ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~罪人の過去と、今の彼~

2013-04-03 | 散華の如く~天下出世の蝶~
茶葉が開く間、五兵衛は目を閉じ、腕組みをした。
おそらく、正確な、刻限を量っているのであろう。
濯いだ茶器の湯を空布巾で丁寧に拭い、盆に置く。
五兵衛「んにしても、えぇがかよ」
閉ざされた彼の瞼はゆっくり開かれたが、
神妙な顔付きと腕組みはそのままだった。
帰蝶「何が?」
端女(召使)のいない竈に私と五兵衛が二人きり。
吐息の間を縫って、ぱちぱち燻る竈の炎が鳴る。
五兵衛「んゃ、んでんもネェ」
腕組みを外すに肩を竦め、急須を包む布を取った。
そして、急須を手に、ちょぽぽ…琥珀を流し淹れ、
ぽちゃん、最後一滴セイロンの花咲く音が響いた。
帰蝶「何か…不自由あれば、何なり申せな」
五兵衛「さぁ…ってと、後、出来ンだろ?」
二人分のセイロンティを持って、
帰蝶「ちょっと待て」
茶棚に潜む南蛮菓子マコロン(マカロン)を添えた。
五兵衛「んだ?」
帰蝶「ボウロを似せて作らせた砂糖菓子、子らの薬じゃ」
五兵衛「薬?」
帰蝶「チラつかせるとな、チンとなる」
五兵衛「ふ…ンじゃま、チンとすっか」
勝手口から、大きな背中がこそそ…と出て行く。
彼を見送り、鳴りを潜めていた侍女が顔を出す。
こい「御方様、茶を御所望なら、我らに…」
帰蝶「そなた、セイロンを淹れられるか?」
こい「…あの者は罪人。御控え下さいますよう…」
帰蝶「今は、殿の御味方である。そなたが控えよ」
端女も、女中も、侍女も皆、彼の過去に冷たかった。


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