き、ちょっと違うが近くにある三巡稲荷を見つけて手を合わせると、貧乏神、疫病神、〇〇神が、・・・

 

 以下、幕末の武士の気位も底になっていく時代の中で、禄は微小だが、いざというときには将軍を守る影武者となる御徒士として凛として生きようとする彦四郎は、貧乏神などに果然として立ち向かう姿が描かれる。

 

 2007年、降旗康男監督、妻夫木聡の彦三郎で映画化、舞台化もされた。

 

初出:2007年9月新潮社より刊行

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 文句なしに面白く、ちょっぴり考えさせる。

 変わりゆく社会、不運な運命の中で誇りを持ち続けようとする彦四郎と、ちょっととぼけた神様たち、心砕けてしまった下級武士たち。前半のとぼけたユーモア、底流に漂う悲哀が、後半に至り、人として生きる糧は何かと考えさせる。

 

 手練れの浅田次郎に反感を思えながら、一気読みしてしまった。無念!

 

 

浅田次郎の略歴と既読本リスト

 

 

磯田道史氏の解説によれば、

徳川将軍家は、家康以来の家風として、非常に用心深いところがある。戦いに勝ったときのことばかりでなく、将軍がぼろぼろに負けて逃げるときの用意まで、よく考えていた。

 

 御徒士につねに黒羽織を着せていて、襲撃を受けた将軍も同じ黒羽織を着て逃げたという。

また、『徳川実紀』にも、家康が息子の秀忠が熱心に剣術の稽古をするのをみて、「敵を防ぐのは家来の仕事である。将軍はまず逃げることを心がけられよ」といったのだという。

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