疑念を払拭できるのか 岸田改造内閣が発足 (2022年8月11日 中日新聞)

2022-08-11 22:53:46 | 桜ヶ丘9条の会

疑念を払拭できるのか 岸田改造内閣が発足

2022年8月11日 
 
 岸田文雄首相が内閣改造と自民党役員人事を行った。山積する内外の懸案を処理するには自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を徹底的に調べ、関係を断つことが前提だが、首相はその姿勢に乏しく、国民の疑念を払拭(ふっしょく)するには程遠い。
 安倍晋三元首相銃撃事件を機に霊感商法などの不法行為を行った旧統一教会が百人規模の国会議員と接点を持つことが次々と明らかになった。教団が選挙などの支援を通じて政治家に影響力を行使しているのではないかとの疑念が、国民の政治不信を生んでいる。
 首相は役職への起用に当たり、旧統一教会との関係を「自ら点検し、厳正に見直すことが新閣僚、党役員の前提となる」と述べた。改造前の内閣で教団との関係を認めた閣僚七人は閣外に去った。

教団との関係断たねば

 しかし、改造内閣でも少なくとも四閣僚が教団と関係を持つことが明らかになった。党政調会長に起用された萩生田光一氏も教団関連のイベントであいさつするなど関係が深いとされる。
 最大派閥安倍派の有力議員であることが起用理由でも、党三役に教団と接点を持つ議員を起用するなら、党として「一切の関係を持っていない」(茂木敏充幹事長)と強調しても説得力を欠く。
 国民の疑念は今回の人事では払拭できず、政権として教団との関係を断つ意思を明確にしなければならない。自民党と教団との関係をすべて明らかにし、これまでの政策決定や政権運営に教団の影響力が及んでいなかったか、徹底検証の必要がある。さもなければ、問題を封印するに等しい。
 例えば、安倍政権下の二〇一五年、世界基督教統一神霊協会から現在の名称への変更を文化庁が認めた問題だ。名称変更の申請を拒んできた文化庁がなぜ姿勢を転じたのか、そこに政治家の介入はなかったのか。行政文書の全面開示も含めて調査を尽くすべきだ。
 また、自民党の改憲草案は旧統一教会系政治団体の改憲案と類似していると指摘され、選択的夫婦別姓や同性婚への反対でも軌を一にする。こうした党の政策に教団の影響はなかったのか、国民への説明を尽くすべきだ。政治信条の近さを背景に教団の不法行為を不問に付していたのなら、国民への背信行為にほかならない。
 自民党は党所属の全国会議員に教団との関係を点検し、適正に見直すよう要請したというが、党執行部主導で調査する姿勢を欠く。
 与党の公明党や立憲民主党など野党各党が党として調査し、結果を公表する中、個々の議員任せでは無責任のそしりは免れない。首相は党総裁としての指導力を発揮すべきである。
 今回の人事は旧統一教会との関係清算に加え、安倍氏の強い影響下にあった経済財政や安全保障政策を巡り、首相が独自色を発揮できるか否かの試金石でもある。
 閣僚の顔触れを見ると、首相が看板政策に掲げる「新しい資本主義」担当の山際大志郎氏は続投させる一方、厚生労働、経済産業、防衛、経済安保担当、デジタル担当には安倍・菅政権で閣僚や党幹部を務めた議員を起用した。
 一気に安倍・菅路線からの脱却を図るのではなく、党内の各派閥に配慮して政権基盤を固める必要があるとの判断だろう。
 とはいえ、いつになれば「岸田色」が見えるのか。漫然と政権運営を続けるなら、そもそも首相には成し遂げたいことがあるのか、との疑問が募るばかりだ。
 岸田政権が直ちに取り組むべき課題は山積している。ロシアによるウクライナ侵攻や円安による物価高、新型コロナウイルス感染症の第七波対策、台湾情勢を受けた日中関係の悪化などだ。

国会で議論・説明尽くせ

 しかし、首相は「戦後最大級の難局に直面している」と言いながら、参院選から一カ月がたっても課題審議のための国会は開かず、国論を二分する安倍氏の国葬についても説明を尽くしていない。
 先の臨時国会では、野党が十分な会期を確保して諸課題を審議するよう求めたが、与党が拒否し、三日間で閉会してしまった。
 首相は参院選結果を受け「与野党問わず幅広い視点や現場のさまざまな意見を踏まえ、大胆で機動的な政策を立案する」と述べた。ならば、内閣改造を機に臨時国会を早期に召集すべきだ。国民の意見に耳を傾け、国民への説明を尽くす。それが政治への信頼を取り戻す唯一の道である。