そういう女のアピールがアプローチに変わって、好きでもねぇ女と暮らす羽目になった。
「…ごめんなさい…」
妊娠…?
「…今日は、これで帰って」
まぁ、色んな男相手にしてりゃ…、
「下ろすのが、怖くなったの」俺より、三つ四つ年上だろうな、この遊女 名は菖蒲(あやめ)。落ち着かないのか、右手が震えていた。
カタカタ震える手で、煙管(キセル)を持ち、煙草の葉を丸めて火種を作った。
火皿に入れて、
ん…、と煙を吸い込み、
けほッ、けほッ…と咽(むせ)た。
肺に入れちまって、慣れねぇ煙管なんて吸うからだ。
咳が止まったら、ふぅ…と、物憂げに感情を煙に巻いて、一息付いた。
「“…もう慣れたと思ったわ”」
カツンッ…、煙管の柄を灰皿に打ちつけ、火種を出した。
煙管にも慣れねぇ、堕胎も慣れねぇってか。
出せよ。持ってんだろ?
案の定、菖蒲は、朝顔の実を持っていた。
男相手にする前に、下ろしとけって、女房(主人)から渡されたんだろうな。
俺は、その実を火皿の火種で焼いた。
じ…と、鈍い音がしたかと思ったら黒い煙が出て、
くせぇ。
鼻を刺すような異様な臭いが部屋に充満した。
煎じて粉にすりゃ麻酔だが、遊女にとっては悪魔の実。
ガキを身籠ると半日川に浸かるか、二階から落ちるか、これを食って下ろすらしい。
遊女の『堕胎薬』…朝鮮朝顔の実、初めて見た。
菖蒲は黒く焦げた薬を、ただ黙って眺めていた。
ここで焼いても、新しい実を渡させれ、下ろせ、下ろせって、せっつかれんだろうな。
客の前で、そんな顔すんなよ。気分悪ぃ。
さて、気分を変えて、