「日本で働く理由ない」外国人技能実習、海外で悪評

2018-11-27 11:29:13 | 桜ヶ丘9条の会
「日本で働く理由ない」 外国人技能実習、海外で悪評 

2018/11/27 中日新聞

 外国人労働者を増やすため、政府が早期成立を目指す入管難民法などの改正案。今後五年で最大三十四万五千人を受け入れるとしているが、この土台となる外国人技能実習制度の悪い評判が海外に広がり、日本での就労意欲をそぐ事態になっている。発展途上国支援の名目だが、実態は「出稼ぎ者」に低賃金で働いてもらう制度。労働者の人権侵害に目を背けてきたことのつけが回ってきている。

 「仕事はほぼ立ちっぱなしで、座ればしかられた。五〇度近い高温の中、薬品のにおいが息苦しくて…。逃げ出したいと思った」

 二〇一三年九月から約一年間、技能実習生として岐阜県の工場で働いた范博文(はんはくぶん)さん(29)。過酷な体験を中国内陸部の江西省南昌(なんしょう)市から電話で語ってくれた。

 中国のブローカーから「日本で三年働けば三十万元(現レートで約五百万円)稼げる」と言われ、日本行きを決めた。「生まれ育った町は貧しかった。外に出たかった」。ブローカーに現地の年収分に当たる四万六千元(同約七十七万円)を払って来日した。

 中国の送り出し機関から染色の仕事とは聞いていたが、危険な肉体労働とは知らなかった。午前六時半から遅い時は午後十一時まで化学薬品を運び、冷房が効かない真夏も高温の液体で染料を煮て布を染める作業をした。

 手取りの月収は十一万五千円だったが、実習生を受け入れ、企業を指導する監理団体などに四万~五万円をピンハネされた。「あんなに働いたのにがっかり」。工場では「おめえ、ばかか」「国に帰れ」などと罵倒された。「中国人は怠けると思われ、見下す人もいた。このままいれば体を壊してしまう」と三年の予定を切り上げて帰国した。

 中国経済は好調で、南昌でそのまま仕事をしていても遜色ない収入が得られたのではないかと思う。少なくとも重労働や差別に苦しまずに済んだ。「つらい思いをしてまで、日本に働きに行く理由はなくなる」。今もインターネットで日本のニュースをこまめに読んでおり、外国人労働者の受け入れ拡大の議論も「知っている」と言う。

 「技能実習は日本が途上国の貧しい若者をだまし、安い労働力として使う制度だった。そう分かったからもう自分はやらない」

◆「希望は持つな」

 二十一日に参院議員会館の院内集会で発言した元技能実習生の中国人男性(38)も「想像もつかない残酷な働き方だった」と振り返る。〇五年四月に来日し、栃木県の農園で一日十四~十五時間働いた。住宅費として月六万円が引かれ、手取りは七万五千円ほどだった。

 「日本に来ても良い生活はできないし、好きな物も買えない。これから実習生になりたい人には『大きな希望は持つな』と言いたい」と語った。

 外国人技能実習制度は一九九三年に創設。対象職種は農業、建設、食品製造、介護など八十に上る。法務省によれば、今年六月末時点で日本にいる技能実習生は約二十八万五千人。日本の好景気で、二〇一二年以降増え続けている。

 実習生の送り出し国は以前は中国が最も多かったが、近年はより低賃金の東南アジアが増え、一六年からはベトナムが最多。昨年末現在の割合はベトナム45%、中国28%、フィリピン10%、インドネシア8%となっている。

◆「まるで焼き畑」

 違法な低賃金や長時間労働、暴言、暴力など実習生が日本で受けた人権侵害は送り出し国にも「悪評」として広がっている。

 ベトナムの送り出し機関の関係者は「例えば、介護はドイツなどに比べて賃金が低く、条件が悪すぎる。建設業などに応募する人も減っている。会員制交流サイト(SNS)で『あそこの現場はきつい』とか『怒鳴られる』という話が、あっという間に伝わるらしい」と話す。

 十月十三日、日本への技能実習や留学を希望する学生らを対象としたセミナーがベトナムで開かれた。日本大使館の桃井竜介・一等書記官は「ベトナムと日本の悪徳ブローカー、業者、企業がベトナムの若者を食い物にしている」と認め、イメージ悪化を懸念した。

 ルポライターの安田峰俊氏は「今は、過去の先進国日本の良いイメージを切り売りして人を集めているが、技能実習制度の悪評はアジアや欧州の海外メディアにも広がっている。ブローカーや一部の監理団体が搾取する仕組みを早く健全化するべきだ」と指摘する。

 安田氏が取材した中国人実習生の女性は「自分がいない間に中国の経済発展が進んで、完全に損した。もう二度と来ない」と断言したという。母国の経済成長によって日本との賃金格差が縮まれば、日本に行く理由がなくなるのは当然。送り出し国は中国からベトナム、インドネシア、さらにカンボジアやミャンマーへと移っている。「より低賃金を求め、次々に安い労働力を収奪していく。まるで焼き畑農業のよう」といずれは破綻するとみる。

◆「社会の一員に」

 日本とは対照的に、正面から移民政策をとった国がある。ドイツと韓国だ。

 日本国際交流センターの毛受(めんじゅ)敏浩執行理事は「ドイツは一九七〇年代から三十年間、まともに移民政策に取り組まない空白期間があり、定住した外国人労働者とドイツ人の間に大きな心の壁ができ、社会問題化した。その反省から二〇〇五年以降、移民をドイツ社会の一員ととらえる統合政策に転換した」と話す。

 〇五年に移民法が改正され、ドイツ語能力が不十分な移民は六百時間のドイツ語学習などを柱とした統合コースへの参加義務が課された。「日本がドイツの経験に学ばず、外国人労働者を安価な労働力だという固定観念でとらえていると、送り出し側から選ばれなくなるだろう」と毛受氏は言う。

 昨年、韓国で調査した大阪府箕面市多文化交流センターの岩城あすか館長は「韓国には日本より進んだ政策があり今や人気の移住先になっている」と語る。

 岩城氏によれば、韓国もかつて日本の技能実習制度と同様の制度があり、ブローカーによるピンハネやひどい労働環境が国際労働機関(ILO)などから批判を受けた。だが、〇三年に盧武鉉(ノムヒョン)政権が多文化政策に転換。政府が直接受け入れに関与することで、悪質ブローカーを排除した。「韓国人労働者との均等待遇、外国人処遇基本法、多文化家族支援法などを制定。多くの自治体に支援センターがつくられ、子どもらの手に職をつけてもらうプログラムも豊富だ」

 実習生らを支援するAPFS労働組合(東京)の山口智之執行委員長は「日本の労働環境はひどいから行かない」という外国人が増えることを懸念。「安価な労働力の受け入れだけでは失敗は目に見えている。政府は技能実習制度の間違いを認めた上で、『人』の受け入れ政策、『移民政策』として真正面から取り組むべきだ」と話している。

 (安藤恭子、大村歩)

最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (鈴本)
2019-08-04 09:28:50
この記事、興味深く拝見しました。わたしは最近まで近所のスーパーでアルバイトしていたのですが、きつい作業と同僚の悪い態度に耐えられず辞めました。1度上司に
「人手不足できついです。人材派遣会社を使ってはどうでしょう」
と言ったことがあります。
「そんなかねはない」
とのことでした。

私が働いていた店には、外国人労働者が1人もいませんでした。この点は喜ぶべきでしょう。
返信する

コメントを投稿