政策選ぶ「消費者」として 週のはじめに考える (2020年2月2日 中日新聞)

2020-02-02 10:35:11 | 桜ヶ丘9条の会

政策選ぶ「消費者」として 週のはじめに考える 

2020/2/2 中日新聞

 私たちは「主権者」であると同時に、行政サービスを受ける「消費者」でもあります。安倍晋三首相率いる自民党の「一強」支配が続き、どんな弊害が出ているか。視点を変えて考えます。

    ×    ×

 日本の国家予算は二〇一九年度当初と補正を合わせて百四兆六千五百十七億円。これを一九年七月参院選時の有権者数一億五百八十八万六千六十四人で割ると九十八万八千三百四十二円になります。

 単純な計算ですが、十八歳以上の有権者一人の一票が、百万円近いお金の使い道を決めることになります。一票の持つ意味は、それほど重いのです。

 

商品選べぬ市場の独占

 

 私たち有権者が投票する際、参考にするのは候補者や政党が訴える公約、政策や理念です。どうすれば暮らしはよくなるのか、将来の不安をなくすにはどうすればいいのか…。いろいろ考えながら、公約の是非や実現性などをじっくり比較して選びたいですよね。

 でも、時々不安に思うのです。しっかり選べるだけの選択肢が私たち有権者に示されているのだろうか、と。特に、一二年の政権復帰後、安倍自民党が国政選挙で勝ち続けるたびに、その不安は大きくなっています。「一強」ゆえの不安、弊害と言っていいのかもしれません。

 例えが適切かどうか分かりませんが、私たちが「消費者」としてある商品をお店に買いに行き、そこには一種類しか商品がないと仮定します。

 その商品をつくる企業は一社しかなく、市場を独占している状況です。商品の品質はそれほど良くなく、値段も決して安くはありませんが、ほかに選択の余地がないので、背に腹は代えられません。

 もし多くの企業が競い合って、同様の商品をつくっていたら、競争によって品質も良くなるでしょうし、価格も安くなるでしょう。市場の競争原理が働くからです。

 

競争原理働かなければ

 

 しかし、独占企業には価格を下げたり、品質を良くしようとするインセンティブ(動機づけ)がありません。そんな努力をしなくても消費者は自分のところの商品を買い続けてくれるからです。

 消費者は結局、余計な支出を強いられたり、不十分な品質でも我慢するしかありません。その商品は生活に欠かせないので、買わないわけにもいきません。市場独占の不利益を被るのは、私たち消費者自身なのです。

 極めて単純化した例ですが、この状況、何かに似ていませんか? そうです。自民党が政権を「独占」し、安倍首相が主導する政策を選ばざるを得ない日本の政治状況そのものです。政権に対する国民の信頼が厚いならともかく、七年以上も続く安倍内閣には、長期政権の「澱(おり)」のような政権疑惑が相次いで出ています。

 官僚による政権中枢への忖度(そんたく)が指摘された森友・加計学園を巡る問題であり、直近では「桜を見る会」での地元支援者への便宜供与疑惑、そして現職国会議員の逮捕に至った「カジノ汚職」です。

 「アベノミクス」と自称する経済政策も、「戦後外交の総決算」を掲げる外交政策も、政権が吹聴するほど目覚ましい成果が出ているわけではありません。

 しかし、自民党は政権復帰した一二年の衆院選を含めて六回の国政選挙にすべて勝利しています。全有権者に占める得票割合を示す「絶対得票率」はいずれも二割程度にとどまり、有権者にそれほど支持されているわけでもないのに、です。

 なぜでしょうか。共同通信社が今年一月に行った世論調査では、安倍内閣を支持する人にその理由を尋ねると「ほかに適当な人がいない」と答える人が最も多く五割近くに達していて、この割合は政権発足当初と比べてほぼ倍増です。

 つまり、安倍首相に代わる指導者や自民党に代わる政権を望んでいる人も、安倍内閣を消極的に選択しているということです。新しい指導者や政権担当能力を持つ政党が出てくれば、消費者が商品を選ぶように、私たち有権者も政権を選択できるようになります。

 

政権の選択肢ない不幸

 

 もちろん、野党が政権の問題点を指摘することは重要です。独占企業の商品に欠陥があることを指摘すれば、商品の改良につながって、結果的に、消費者=有権者の利益を守ることになるからです。

 でも、新しい商品が市場に出回らなければ、消費者は独占企業の商品を買い続けなければなりません。いつまでも、いつまでも。

 野党は今、勢力が分散していて政権交代の展望は開けていませんが、政権追及に加えて、政策や政権の現実的な選択肢を示すことにも力を入れてほしい。有権者の多くもそれを待ち望んでいるのではないでしょうか。政権や政策が選択できない政治状況がいつまでも続くなんて、御免蒙(こうむ)りたい。