アベのマスク、流浪の旅 在庫8000万枚、保管費6億円超え (2021年12月8日 中日新聞)

2021-12-08 15:46:44 | 桜ヶ丘9条の会

アベノマスク、流浪の旅 在庫8000万枚、保管費6億円超

2021年12月8日 中日新聞
 新型コロナウイルス対策で政府が昨年、全戸配布した「アベノマスク」など布製マスク8000万枚以上が引き取られず、東京近郊の倉庫で眠っている。昨年8月から“流浪の旅”を続け、この倉庫にたどり着いた。これまでの保管費用は6億円を超え、今後もさらにかさんでいく。会計検査院からも注意を受けた。税金の無駄遣いはどこまで続くのか。 (荒井六貴)
 一日午後二時。倉庫がある東京近郊の駅に着いた。場所をぼかしているのは、それが取材の条件だったからだ。案内役の厚生労働省医療用物資等確保対策推進室の岡譲室長は「倉庫にはマスク以外の荷物がある。騒ぎにもなってしまう」と理由を説明する。
 巨大な倉庫には、大型のトラックから荷物を積み降ろしできる大きな搬入口もある。エレベーターで四階に上がると、目の前に八千万枚を超えるマスクが詰まった段ボール箱の巨大な壁が広がった。
 鉄製ラック(高さ約一・七メートル、横、奥行き約一・二メートル)で、三段に段ボール箱をびっしりと積み重ねている。つまり、段ボール箱の壁の高さは約五メートル。それが、広さ八十メートル×六十メートルほどのフロアを埋め尽くしている。
 「迫力ありますね」。思わずつぶやくと、岡さんも「そう思いますよね」と応じた。大きな地震があっても倒れないのか不安が頭をよぎった。
 段ボール箱を一つ一つ見ていくと、大きさはそれぞれ異なる。側面には輸入元のベトナムや中国の文字、枚数、業者名なども記載されていた。
 至る所に除湿器が置かれている。窓はなく、虫が入ってくることはなさそう。岡さんは「マスクの使用期限は示されていないが、カビなどが生えないようにしている」と話す。ただ、保管期間は一年を超えている。中のマスクはともかく、破れたり、つぶれたりと段ボール箱の傷みは目立った。
 これだけの倉庫と品質を維持する手間。倉庫を管理する日本通運に支払う金額はまだ確定していない。目安になるのは、入札の予定価格。四月からの一年間で他の医療品と合わせ約五億一千万円だった。
 なぜ、倉庫を公開したのか。岡さんは「どういう形で保管しているか国民の関心があるという声があった。隠し立てすることではない」と語った。
 ここにたどり着くまで、アベノマスクは別の倉庫を転々としてきた。
 最初に保管したのは、マスクの配布を担当していた日本郵便だ。昨年八月以降、余った分を保管し、費用は会計検査院によると今年一月末までの契約で約五億二千万円。岡さんは「急に保管をお願いすることになったため、コストが高くなった」と説明する。
 その費用を抑えようと入札で業者を募り、昨年十月に佐川急便と契約。少しずつ日本郵便の倉庫から移し替え、今年三月までに約八千万円かかった。この間、両社に計六億円を支払ったことになる。
 それから今の倉庫に来た。マスクの保管を続ける限り、税金の投入は続く。会計検査院は十一月、保管費用の節減を求めたほか、売却や譲与などで対応するよう求める報告書を出した。
 会計検査院の指摘にどう対応していくのか。岡さんは「マスクが必要な施設があれば随時、配布している。厚労省のホームページには国民からの意見で、使途のアイデアも来ている。これから、どうしていくかは検討していく」と述べた。
    ◇
 安倍晋三元首相が昨年四月、マスク不足の切り札として「全世帯に二枚配布」と打ち出したアベノマスクは、配布の段階から問題続きだった。
 「布製だから何度も洗える」「マスク需要に対応できる」。そんな売り込みだったが、当初の事業費は四百六十六億円。コロナ対策として他にお金の使い道があると非難が殺到した。
 配り始めると、今度は汚れや虫の混入が相次いで発覚した。その影響もあって、予定より一カ月遅れてようやく配布を終えた。そしてマスクを手にした人からは、「小さい」「息苦しい」などの批判が相次いだ。
 この頃には、布マスクを手作りする人が増えていた。効果が大きいとされる不織布マスクの供給も少しずつ増えていた。その結果、多くのアベノマスクは家庭で眠ることに。安倍内閣の閣僚でも、着けている人はほとんどいなかった。顎が出るマスクを、安倍さんがかたくなに着用しているのが印象的だった。
 さらに介護施設や障害者施設、妊婦向け布マスクも調達し、昨年八月から希望を受け付けた。しかし、申し込みは少なかった。その結果、世帯と施設向けで調達した計約二億九千万枚の三割弱が余り、倉庫に積み上がることになった。
 厚労省によると、在庫のマスクは今年十月末時点で約八千百三十万枚余。引き取りの希望があったため三月末時点より百四十万枚ほど減った。このペースで減ると、単純計算で在庫がなくなるのは約三十年後。その間は保管料が必要だ。
 今では布マスクだと、居合わせた人に顔をしかめられることもある。効果を考えれば、不織布マスクを在庫にしたいところだ。大手百円ショップでは、税込み百十円で三十枚入りを売っている。これまでに払った保管料六億円で五百四十五万セット、一億六千万枚超が買えることになる。
 需要、コスト、効果を考えると、アベノマスクを保管すること自体が無駄ではないのか。元経済産業省官僚の古賀茂明さんは「一日でも早く捨てるしかない」と話す。
 すでに国は「配布」と「保管」で二つのミスを犯していると古賀さんは指摘する。「国民の税金をどれだけ無駄にしてきたのか、責任を明らかにし、責任を取らせるべきだ。誰が配布することを決め、保管をやめるという選択ができないのか示し、政策決定過程を検証しないといけない」
 では、なぜ保管を続けているのか。古賀さんは「仮に、捨てることになれば、安倍さんの失敗を認めたことになる。間違いを認めないというのが、役所の最大の問題。安倍さんに、買い取ってもらいたいぐらいだ」と語った。
 捨てるべきだという意見について、前出の岡さんにも聞いてみた。「選択肢の一つではあると思うが、まだ決まっていない」との返答だった。
 マスクとしては不人気のアベノマスクだが、安倍さんのレガシーとして史料的な価値を評価する動きがある。北海道の浦幌町立博物館は昨年、町民らがデザインしたマスクを集めた企画展を開いた。そこにアベノマスクが陳列された。
 担当の持田誠学芸員は「アベノマスクはコロナの時代を象徴し、定着した言葉で、忘れてはいけない。政策をいろいろな角度で検証し、この時代を考える史料として欠かせない。いずれ教科書にも載るのではないか」と狙いを説明する。
 

 


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