「武漢、捨て石にされた」 封鎖から23日で1か月 (2020年2月22日 中日新聞)

2020-02-22 10:16:01 | 桜ヶ丘9条の会

 

「武漢、捨て石にされた」 封鎖から23日で1カ月 

2020/2/22  中日新聞

 新型コロナウイルスの発生源となった約千百万人の大都市、中国湖北省武漢の封鎖から二十三日で一カ月となる。中国政府は異例の強硬措置によって省外への感染拡大をくい止めたと強調するが、武漢市内は深刻な混乱に陥ったまま。今も連日、百人前後が命を落としている。

 

■限界

 

 同市に住む女性(20)は電話取材に「私が倒れたら一家はおしまいだ」と話す。

 家族五人のうち、おじが感染の疑いで隔離され、父も隔離される予定だ。母と祖父も持病を抱え、感染は命に関わる。「非常事態が終わるまで、家族が耐えられるか分からない」。封鎖によって収入が断たれ、毎日インスタントラーメンしか食べていないという。

 止まらぬ感染の広がりに当局は段階的に市民の外出制限を強めてきた。今月十日からは団地や住宅が集まる「社区」と呼ばれる居住区ごとに出入りを管理する「封鎖式管理」を始め、生活必需品も社区職員が届ける。

 十七日からは当局者が全世帯を対象にした戸別訪問も始めた。発熱のある人などを三日間で見つけ出し、感染者や感染の疑いがある人をすべて隔離する計画だ。習近平(しゅうきんぺい)国家主席が武漢市トップに送り込んだ王忠林(おうちゅうりん)共産党委員会書記は今後、調査漏れが発覚した場合は「各区幹部の責任を問う」と厳命した。

 

■不可能

 

 官製メディアは各地区での「任務達成」を次々に伝えているが、冒頭の女性は「戸別訪問は来ていない」と断言する。同市内の社区で働く男性も電話取材に「全戸を三日間で訪問するなんて不可能だ」とこぼす。

 この社区には約六千戸があり、職員は男性も含めて八人しかいない。各企業などから共産党員が駆り出されているが、男性は「今はトイレットペーパーひとつまで各戸に届けている。人手が足りない」という。

 封鎖以来、男性は毎朝午前八時から翌未明三時ごろまで働くことも珍しくない。感染者に入院先を仲介するなどの仕事もある。

 男性は「住民は苦情ばかりだが、私たちには何の権限もなく、上部機関への報告しかできない。上は怒鳴るだけで報告はたらい回しだ」と不満をつのらせる。

 

■犠牲

 

 当局の対応は後手に回った。体育館や展示場を軽症者の収容施設に改装する作業は二月三日にようやく始まった。重症者用の病院二カ所を突貫工事で完成させたが、一カ所は完成から一週間で雨漏りした。病床不足が続いた病院は軽症者を受け入れず、家庭や地域に取り残された人から感染が拡大した。家族全員の感染も珍しくなく、映画監督の常凱(じょうがい)氏(55)の一家は五人のうち、本人も含め四人が死亡した。

 当局は全国の医療関係者の一割に近い三万二千人が湖北省の支援に駆けつけたというが、今もネット上には助けを求める市民の書き込みが絶えない。「肺炎以外の重病人はどうでもいいのか」。腎臓病の母(65)を抱える男性は電話口で、人工透析ができる病院が見つからないと怒った。

 王毅(おうき)国務委員兼外相は十四日、ロイター通信の取材に対し湖北省以外で新たな感染者が減少していると強調し、「中国は世界の公共衛生のために犠牲を払った」と胸を張った。しかし武漢だけでも死者数は二千人に迫り、「武漢は捨て石にされた」(北京の人権活動家)との批判も出ている。

 (北京・中沢穣)